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第8章 統合説明会:建前を壊す一撃
第二の爆弾:例外が存在しない証拠
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説明会が「個別案内」に移る直前。法務司会は、いったん“優しさ”の顔を作った。
「もちろん、家庭事情など個別事情は配慮します」
「事情がある方は、後日、所定のフォームから申請してください」
会場の空気が、わずかに緩む。——“例外がある”と人は信じたがる。信じた瞬間に、爆弾は効く。
その爆弾が、次に落ちた。
スクリーンに、もう一枚のスライドが映った。タイトルはさらに事務的。
「勤務地変更に関するFAQ(社内向け)」
Q1:家庭事情(育児・介護)で難しい場合は?
A:所定フォームにて申請してください。
ここまでは、さっきの“優しさ”と一致していた。でも、次の行が違った。
画面の右端に、薄いグレーの小文字。——見落とすためにある文字。
※フォームは「受付」のみを行い、承認を保証するものではありません。
※原則として、変更は例外なく適用されます。
※例外判断は行いません(公平性の観点から)。
公平性。最悪の言葉が出た。“全員に同じ痛みを与える”ことを、正義の顔で包む言葉。
会場が、いっせいに息を止めたのが分かった。椅子の軋みが止まった。咳も止まった。静けさが、痛い。
法務司会は気づいていないふりで、淡々と続ける。
「例外を認めると不公平が生じますので」
「全員、同じ基準でお願いしています」
その瞬間、私は“証拠”だと確信した。例外がないのは方針じゃない。設計だ。
法務司会が、フォームの画面を映した。社内ポータルの申請画面。プルダウンが三つ、チェックが二つ。最後に送信ボタン。
・申請理由:育児/介護/通院/その他
・希望:時期変更/期間短縮/在宅併用
・添付:任意
・同意:就業規則遵守/守秘義務遵守
そして、画面右上に出ていた小さな表示。
「申請結果:自動返信のみ」
——自動返信。人が見ない。見るふりだけする。
情シス担当が後方で、ほんの少しだけ首を上げた。“仕組み”の匂いを嗅いだ顔。彼が何を見るか、私は分かっている。
ルールじゃない。ワークフローだ。
つまり、例外は最初から用意されていない。用意されていないものは、誰も承認できない。
共働き夫婦の妻が、前を向いたまま指を一本立てた。“1個”じゃない。“1段階”だ。——スイッチが入った合図。
誰かが手を挙げた。社内でいつも空気を読むタイプの、管理職の声。
「すみません。例外判断を行わないのであれば、フォームの目的は何でしょうか」
会場の空気が、きしんだ。良い質問は、場を壊す。場が壊れると、台本が剥がれる。
法務司会の笑顔が、初めて揺れた。
「……記録のためです」
一拍。
「申請があったという事実を残すことで、会社として配慮を検討したことになります」
——なります。“検討したことになる”。中身じゃない。体裁だ。
その瞬間、第二の爆弾は爆発した。例外がない証拠は、注記でもフォームでもなく、この一文だった。
「検討したことになります」
配慮の実体がない。手続きの姿だけ。つまりこれは、保護じゃなく隔離。しかも「申請したのに通らなかった」という自己責任の形まで作れる。
胃の石が重くなった。でも同時に、芯が冷えた。冷えると、切り貼りされにくくなる。
吉岡が、私のメモに一行だけ書いた。
10:14「例外判断なし」「検討したことになる」発言
それだけで、痛みが“使える痛み”に変わる。証拠は、いまここで発生した。
社長は、まだマイクを取らない。取らなくていい。外部弁護士が、壁際で小さく頷いたのが見えた。“会社の説明会で出た言葉”は、外部の記録に乗る。
法務司会は、締めに逃げ道を作ろうとした。
「誤解のないように申し上げますが、これは懲戒ではありません」
また同じ台詞。懲戒じゃない、と言うときほど、懲戒に近い。
そして、最後に言った。
「個別案内は、説明会後に対象者へ送付します。本日中に回答してください」
今日中。期限の刃が、ここで確定した。
会場のあちこちで、スマホが震え始めた。メール通知。“誰に落ちるか”が、いま決まっていく。
第二の爆弾は、こうして落ちた。
例外は存在しない。存在しないように、最初から仕組みが作られている。
そして——存在しない例外を信じた人から、折れていく。
「もちろん、家庭事情など個別事情は配慮します」
「事情がある方は、後日、所定のフォームから申請してください」
会場の空気が、わずかに緩む。——“例外がある”と人は信じたがる。信じた瞬間に、爆弾は効く。
その爆弾が、次に落ちた。
スクリーンに、もう一枚のスライドが映った。タイトルはさらに事務的。
「勤務地変更に関するFAQ(社内向け)」
Q1:家庭事情(育児・介護)で難しい場合は?
