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第八章
ポークチャップと、懐かしい思い出②
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「そうなんです!来週から来てくださいって!私、採用してもらえたんです!」
玄関で待ち構えるようにしていた私に、帰宅した大澤係長は目を丸くする。
ことの次第を伝えると、すぐに「よかった」と言って笑ってくれて、思わず泣きそうになった。
「今日はポークチャップです!私昔から、お母さんの作るこのメニューが大好きで。今日のお弁当にも詰めていったんですけど、夜も食べたくなったから作ってしまいました」
「いい匂いがする」
私にとっては、勝負時に豚カツやカツ丼を食べるのと一緒。
小さい頃からお母さんのポークチャップが大好きで、大切な日の前日にはいつも作ってもらってた。
すりおろした玉ねぎに一晩漬け込んだ豚ロースは、肉厚なのに柔らかい。
ケチャップの酸味とウスターソースのコクがしっかり絡んで、隠し味のにんにくのお陰で白ごはんとの相性も抜群だ。
簡単だけど、大好きなメニュー。少し、子供っぽいかもしれないけど。
「凄くうまい。俺これ好きだわ」
何度もそう言って、大澤係長は炊き立てのご飯をお代わりした。
自分の好きなものを相手にも喜んでもらえるのは、嬉しい。
「大澤係長のおかげです、本当にありがとうございました」
「俺はなにもしてないよ。山田さんの努力の成果だから」
「そんなことありません。面接の練習に付き合っていただけて、とても心強かったです」
「役に立てたならよかった」
数日前に面接を受けた会社から今日、採用の連絡をもらった。
主にお菓子のパッケージ印刷を手がけてる、印刷会社の受付兼事務。前の会社よりもずっと小規模でお給料も少なくなるけど、面接をしてくれた方も穏やかだったし、会社の雰囲気もよさそうだった。
なにより、最後まできちんと面接を受けられたことが嬉しくて。
それに加えて、採用の連絡。
大澤係長に一番に伝えたくて、玄関で待ち伏せなんてしてしまったけど。嫌な顔一つしないで、まるで自分のことのように喜んでくれた。
きっと係長がいなかったら、私は勇気を出せなかった。
面接前に頭に浮かんだのは、以前のような嫌な記憶ではなく、私を見て優しく笑う大澤係長の顔。
改めて私は、この人のことが好きなんだと確信した。
玄関で待ち構えるようにしていた私に、帰宅した大澤係長は目を丸くする。
ことの次第を伝えると、すぐに「よかった」と言って笑ってくれて、思わず泣きそうになった。
「今日はポークチャップです!私昔から、お母さんの作るこのメニューが大好きで。今日のお弁当にも詰めていったんですけど、夜も食べたくなったから作ってしまいました」
「いい匂いがする」
私にとっては、勝負時に豚カツやカツ丼を食べるのと一緒。
小さい頃からお母さんのポークチャップが大好きで、大切な日の前日にはいつも作ってもらってた。
すりおろした玉ねぎに一晩漬け込んだ豚ロースは、肉厚なのに柔らかい。
ケチャップの酸味とウスターソースのコクがしっかり絡んで、隠し味のにんにくのお陰で白ごはんとの相性も抜群だ。
簡単だけど、大好きなメニュー。少し、子供っぽいかもしれないけど。
「凄くうまい。俺これ好きだわ」
何度もそう言って、大澤係長は炊き立てのご飯をお代わりした。
自分の好きなものを相手にも喜んでもらえるのは、嬉しい。
「大澤係長のおかげです、本当にありがとうございました」
「俺はなにもしてないよ。山田さんの努力の成果だから」
「そんなことありません。面接の練習に付き合っていただけて、とても心強かったです」
「役に立てたならよかった」
数日前に面接を受けた会社から今日、採用の連絡をもらった。
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なにより、最後まできちんと面接を受けられたことが嬉しくて。
それに加えて、採用の連絡。
大澤係長に一番に伝えたくて、玄関で待ち伏せなんてしてしまったけど。嫌な顔一つしないで、まるで自分のことのように喜んでくれた。
きっと係長がいなかったら、私は勇気を出せなかった。
面接前に頭に浮かんだのは、以前のような嫌な記憶ではなく、私を見て優しく笑う大澤係長の顔。
改めて私は、この人のことが好きなんだと確信した。
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