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あなたのための私のこれから
第36話 聖騎士の事情(4)―同行して、連行する―
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「そろそろお暇させてもらおうかの」
話が纏まり各々の役割を確認した後、ぺオル司教がのんびりと宣言し席を立つ。
それに俺や他の人も追随し、今日はお開きになった。
「マーカムは元気にしてますかー?」
別れ際、イェイツさんが声をかけてきた。
いまいち何を考えているか読めない人だが、転属した後輩を気にかける情はちゃんとあるらしい。
「俺に訊かなくても、会いにくればいいじゃないですか」
「だって団長さんいるじゃないですか。一日中べったりじゃないですか。僕あの人苦手なんですよ」
「……いい人ですよ?」
感情を顔に出すのが苦手すぎるせいで、なんか怖いと言われることも少なくないが。
「むしろそこですよ。もうすぐ四十にもなろうという男が、なんであんな澄んだ目をしてるんですか。大人になるってことは、薄汚れるってことでしょうが!」
「えぇ……」
言うだけ言ってイェイツさんが逃げた後、今度はぺオル司教とディオス先生が近づいてくる。
「少し付き合ってくれんか、ラバルト」
「え? ああ、はい」
軽く了承し付いていった先は、柔らかな旋律が漏れ聞こえる礼拝堂だった。
なるべくゆっくりと扉を開けば、どこか見覚えのある中年男性がいた。
最奥に設えられた聖都最大のオルガンを弾く彼が、たぶんイシーさんだろう。
そして傍には昨日会った男児二人アドルとジタンもいて、こちらに気付くと、足早に寄ってくる。
「しきょーとせんせーもいるじゃん」
「こんにちはー」
そんな二人に挨拶を返しつつ、ぺオル司教とディオス先生は擦れ違うように奥へ向かう。
「なになに~? また会いに来たの~? 昨日も会ったのに~?」
「俺らのこと大好きかよ~」
まっすぐこちらへやってきた二人が、にやにやしながら絡んでくる。
「はいはい好きだよ。だからちょっと話聞いてくれるか?」
「よしきたー」
ぺオル司教とディオス先生はイシーさんと話すから、俺は子供達の方を頼まれた。
子供達にもぺオル司教から説明すればいいんじゃないかと思ったが、
――そなたから説明された方が、あの子らも安心するだろう。
そうかなあと訝しみつつ、固辞する理由もないし引き受けたわけだ。
「イシーさんを伴奏者に推したの、元々お前らなんだってな?」
「そうそう。なんか伴奏の試験? みたいなの受けさせてやってってせんせに言った」
「そしたら俺らも聖歌隊に入るよう言われた。収穫祭が終わるまでだけど」
守りを固めてやり過ごし、根本的な解決は収穫祭が終わった後に。そのための準備は、特務騎士団が請け負ってくれるらしい。
あとイシーさんに礼儀作法の教師を紹介しようと決まった。
貴族相手の立ち振るまいを学べば、ぺルセナ令嬢の誹謗中傷を受け流すのに役立つし、今後業界で働く時も生きるだろう。
しかも今なら教会の金とコネで一流の教師を雇える。なんの落ち度もないのに今しばらく我慢を強いる迷惑料としてぜひ受け取って欲しい。
「――というわけだから、なんかちょっかい出されても、余計なことしたり言ったりするなよ」
「えー」
「ええー」
話せる範囲ながら丁寧な説明をしたのに、速攻で不満を表明してくる二人。
俺は努めて真面目な顔を作った。
「冷静にやり過ごせ。これは作戦だ」
「作戦……つまり、最後に勝つのは俺らってやつだな?」
「そういうことなら仕方ねえな」
嫌そうな顔が一転、ふふんと口の端を上げる。
まあ、わかってくれたならいいか。そう少し気を抜いたところだった。
「見つけた!」
「げ、アーネ」
これまた昨日ぶりの女児アーネの登場に、二人揃って俺の後ろに隠れる。
アーネはズンズンと勢いよくこちらへ向かってくる――が、俺と目が合った途端、失速した。
そのままやや早足くらいでやって来て、俺の前に立つ。そして、しっかり背筋を伸ばしてから口を開く。
「ちゃんとゴアイサツするのは初めてですね。アーネです」
少し恥じらいながらも、ぱっちりとした飴色の目でこちらを見上げてくる。
「昨日はシツレイしました。もうオシリアイのつもりでした。いつもみんなから話を聞いてたので……」
「俺も君の話はエルスレッタから聞いたよ。真面目ないい子だって」
「え? ……それほどでも」
そわそわと視線を揺らすアーネは微笑ましい。
「照れてる照れてる」
「にやけてんぞー?」
「にやけてないもん! ――て、そうだ! お風呂のお掃除! でしょ!?」
「うん? サボりか?」
アーネの指摘に二人をじっと見れば、二人は一度顔を見合わせた後、再びこちらを向いた。
「ちょっと休憩してただけだしい」
「なら休憩はおしまい! 戻って!」
「ええー」
散歩を拒否する犬みたいに転がる二人。
しょうがない奴らだなと思いつつ、ちらりと奥の様子を窺えば、ペオル司教にぺこぺこと頭を下げるイシーさんが見えた。
