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悩みの種

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反乱の首謀者が日本人との報告を聞いた対策室の人達ですが、自分にジト目を向けていましたが、すぐに自分達の仕事を思い出したのでしょう、各自が電話を手にしてなにやら報告の電話をしています。

「あの~、話進めてもいいですか~?」

そう自分が声をかけましたが、鈴木さんが暫く待ってくれとの事で、とりあえず待機をしています。
暫く対策室がバタバタしているのであきらめてゲートを開いたまま自宅のソファー寝そべっていると、カウアがお茶を持って来てくれます。

「た、武内さん、魔物! 魔物が居ますよ!!」
ゲート越しにこちらを見た鈴木さんが驚いたように声を出します。

「あ~、このミノタウロスは自分の眷属ですから危険は無いですよ。 お茶を淹れて来てくれただけです」
「ミ、ミノタウロスがお茶? な、なにを…。」

そう言ってゲートに顔を突っ込むかの勢いでこちらを覗き込む鈴木さんですが、丁寧にお茶を淹れているミノタウロスをみて絶句しています。

「武内さん、魔物に何を教えてるんですか? 魔物が使用人状態ですか?」
「使用人じゃないですけど、料理が得意なゴブリンとかも居ますし、なんか自分的には日常の光景なんですけどね」

鈴木さんは暫くミノタウロスを見ていましたが、自分に何を言っても無駄と思ったのか、常識で考えるのを辞めたのか、再度仕事に戻って職員さんに指示を出しています。

なんか皆さん忙しそうで誰も相手にしてくれないので、ソファーに寝そべりしばらく対策室が落ち着くのを待つことにします。

「た…たけ…さ…。 たけう…ん…。 起きて…さい…、武内さん…ゲートが…」

そんな声が聞こえて来たので眠い目をこすりながら起きてゲートに目をやります。
ってゲートが縮んでる…。

「武内さん、やっと起きてくれましたね、ていうかゲートがどんどん小さくなってますよ」

そう言って大体5センチ四方の大きさにまで縮んだゲートを一生懸命覗き込むように鈴木さんが叫んでいます。

「ああ~、暇だったんで寝ちゃいました…」
「寝ちゃいましたじゃないですよ、こっちはいつゲートが無くなるかハラハラしてたんですから!」

「ていうか寝ながらでもゲートを維持してたのを褒めるところじゃありません?」
「何を言ってるんですか、とりあえずゲートを元の大きさに戻してください、ていうか真面目にやってください、こちらに官房長官もいらしてるんですから!!」

なんか鈴木さんがカリカリしているのはどうやら政府の偉い人が来ているからのようです。
てか偉い人が来て偉そうに話されても面倒なだけなんだけどな…。

そんな事を思いながらも魔力回復ポーションを2本ほど飲んでゲートを20センチ四方の大きさまで広げます。

「ていうか武内さん今呑んだのは何ですか?」
「えっ? 魔力回復ポーションだけど? 魔力無くなったらゲート維持できないし、魔力回復しとこうかと思って…」

「ポーション…。 それって怪我や病気を回復させるのもあるんですか?」
「まあありますよ、怪我用、病気用、解毒用、魔力回復用なんかがありますけど、ていうか偉い人来てるんですよね? 偉い人ほったらかしてポーション談議で盛り上がってていいんですか?」

自分がそんな疑問を口にすると鈴木さんは、シマッタって顔をして本題に入ります。

「武内さん、先程話されていた反乱の首謀者が日本人との話ですが、政府として異世界転移の事を公開するにあたって日本人が異世界で反乱を首謀してるなんてマスコミに知れれば大変な事になりますし、対策が必要になります。 なので今回の情報を報告したところ、官房長官が自ら武内さんの話を聞きに来られてるんで、詳細の説明をお願いします」