A:所定フォームにて申請してください。
ここまでは、さっきの“優しさ”と一致していた。でも、次の行が違った。
画面の右端に、薄いグレーの小文字。——見落とすためにある文字。
※フォームは「受付」のみを行い、承認を保証するものではありません。
※原則として、変更は例外なく適用されます。
※例外判断は行いません(公平性の観点から)。
公平性。最悪の言葉が出た。“全員に同じ痛みを与える”ことを、正義の顔で包む言葉。
会場が、いっせいに息を止めたのが分かった。椅子の軋みが止まった。咳も止まった。静けさが、痛い。
法務司会は気づいていないふりで、淡々と続ける。
「例外を認めると不公平が生じますので」
「全員、同じ基準でお願いしています」
その瞬間、私は“証拠”だと確信した。例外がないのは方針じゃない。設計だ。
法務司会が、フォームの画面を映した。社内ポータルの申請画面。プルダウンが三つ、チェックが二つ。最後に送信ボタン。
・申請理由:育児/介護/通院/その他
・希望:時期変更/期間短縮/在宅併用
・添付:任意
・同意:就業規則遵守/守秘義務遵守
そして、画面右上に出ていた小さな表示。
「申請結果:自動返信のみ」
——自動返信。人が見ない。見るふりだけする。
情シス担当が後方で、ほんの少しだけ首を上げた。“仕組み”の匂いを嗅いだ顔。彼が何を見るか、私は分かっている。
ルールじゃない。ワークフローだ。
つまり、例外は最初から用意されていない。用意されていないものは、誰も承認できない。
共働き夫婦の妻が、前を向いたまま指を一本立てた。“1個”じゃない。“1段階”だ。——スイッチが入った合図。
誰かが手を挙げた。社内でいつも空気を読むタイプの、管理職の声。
「すみません。例外判断を行わないのであれば、フォームの目的は何でしょうか」
会場の空気が、きしんだ。良い質問は、場を壊す。場が壊れると、台本が剥がれる。
法務司会の笑顔が、初めて揺れた。
「……記録のためです」
一拍。
「申請があったという事実を残すことで、会社として配慮を検討したことになります」
——なります。“検討したことになる”。中身じゃない。体裁だ。
その瞬間、第二の爆弾は爆発した。例外がない証拠は、注記でもフォームでもなく、この一文だった。
「検討したことになります」
配慮の実体がない。手続きの姿だけ。つまりこれは、保護じゃなく隔離。しかも「申請したのに通らなかった」という自己責任の形まで作れる。
胃の石が重くなった。でも同時に、芯が冷えた。冷えると、切り貼りされにくくなる。
吉岡が、私のメモに一行だけ書いた。
10:14「例外判断なし」「検討したことになる」発言
それだけで、痛みが“使える痛み”に変わる。証拠は、いまここで発生した。
社長は、まだマイクを取らない。取らなくていい。外部弁護士が、壁際で小さく頷いたのが見えた。“会社の説明会で出た言葉”は、外部の記録に乗る。
法務司会は、締めに逃げ道を作ろうとした。
「誤解のないように申し上げますが、これは懲戒ではありません」
また同じ台詞。懲戒じゃない、と言うときほど、懲戒に近い。
そして、最後に言った。
「個別案内は、説明会後に対象者へ送付します。本日中に回答してください」
今日中。期限の刃が、ここで確定した。
会場のあちこちで、スマホが震え始めた。メール通知。“誰に落ちるか”が、いま決まっていく。
第二の爆弾は、こうして落ちた。
例外は存在しない。存在しないように、最初から仕組みが作られている。
そして——存在しない例外を信じた人から、折れていく。
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