CHANGELING! ―勇者を取り巻く人々の事情―

かとりあらた

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あなたのための私のこれから

第28話 姉の事情(15)

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 ………………………………。
 …………………………。
 ……………………。
 ………………。
 …………。
「――レジーナ殿、レジーナ殿!」
「ッ~~♥」
 身体が揺れて、中が擦れる。
「大丈夫ですか?」
「あァンッ♥」
「ッ!?」
「動かないでぇ……っ♥」
 揺れが止まった。
 じっと荒い息を整える。
 ふわふわする。頭も身体もふーわふわ。それにいい匂い、なんの……誰の? ふはあ……。
 うっとりまったりしていたら、だんだん頭が冴えてきた。そろりと視線を上げれば、心配そうなイオニスと目が合う。
 イオニスをとっちめるべく思い切り乗っかった俺は、気が付けばイオニスの上にしなだれていた。
 もしかして、俺イッた? しかも意識まで飛んだ?
 敗因はたぶん一気に腰を落としてしまったことだろう。奥にガツンときた。以後気を付けよう。とりあえず身体を起こさなくては。この距離感は危険だ。仕切り直すぞ。まだ間に合う。
 ……腰が抜けてしまって動けない。息巻いておいてこれはない。さすがにない。
 なのにイオニスは長い太い硬いの三拍子を損なうことなく、俺の中で存在を主張し続けている。せめてイオニスもイッてくれていたならば、まだ引き分けと言えなくもなかったものを。
「……あの」
「まだ、動かないで……ください」
 動けないくせに、感覚ばかりがやたらと鋭敏で困る。わずかな刺激でも新たな快感の波となり、なかなか終わらない。だんだん怖くなってきた。こうなれば最後の手段だ。
「……治していただけますか?」
「っどこか怪我を?」
 あまり心配されても、かえって精神的に辛いのだが。
「あの、手を自由にしていただけますか?」
「……手でなければいけないわけではないでしょう。ほら、丁度よく患部に直接触れていますし」
「え…………無茶な!?」
 俺の言わんとしていることを理解したらしく、イオニスが声を上げた。しかし俺に譲る気がないと悟ったのか、
「……やってみます」
 目を瞑り、眉間にものすごいシワを寄せる。
 まもなく、腰に染み入るような温かさが広がった。
「ん……ふあ……♥」
「喘がないでください……!」
 だって中に出されている感覚と近くて。しかもイオニスが身じろぐ度、乳首と鎖が擦れる。あと少し気になるのだが、やはり今イオニスのあれは光っているのだろうか。
 しばらくもどかしい時間が続き、そして判明した事実。聖則で腰の脱力は治せない。
 ……あー…………ああ。みじめな気分になってきた。どうして俺はこんなにも無様を晒しているのか。どうして最後くらいうまくできないのか。
「イオニスさん」
 まだ自由になる口で呼べば、イオニスが窺うように俺を見る。
「……はい」
 俺とは逆に、イオニスは落ち着きを取り戻し始めているようだ。
「……イオニスさん」
「はい」
 俺が何度呼ぼうが、きっとこいつは何度でも変わらず返事をする。俺の気が済むまで付き合うのだろう。そう思うと、胸が一層苦しくなった。
 本当は少し怖かった。再会できても別人のように冷たくされたら、なんて。
 でもイオニスは変わっていなかった。俺の知る目で俺を見て、俺の知る声で俺と話す。俺を厭う様子はない。
 それにほっとしてしまった俺がいる。
「どうして何も言わず、いなくなったのですか。せめてちゃんと話をするのが筋でしょうに……あんな手紙ひとつで婚約者を捨てるなんて、不誠実にもほどがあります」
 言葉が溢れる。一度溢れると、取り留めがなくなってしまうもので。
「私だけって……言ったくせに」
 本当にどうしようもない。いつの間に俺は、こんなにも……イオニスに惚れていたのか。
「……婚約者?」
「将来を誓い合ったのですから、婚約者と呼んで何か問題が?」
「それはいつ?」
「いつって、あの夜ですよ」
 そこで俺は、はたと気が付いた。……そういえば。
 イオニスから結婚してくれとか、付き合って欲しいとか、はっきりと言われたことはないな、と。
 あれ、いや、そんな……まさか? イオニスと過ごした日々を回想し、俺はついにある可能性へと思い至った。
「参考までにお訊きいたしますが。あなたが指輪をくださった時におっしゃったこと、覚えておいでですか?」
「指輪……? もしかして、誓いの環のことでしょうか? でしたら、もちろん覚えております。誓いの環は聖則の中でも一等貴く、誓約なくしては認められません。主に捧げた誓いを忘れるなど、許されないことですから」
 聖則は祈れば与えられるものだけでなく、何かしら条件を付けることが必要なものもある。
 誓約も条件のひとつで、往々にして厳しい誓いを課す聖則ほど与えられる力も強いと言える。
「では、これからは私だけ……と言ったのは?」
「それに類する言葉を、誓約に織り込む決まりでして……」
「……」
「……」
 つまりあの告白は、求愛ではなく聖則を使うための決まり文句。
 肉体的な距離がさっぱり縮まらなくて当然だ。イオニスにとって俺は、婚約者でもなんでもなかったのだから。なんてこった。
 俺は立ち上がった。ふらつきながらも扉へ向かう。しかしようやく扉に手をかけたところで、大きな影が差した。ぬくもりが背中に触れる。
「……話を」
 俺を囲うように、イオニスは扉に両手を付ける。
 焦る俺は両手どころか全体重でもって開かんとするが、イオニスに押さえられた扉はビクともしない。
「話をせず、一方的に書き捨てていったのは誰ですか!」
 振り返りもしないでやけくそ気味に言い返し、なおも逃げようとする俺。しかし何かがしゅるりと背中から引き抜かれる音に感触、あと開放感がして。
「っ!?」
 俺はとっさに寝間着を押さえる。滑るような肌触りの寝間着は、手を離せばすぐに床へ落ちてしまいそうだった。
 寝間着を買った店の、女主人との会話が俺の頭をよぎる。
 ――こちらの、後ろのリボンを引けば、速やかに脱衣することができます。
 ――まあ、着替えが簡単なのはよいですね。
 ――……そうでございますね。
 後ろを振り返れば、件のリボンを咥えるイオニスがいた。
「口で……!?」
「……レジーナ殿」
 リボンがふわりと落ちる。
「失礼します」
 言うや否や、イオニスは俺を抱き上げた。さらには大股で取って返し、ベッドへ腰を落ち着けたのだった。
 もちろん俺は横抱きにされたまま、である。
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