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「第二章 この状況を、有効活用することにしました」
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「深い意味はないわ。気に障ったのなら」
「違うよ、そうじゃない。僕達はお姉様が本当はどう思っているのか、それが知りたいんだ!」
「私は……」
珍しくあたふたと取り乱しているリリアンナの右と左に、それぞれルシフォードとケイティベルが寄り添う。まん丸な空色の瞳は、一点の曇りもなく輝いていた。
「お願いお姉様、誤魔化さないで本当のことを言って!」
「嫌いなら、嫌いって!」
「そ、それは違うわ!」
可愛らしい声が両サイドから聞こえてきて、リリアンナはくらくらと眩暈がしそうだった。今日はどうしてこんなに積極的なのだろうと戸惑いながらも、まっすぐにぶつかってもらえることが嬉しくてたまらない。
ブラックドレスの裾をきゅっと握り締め、幾分自信なさげな声色でぼそぼそと呟いた。
「ケイティベルにはもっと、元気で満開の花が似合うと思ったから……」
「似合わないって、思っていないの?」
ふるふると首を左右に振る姉を見て、ケイティベルはほうっと安堵の溜息を吐く。それを勘違いしたリリアンナは、呆れられたのではと顔から血の気が引いた。
「僕、この萎れたお花が可哀想だと思ったんだ。ベルと一緒なら、この子も喜ぶから」
「そうだったのね……」
なんて優しい子なのだろうと、リリアンナは無意識のうちに腰元を探る。ハンカチは見つからなかったが、代わりにぎゅうっと太腿をつねって涙を引っ込めた。
「い、痛っ!」
力加減が出来ず、彼女は勢いあまってどしんと尻餅をつく。姉が失敗する姿なんて初めて見たと、双子は顔を見合わせた。
「もしかしてお姉様って、意外とドジなのかな」
「そうかも。あの時私の花冠を踏んだのも、きっとわざとじゃないのよ」
「意地悪って噂は、嘘なのかもしれないね」
ふふっと笑う双子と、恥ずかしくてたまらないリリアンナ。白パンのようにふっくらした丸い手が二つ、彼女に向かって伸ばされる。
「はい、お姉様!」
「僕達が引っ張るから掴まって!」
太陽の光を背負ったルシフォードとケイティベルは、きらきらと輝いて見える。リリアンナは瞳を逸らせず、そのままか細い両手を差し出した。
無事和解を果たした三人は、そのまま遊び始める。と言ってもリリアンナは弟妹のはしゃぐ姿を見ているだけだったが、鉄仮面の下でとても幸せそうな表情を浮かべている。
「わぁ、お姉様とっても上手ね!」
「本当、ベルとは大違いだ」
「なんですって?ルーシーのばか!」
ケイティベルはぷくっと頬を膨らませて、ルシフォードに詰め寄る。彼ら声を上げながら逃げ出し、いつの間にか花冠作りは鬼ごっこに変わった。
「お嬢様、お坊ちゃま。奥様がお呼びでございます」
その時、母ベルシア付きの侍女の一人が近付いてきて、二人に向かってそう口にする。まるでリリアンナのことは見えていないかのように、視界に映そうとはしない。
「やっぱり、僕達が知ってるまんまだ」
「あれは、過去の出来事なのね」
大方記憶通りに進むストーリーに、双子は鋭く推理する。気分は名探偵で、ありもしない眼鏡をくいっと上げる仕草をしてみせた。
「分かった、今すぐに行くよ」
夢のような時間が終わってしまったことに、リリアンナは内心絶望する。今日で一生分の幸運を使い果たしてしまったが、一切の悔いはないと。
「お姉様も、早く!」
「……私も一緒に?」
「当たり前でしょう?ほら!」
