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第3章 捏造の始まり:パワハラ懲戒で黙らせる
社長との衝突
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社長室のドアを閉めた瞬間、空気がぶつかった。朝から量産された匿名通報のスクショ、時刻メモ、新人が持ってきた“守秘義務注意喚起”のコピー。机の上に並べた証拠が、きれいに揃えば揃うほど、社長の眉間の皺が深くなる。
「——もういい」
社長が低い声で言った。
「止める。全部、俺が引き受ける」
「引き受ける?」
私はペンを置いた。嫌な予感が、骨に染みる速度で上がってくる。
「社長、それは“守る”じゃなくて“燃える”です」
社長は机の縁に手をつき、前のめりになった。近い。近すぎる。恋愛禁止条項の警報が、頭の奥で鳴る。違う。これは恋じゃない。戦場の距離だ。私は一歩下がらずに言葉だけを鋭くする。
「監査が来た。噂も回った。もう現場は持たない」
「持たせます。だから手続きを——」
「手続き? 本社の手続きで現場が死ぬんだろうが!」
社長の声が上がる。壁の向こうに人がいる。聞かれたら、また燃料になる。私は声を落とした。落とした分だけ、刃を立てる。
「社長。あなたが前に出た瞬間に、向こうは“勝ち筋”を作ります」
「勝ち筋?」
「“社長が揉み消した”“社長が告発者を匿った”“本社人事が社長に取り込まれた”。匿名通報の文面、もうその方向に整ってる」
社長の目が一瞬だけ揺れた。怒りじゃない。痛みだ。守る側の痛み。
「だからこそ、俺が矢面に立つ」
「矢面に立たないでください。矢面に立ったら、後ろにいる人が全部焼けます」
私は机の上のコピーを指で叩いた。
「見てください。“守秘義務”の紙。新人に署名させて、言い方まで指定してる。これ、自然現象じゃない。仕組みです。あなたが燃えたら、仕組みは喜ぶだけ」
社長が唇を噛む。
「じゃあどうすればいい」
低く、吐き捨てるみたいに。でもその中に、助けを求める音が混じった。——危ない。そこに反応したら、距離が変わる。私は呼吸を整える。
「あなたは“現場”を押さえてください」
「現場は俺の仕事だ」
「そう。あなたの強みは、そこです」
私は続ける。
「私は“手続き”を押さえます。監査の窓口、匿名通報の量産、想定問答、署名。全部、時系列で繋げる。切り貼りできない形で、“仕組み”として提示する」
「そんなことしたら、本社が——」
社長が言いかけて止まる。本社が、私を切る。社長を潰す。告発者を懲戒にする。言わなくても分かる。分かっているから、私は頷いた。
「はい。来ます」
私は淡々と言った。淡々と言わないと、怖さが声に出る。
「だから、社長が燃えないでください。あなたが燃えたら、私は戦う足場がなくなる」
社長が机を叩きそうになって、握り拳だけで止めた。
「……お前は、なんでそこまで」
問いがまた来る。危険な問い。答え方ひとつで、噂の材料になる。
私は視線を逸らさず、仕事の言葉で返した。
「私は条項を作った側です。守秘義務も、規程も、盾のはずだった」
胸の奥が痛む。あの夜の蛍光灯がちらつく。
「それが首輪にされてるのを、見過ごせない」
社長の目が細くなる。怒りが落ち着いて、別の熱が残っている目。近い。近すぎる。警報が鳴る。私は机と自分の間に書類を一枚、滑り込ませた。境界線。仕事の線引き。
「……分かった」
社長が短く言った。
「俺は現場を押さえる。お前は手続きを押さえろ」
一拍置いて、さらに低く続ける。
「ただし、無茶はするな。お前が折れたら、終わる」
その言い方が、昨夜の車内と同じで、胸の奥が不意に熱を持つ。私はすぐに、その熱を押し込めた。恋じゃない。守り合いの錯覚だ。今は。
「無茶はしません」
嘘だ。もう無茶の中にいる。
「でも——社長も、単独行動はしないでください」
社長が鼻で笑った。
「命令か」
「お願いです」
言ってしまって、言葉の温度が少しだけ高いことに気づく。しまった、と思った瞬間。
社長のスマホが震えた。画面に表示されたのは、監査室。社長が出る前に、私のスマホも同時に震える。送信者:本社・佐伯。
件名は短かった。
【至急】ヒアリング同席の件(本日午前)