鈴木さんはそう言ってゲートの前から離れ、席につきますが、どうやら自分の目の前に官房長官さんが陣取っているようです。
うん、令和になった時に見たことある人だ…。

「じゃあ現時点で分かってる事ですけど、そんなに詳細情報は無いですよ?」
そう言うと官房長官さんをはじめ対策室の人が頷きます。

「とりあえずパルン王国って国で起きてる反乱ですけど…」

そう話し出した時、官房長官さんの顔が引きつります。
「き、君、そこに居るのは魔物じゃないのか?」

官房長官さんの声が若干裏返っているような気がしますが、どうやら冷めたお茶を淹れなおしに来てくれたミノタウロスのカウアを見て驚いているようです。

「ああ~、このミノタウロスは自分の眷属ですから危険は無いですから安心してください、それで話を進めても言いですか?」
「そ、そうなのか、安全ならいいんだが…。 では話を進めてくれるか」

「では、パルン王国って国で起きてる反乱ですけど、この反乱の首謀者が日本人のようなんです」
「それは確実な情報なのか?」

「そうですね、会った訳ではありませんので絶対とは言えませんが、日本人の可能性が非常に高いです。 因みにパルン王国っていう国は、海洋貿易の拠点となる港湾都市を要し、また内陸では農業もしていてかなり豊かな国なんです。 確かに貧富の格差はありますが、仕事は溢れ職にあぶれる事はありませんし普通に考えたら反乱が起きるような国ではありません」

そんな自分の言葉に官房長官さんをはじめ対策室の皆さんが固唾をのんで聞き入ります。

「そんな国で突然起きた反乱ですが、そのスローガン、というより主義主張が明らかに問題なんです」
「その主義主張と言うのは何なんだ?」

「はい、反乱の首謀者が掲げている主義は簡単に言うと社会主義と言うべき内容でしょうか、王制、貴族制度を廃止し、商家を接収しすべてを社会全体の共有資産として管理し、職種に応じて平等な賃金を与える事で国民全員が豊かになる、そんな事を掲げています」
「そ、それは、そんな事がうまく行くわけないだろう、現に地球上でも社会主義、共産主義などの国がいくつも生まれたが成功した試しはない」

「ええ、成功した試しはありませんね、だけど一度そんな国が出来上がってしまえば一部の独裁者と取り巻きが利益を享受して、敵対者や意義を唱える者を力でねじ伏せる恐怖政治が待っている。 これも歴史が証明しています」

「だがそれだけで日本人が首謀者と言えるのか?」
「そうですね、確かに社会主義を掲げている人間がいるというだけなら信憑性にかける所ではありますが、自分達が転移した異世界は完全に封建制度の国しかありません。 そんな中で急に社会主義なんかが出てきますか? そしてもし考えが出て来たとしてそれを広めて反乱を起こせますか?」

「だがそれは日本人が広めたとしても同じで反乱などを起こせないのではないか?」
「普通に考えたらそうなんですが、それがそうでも無いんです、官房長官さんは信じられないかもしれませんが、異世界人全員にネレースと言う神からの神託で、日本人から異世界の技術と知識を手に入れこのヌスターロス大陸をより豊かにする機会を得、繁栄を望む事が出来ると言われてるんですよ。 なので日本人が先導すればそれを信じて付き従う人が多いんです」

「まさか、そんな事が…。 神託など非科学的で俄かには信じられないが、現実として異世界に転移してる以上は神託もあながち否定も出来ないな…」
「あとは自分が世話になっている領主さんとその友好国のお偉いさんに頼んで各国に間者を多く放って情報収集をしている所ですが、現状で間者からの報告ではどれも首謀者はどうやら日本人のようだとの事です」

「そうか、それで反乱は鎮圧されそうなのか?」
「いえ、それが面倒な事に推測では国の内部にも浸透しかかっているようですね」

「その根拠は?」
「通常の反乱だったら軍を派遣し武力鎮圧するのが定石ですけど、どうやらパルン王国では軍を派遣しようとすると反乱を起こしている者達は地下に潜ってしまうので、軍が反乱者を捕縛出来ない状況のようです」

「内通者か…」
そう言って官房長官さんは椅子の背もたれに体を預け天井を仰ぎ見ます。

ですよね~、反乱の首謀者が日本人でしかも社会主義を広めて独裁者になろうとしてるなんて公表しずらいですもんね…。

うん、転移前の自分と同じぐらい頭髪薄いですけど、更に酷くなりそうですね…。

労災申請したら通るかもしれませんよ。
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