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第9章 ラスボス確定:縁故採用と「ルールの悪用」
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第三者審査の丸が付いた瞬間から、会議室の空気は“人”では動かなくなった。誰の声が大きいかではなく、ワークフローが次の処理へ進むだけ。
外部弁護士が淡々と告げる。
「本日付で、暫定措置を発効します」
「勤務地強制テンプレ運用は凍結」
「参考人保護を拡大」
「人事措置(懲戒・自宅待機・配置転換)の発令は第三者承認制へ」
「ログ保全は当方主導。改ざん・削除は調査妨害として扱う」
——仕組みが、止めた。仕組みが、守り始めた。
そして最後に、外部弁護士が私へ言った。
「福本さん。あなたは“中心”にされました」
「中心にされ続けると、あなたが潰れる」
一拍。
「選べます。残って再設計を担うか、離れて外から監視するか」
私のスマホが震えた。表示は、社内ポータル。
【通知】配置:新設『コンプライアンス統括室(臨時)』
開始:本日付
備考:第三者審査の付帯措置
——会社が“使う”気だ。私を、盾として。旗として。そしていつか、燃料として。
胃が痛んだ。でもその痛みは、怖さじゃなく、答えに近い痛みだった。
私はゆっくり息を吐いて、外部弁護士へ言った。
「選択肢は二つじゃありません」
弁護士が目を細める。
「……どういう意味ですか」
私は机の上に、紙を一枚置いた。退職届ではない。「引継ぎ仕様書」だ。
・参考人(新人)の保護継続条件
・恋愛禁止条項の“運用凍結”と再定義案
・勤務地変更テンプレの停止・再発防止のフロー
・証拠保全の窓口と提出経路
・不利益取扱いの監視項目(評価・配置・面談・噂)
「私は、今日ここで“仕組み”を渡します」
「渡してから——会社を出ます」
法務が反射で口を開いた。
「……逃げるんですか」
私は視線を上げずに答えた。
「逃げません」
「中心から降ります」
社長が、初めて私を見た。見てしまうと物語になるのに、それでも見た。声は低い。
「なぜだ」
私は社長を見ないまま、言う。切り貼りできない形で。
「私が残ると、“私情”の物語にされます」
「残れば、現場の改革ではなく、“福本が勝った負けた”になります」
「それは、また誰かを消します」
一拍。
「だから私は、仕組みを置いて去ります。——仕組みで守るために」
外部弁護士が頷く。
「合理的です」
「外からの監視役として、あなたの協力は継続できます」
社長が、ほんの少しだけ唇を噛んだ。
「……俺が矢面に立つと言った」
私は言った。
「立ってください。公の場で」
「私は、公の場から降ります」
その言葉で、社長の“守り”が、盾として成立した。私を守る盾じゃない。現場と参考人を守る盾。
会議室を出る前、私は吉岡にだけ目を向けた。吉岡が小さく頷く。共働き夫婦も、列の端で同じ頷きを返してきた。言葉は要らない。言葉は燃える。
情シス担当が、最後に一言だけ言った。
「引継ぎ、残ります」
私は頷く。
「“順番”を守ってください」
「守れます」
「なら、大丈夫」
新人へは、総務奥から短いメッセージだけ送った。長文は、また台本にされる。
【あなたの言葉は、外部の原本になった。もう消えない。今日は休んでいい】
送信時刻は 14:06。それもまた、私の原本。
エレベーターの鏡に映った自分は、まだ白い。でも目だけは、昨日より“今”を見ていた。
胃の石は残っている。けれど重さが違う。孤立の重さじゃない。責任の重さでもない。
“順番を守った”重さだ。
ロビーの自動ドアが開き、冬の空気が肺に入る。冷たさが、切り貼りを鈍らせる。
私はコートの襟を立てて、ひとつだけ自分に言った。
「物語じゃなく、仕組みで守る」
そして、本丸から降りる。本丸を燃やさないために。
外部弁護士が淡々と告げる。
「本日付で、暫定措置を発効します」
「勤務地強制テンプレ運用は凍結」
「参考人保護を拡大」
「人事措置(懲戒・自宅待機・配置転換)の発令は第三者承認制へ」
「ログ保全は当方主導。改ざん・削除は調査妨害として扱う」
——仕組みが、止めた。仕組みが、守り始めた。
そして最後に、外部弁護士が私へ言った。
「福本さん。あなたは“中心”にされました」
「中心にされ続けると、あなたが潰れる」
一拍。
「選べます。残って再設計を担うか、離れて外から監視するか」
私のスマホが震えた。表示は、社内ポータル。
【通知】配置:新設『コンプライアンス統括室(臨時)』
開始:本日付
備考:第三者審査の付帯措置
——会社が“使う”気だ。私を、盾として。旗として。そしていつか、燃料として。
胃が痛んだ。でもその痛みは、怖さじゃなく、答えに近い痛みだった。
私はゆっくり息を吐いて、外部弁護士へ言った。
「選択肢は二つじゃありません」
弁護士が目を細める。
「……どういう意味ですか」
私は机の上に、紙を一枚置いた。退職届ではない。「引継ぎ仕様書」だ。
・参考人(新人)の保護継続条件
・恋愛禁止条項の“運用凍結”と再定義案
・勤務地変更テンプレの停止・再発防止のフロー
・証拠保全の窓口と提出経路
・不利益取扱いの監視項目(評価・配置・面談・噂)
「私は、今日ここで“仕組み”を渡します」
「渡してから——会社を出ます」
法務が反射で口を開いた。
「……逃げるんですか」
私は視線を上げずに答えた。
「逃げません」
「中心から降ります」
社長が、初めて私を見た。見てしまうと物語になるのに、それでも見た。声は低い。
「なぜだ」
私は社長を見ないまま、言う。切り貼りできない形で。
「私が残ると、“私情”の物語にされます」
「残れば、現場の改革ではなく、“福本が勝った負けた”になります」
「それは、また誰かを消します」
一拍。
「だから私は、仕組みを置いて去ります。——仕組みで守るために」
外部弁護士が頷く。
「合理的です」
「外からの監視役として、あなたの協力は継続できます」
社長が、ほんの少しだけ唇を噛んだ。
「……俺が矢面に立つと言った」
私は言った。
「立ってください。公の場で」
「私は、公の場から降ります」
その言葉で、社長の“守り”が、盾として成立した。私を守る盾じゃない。現場と参考人を守る盾。
会議室を出る前、私は吉岡にだけ目を向けた。吉岡が小さく頷く。共働き夫婦も、列の端で同じ頷きを返してきた。言葉は要らない。言葉は燃える。
情シス担当が、最後に一言だけ言った。
「引継ぎ、残ります」
私は頷く。
「“順番”を守ってください」
「守れます」
「なら、大丈夫」
新人へは、総務奥から短いメッセージだけ送った。長文は、また台本にされる。
【あなたの言葉は、外部の原本になった。もう消えない。今日は休んでいい】
送信時刻は 14:06。それもまた、私の原本。
エレベーターの鏡に映った自分は、まだ白い。でも目だけは、昨日より“今”を見ていた。
胃の石は残っている。けれど重さが違う。孤立の重さじゃない。責任の重さでもない。
“順番を守った”重さだ。
ロビーの自動ドアが開き、冬の空気が肺に入る。冷たさが、切り貼りを鈍らせる。
私はコートの襟を立てて、ひとつだけ自分に言った。
「物語じゃなく、仕組みで守る」
そして、本丸から降りる。本丸を燃やさないために。
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