社長と私の目が、同時に画面に落ちる。そして同時に分かった。——次は、“同席”という名の切り取りが来る。新人の口が、また縛られる。
社長が低く言った。
「……来るぞ」
私も頷いた。
「ええ。ここからが本番です」
「——もういい」
社長が低い声で言った。
「止める。全部、俺が引き受ける」
「引き受ける?」
私はペンを置いた。嫌な予感が、骨に染みる速度で上がってくる。
「社長、それは“守る”じゃなくて“燃える”です」
社長は机の縁に手をつき、前のめりになった。近い。近すぎる。恋愛禁止条項の警報が、頭の奥で鳴る。違う。これは恋じゃない。戦場の距離だ。私は一歩下がらずに言葉だけを鋭くする。
「監査が来た。噂も回った。もう現場は持たない」
「持たせます。だから手続きを——」
「手続き? 本社の手続きで現場が死ぬんだろうが!」
社長の声が上がる。壁の向こうに人がいる。聞かれたら、また燃料になる。私は声を落とした。落とした分だけ、刃を立てる。
「社長。あなたが前に出た瞬間に、向こうは“勝ち筋”を作ります」
「勝ち筋?」
「“社長が揉み消した”“社長が告発者を匿った”“本社人事が社長に取り込まれた”。匿名通報の文面、もうその方向に整ってる」
社長の目が一瞬だけ揺れた。怒りじゃない。痛みだ。守る側の痛み。
「だからこそ、俺が矢面に立つ」
「矢面に立たないでください。矢面に立ったら、後ろにいる人が全部焼けます」
私は机の上のコピーを指で叩いた。
「見てください。“守秘義務”の紙。新人に署名させて、言い方まで指定してる。これ、自然現象じゃない。仕組みです。あなたが燃えたら、仕組みは喜ぶだけ」
社長が唇を噛む。
「じゃあどうすればいい」
低く、吐き捨てるみたいに。でもその中に、助けを求める音が混じった。——危ない。そこに反応したら、距離が変わる。私は呼吸を整える。
「あなたは“現場”を押さえてください」
「現場は俺の仕事だ」
「そう。あなたの強みは、そこです」
私は続ける。
「私は“手続き”を押さえます。監査の窓口、匿名通報の量産、想定問答、署名。全部、時系列で繋げる。切り貼りできない形で、“仕組み”として提示する」
「そんなことしたら、本社が——」
社長が言いかけて止まる。本社が、私を切る。社長を潰す。告発者を懲戒にする。言わなくても分かる。分かっているから、私は頷いた。
「はい。来ます」
私は淡々と言った。淡々と言わないと、怖さが声に出る。
「だから、社長が燃えないでください。あなたが燃えたら、私は戦う足場がなくなる」
社長が机を叩きそうになって、握り拳だけで止めた。
「……お前は、なんでそこまで」
問いがまた来る。危険な問い。答え方ひとつで、噂の材料になる。
私は視線を逸らさず、仕事の言葉で返した。
「私は条項を作った側です。守秘義務も、規程も、盾のはずだった」
胸の奥が痛む。あの夜の蛍光灯がちらつく。
「それが首輪にされてるのを、見過ごせない」
社長の目が細くなる。怒りが落ち着いて、別の熱が残っている目。近い。近すぎる。警報が鳴る。私は机と自分の間に書類を一枚、滑り込ませた。境界線。仕事の線引き。
「……分かった」
社長が短く言った。
「俺は現場を押さえる。お前は手続きを押さえろ」
一拍置いて、さらに低く続ける。
「ただし、無茶はするな。お前が折れたら、終わる」
その言い方が、昨夜の車内と同じで、胸の奥が不意に熱を持つ。私はすぐに、その熱を押し込めた。恋じゃない。守り合いの錯覚だ。今は。
「無茶はしません」
嘘だ。もう無茶の中にいる。
「でも——社長も、単独行動はしないでください」
社長が鼻で笑った。
「命令か」
「お願いです」
言ってしまって、言葉の温度が少しだけ高いことに気づく。しまった、と思った瞬間。
社長のスマホが震えた。画面に表示されたのは、監査室。社長が出る前に、私のスマホも同時に震える。送信者:本社・佐伯。
件名は短かった。
【至急】ヒアリング同席の件(本日午前)
社長と私の目が、同時に画面に落ちる。そして同時に分かった。——次は、“同席”という名の切り取りが来る。新人の口が、また縛られる。
社長が低く言った。
「……来るぞ」
私も頷いた。
「ええ。ここからが本番です」
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