むこうも問題なさそうだ。俺は右脇にアドルを、左脇にジタンを抱える。
「じゃあ行くか、アーネ」
「はい、ザオベルグ様!」
話が纏まり各々の役割を確認した後、ぺオル司教がのんびりと宣言し席を立つ。
それに俺や他の人も追随し、今日はお開きになった。
「マーカムは元気にしてますかー?」
別れ際、イェイツさんが声をかけてきた。
いまいち何を考えているか読めない人だが、転属した後輩を気にかける情はちゃんとあるらしい。
「俺に訊かなくても、会いにくればいいじゃないですか」
「だって団長さんいるじゃないですか。一日中べったりじゃないですか。僕あの人苦手なんですよ」
「……いい人ですよ?」
感情を顔に出すのが苦手すぎるせいで、なんか怖いと言われることも少なくないが。
「むしろそこですよ。もうすぐ四十にもなろうという男が、なんであんな澄んだ目をしてるんですか。大人になるってことは、薄汚れるってことでしょうが!」
「えぇ……」
言うだけ言ってイェイツさんが逃げた後、今度はぺオル司教とディオス先生が近づいてくる。
「少し付き合ってくれんか、ラバルト」
「え? ああ、はい」
軽く了承し付いていった先は、柔らかな旋律が漏れ聞こえる礼拝堂だった。
なるべくゆっくりと扉を開けば、どこか見覚えのある中年男性がいた。
最奥に設えられた聖都最大のオルガンを弾く彼が、たぶんイシーさんだろう。
そして傍には昨日会った男児二人アドルとジタンもいて、こちらに気付くと、足早に寄ってくる。
「しきょーとせんせーもいるじゃん」
「こんにちはー」
そんな二人に挨拶を返しつつ、ぺオル司教とディオス先生は擦れ違うように奥へ向かう。
「なになに~? また会いに来たの~? 昨日も会ったのに~?」
「俺らのこと大好きかよ~」
まっすぐこちらへやってきた二人が、にやにやしながら絡んでくる。
「はいはい好きだよ。だからちょっと話聞いてくれるか?」
「よしきたー」
ぺオル司教とディオス先生はイシーさんと話すから、俺は子供達の方を頼まれた。
子供達にもぺオル司教から説明すればいいんじゃないかと思ったが、
――そなたから説明された方が、あの子らも安心するだろう。
そうかなあと訝しみつつ、固辞する理由もないし引き受けたわけだ。
「イシーさんを伴奏者に推したの、元々お前らなんだってな?」
「そうそう。なんか伴奏の試験? みたいなの受けさせてやってってせんせに言った」
「そしたら俺らも聖歌隊に入るよう言われた。収穫祭が終わるまでだけど」
守りを固めてやり過ごし、根本的な解決は収穫祭が終わった後に。そのための準備は、特務騎士団が請け負ってくれるらしい。
あとイシーさんに礼儀作法の教師を紹介しようと決まった。
貴族相手の立ち振るまいを学べば、ぺルセナ令嬢の誹謗中傷を受け流すのに役立つし、今後業界で働く時も生きるだろう。
しかも今なら教会の金とコネで一流の教師を雇える。なんの落ち度もないのに今しばらく我慢を強いる迷惑料としてぜひ受け取って欲しい。
「――というわけだから、なんかちょっかい出されても、余計なことしたり言ったりするなよ」
「えー」
「ええー」
話せる範囲ながら丁寧な説明をしたのに、速攻で不満を表明してくる二人。
俺は努めて真面目な顔を作った。
「冷静にやり過ごせ。これは作戦だ」
「作戦……つまり、最後に勝つのは俺らってやつだな?」
「そういうことなら仕方ねえな」
嫌そうな顔が一転、ふふんと口の端を上げる。
まあ、わかってくれたならいいか。そう少し気を抜いたところだった。
「見つけた!」
「げ、アーネ」
これまた昨日ぶりの女児アーネの登場に、二人揃って俺の後ろに隠れる。
アーネはズンズンと勢いよくこちらへ向かってくる――が、俺と目が合った途端、失速した。
そのままやや早足くらいでやって来て、俺の前に立つ。そして、しっかり背筋を伸ばしてから口を開く。
「ちゃんとゴアイサツするのは初めてですね。アーネです」
少し恥じらいながらも、ぱっちりとした飴色の目でこちらを見上げてくる。
「昨日はシツレイしました。もうオシリアイのつもりでした。いつもみんなから話を聞いてたので……」
「俺も君の話はエルスレッタから聞いたよ。真面目ないい子だって」
「え? ……それほどでも」
そわそわと視線を揺らすアーネは微笑ましい。
「照れてる照れてる」
「にやけてんぞー?」
「にやけてないもん! ――て、そうだ! お風呂のお掃除! でしょ!?」
「うん? サボりか?」
アーネの指摘に二人をじっと見れば、二人は一度顔を見合わせた後、再びこちらを向いた。
「ちょっと休憩してただけだしい」
「なら休憩はおしまい! 戻って!」
「ええー」
散歩を拒否する犬みたいに転がる二人。
しょうがない奴らだなと思いつつ、ちらりと奥の様子を窺えば、ペオル司教にぺこぺこと頭を下げるイシーさんが見えた。
むこうも問題なさそうだ。俺は右脇にアドルを、左脇にジタンを抱える。
「じゃあ行くか、アーネ」
「はい、ザオベルグ様!」
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