もちもちとした柔らかな手が、それぞれリリアンナを掴む。自分の意思とは関係なく溢れてくる涙が溢れないよう、彼女はぐっと顎を上げる。握り返す勇気はなかったけれど、ほんの少しだけ指に力を入れた。
「違うよ、そうじゃない。僕達はお姉様が本当はどう思っているのか、それが知りたいんだ!」
「私は……」
珍しくあたふたと取り乱しているリリアンナの右と左に、それぞれルシフォードとケイティベルが寄り添う。まん丸な空色の瞳は、一点の曇りもなく輝いていた。
「お願いお姉様、誤魔化さないで本当のことを言って!」
「嫌いなら、嫌いって!」
「そ、それは違うわ!」
可愛らしい声が両サイドから聞こえてきて、リリアンナはくらくらと眩暈がしそうだった。今日はどうしてこんなに積極的なのだろうと戸惑いながらも、まっすぐにぶつかってもらえることが嬉しくてたまらない。
ブラックドレスの裾をきゅっと握り締め、幾分自信なさげな声色でぼそぼそと呟いた。
「ケイティベルにはもっと、元気で満開の花が似合うと思ったから……」
「似合わないって、思っていないの?」
ふるふると首を左右に振る姉を見て、ケイティベルはほうっと安堵の溜息を吐く。それを勘違いしたリリアンナは、呆れられたのではと顔から血の気が引いた。
「僕、この萎れたお花が可哀想だと思ったんだ。ベルと一緒なら、この子も喜ぶから」
「そうだったのね……」
なんて優しい子なのだろうと、リリアンナは無意識のうちに腰元を探る。ハンカチは見つからなかったが、代わりにぎゅうっと太腿をつねって涙を引っ込めた。
「い、痛っ!」
力加減が出来ず、彼女は勢いあまってどしんと尻餅をつく。姉が失敗する姿なんて初めて見たと、双子は顔を見合わせた。
「もしかしてお姉様って、意外とドジなのかな」
「そうかも。あの時私の花冠を踏んだのも、きっとわざとじゃないのよ」
「意地悪って噂は、嘘なのかもしれないね」
ふふっと笑う双子と、恥ずかしくてたまらないリリアンナ。白パンのようにふっくらした丸い手が二つ、彼女に向かって伸ばされる。
「はい、お姉様!」
「僕達が引っ張るから掴まって!」
太陽の光を背負ったルシフォードとケイティベルは、きらきらと輝いて見える。リリアンナは瞳を逸らせず、そのままか細い両手を差し出した。
無事和解を果たした三人は、そのまま遊び始める。と言ってもリリアンナは弟妹のはしゃぐ姿を見ているだけだったが、鉄仮面の下でとても幸せそうな表情を浮かべている。
「わぁ、お姉様とっても上手ね!」
「本当、ベルとは大違いだ」
「なんですって?ルーシーのばか!」
ケイティベルはぷくっと頬を膨らませて、ルシフォードに詰め寄る。彼ら声を上げながら逃げ出し、いつの間にか花冠作りは鬼ごっこに変わった。
「お嬢様、お坊ちゃま。奥様がお呼びでございます」
その時、母ベルシア付きの侍女の一人が近付いてきて、二人に向かってそう口にする。まるでリリアンナのことは見えていないかのように、視界に映そうとはしない。
「やっぱり、僕達が知ってるまんまだ」
「あれは、過去の出来事なのね」
大方記憶通りに進むストーリーに、双子は鋭く推理する。気分は名探偵で、ありもしない眼鏡をくいっと上げる仕草をしてみせた。
「分かった、今すぐに行くよ」
夢のような時間が終わってしまったことに、リリアンナは内心絶望する。今日で一生分の幸運を使い果たしてしまったが、一切の悔いはないと。
「お姉様も、早く!」
「……私も一緒に?」
「当たり前でしょう?ほら!」
もちもちとした柔らかな手が、それぞれリリアンナを掴む。自分の意思とは関係なく溢れてくる涙が溢れないよう、彼女はぐっと顎を上げる。握り返す勇気はなかったけれど、ほんの少しだけ指に力を入れた。
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