91 / 216
第七章
鮭茶漬けと、諸悪の根源⑧
しおりを挟む
本音を言えば、どうするのが得策なのか答えは出ていない。ただ、許せなかっただけ。
山田さんの気も知らないで、輪の中心に座ってのうのうと笑っているコイツが。
自分が情けないと、涙を流す彼女と。
人を追い詰めておきながら、微塵も罪悪感を感じていない三ノ宮と。
それぞれの姿を重ねて、どうしても黙っていられなかった。
今ここで俺が三ノ宮について暴露したとしても、信用してもらえるかどうか確率は五分五分。
いや、悔しいが俺の方が勝算は低いかもしれない。
それでも、知らしめたかった。
俺が、いかにお前を嫌っているかということを。
「確かに僕は、山田さんについてほとんど知りませんでした。だけど少ない関わりの中でも彼女はいい子だったと記憶していますし、いくら一人が好きだったからと言って二年以上も同じ部署で働いていた人の辞めた理由を誰も知らないなんて、ちょっとどうかと思わなくもないですね」
「はっきり仰ってください」
「彼女、もしかして庶務課で酷い扱いを受けていたんじゃないですか?」
きっと今の俺は、相当酷い顔をしているんだろう。冷静さを保とうとすると、どうしても目元に力が入る。
「まぁ、あくまで推測ですが」
「お、大澤係長っ」
さすがに見かねたのか、営業部の中堅が俺を止めようと声をかけた。
「飲みの席ですし、もうその辺りで…」
「あぁ、悪い。俺のせいで雰囲気を壊したな。すいません、三ノ宮さん」
「いいえ?私は別になんとも思っていません」
「なんとも?あらぬ誤解であれば怒るのが普通では?それとも図星で、内心それを取り繕おうと必死…とか?」
探るような視線を送ると、三ノ宮は露骨に嫌悪感を露わにする。
序盤の胸糞悪い笑顔を剥がせただけでも、いくらか胸がスッとした。
山田さんの気も知らないで、輪の中心に座ってのうのうと笑っているコイツが。
自分が情けないと、涙を流す彼女と。
人を追い詰めておきながら、微塵も罪悪感を感じていない三ノ宮と。
それぞれの姿を重ねて、どうしても黙っていられなかった。
今ここで俺が三ノ宮について暴露したとしても、信用してもらえるかどうか確率は五分五分。
いや、悔しいが俺の方が勝算は低いかもしれない。
それでも、知らしめたかった。
俺が、いかにお前を嫌っているかということを。
「確かに僕は、山田さんについてほとんど知りませんでした。だけど少ない関わりの中でも彼女はいい子だったと記憶していますし、いくら一人が好きだったからと言って二年以上も同じ部署で働いていた人の辞めた理由を誰も知らないなんて、ちょっとどうかと思わなくもないですね」
「はっきり仰ってください」
「彼女、もしかして庶務課で酷い扱いを受けていたんじゃないですか?」
きっと今の俺は、相当酷い顔をしているんだろう。冷静さを保とうとすると、どうしても目元に力が入る。
「まぁ、あくまで推測ですが」
「お、大澤係長っ」
さすがに見かねたのか、営業部の中堅が俺を止めようと声をかけた。
「飲みの席ですし、もうその辺りで…」
「あぁ、悪い。俺のせいで雰囲気を壊したな。すいません、三ノ宮さん」
「いいえ?私は別になんとも思っていません」
「なんとも?あらぬ誤解であれば怒るのが普通では?それとも図星で、内心それを取り繕おうと必死…とか?」
探るような視線を送ると、三ノ宮は露骨に嫌悪感を露わにする。
序盤の胸糞悪い笑顔を剥がせただけでも、いくらか胸がスッとした。
2
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる