17 / 75
「第二章 この状況を、有効活用することにしました」
6
しおりを挟む
屋敷に戻った三人は、母ベルシアからケイティベルの婚約話を聞かされた。彼女達はすでに知っているので、サプライズは台無しになっているが。
「誰かが秘密を漏らしたせいで、私が恥をかいたわ」
ベルシアはティーカップのハンドルを指で摘みながら、じろりとリリアンナに視線を向ける。いまだに彼女の仕業だと思っているらしい。
「どうする?やっぱりお母様に打ち明ける?」
「止めた方が良いわよ、絶対良い方向には向かない」
「それもそっか」
ぷっくりとした白い頬を突き合わせながら、双子は密談を交わす。誰にも気付かれていないと思っているのは、本人達だけだった。
「あらあら、貴方達二人は本当に仲が良いわね」
ベルシアの言葉にはっとして、適当な愛想笑いを浮かべる。母のことは大好きだったが、盲目的に信じられるほど子どもではない。
シーツぐるぐる巻きの未来回避の為にはやはり姉の力が必要だと、二人は確信していた。
「エドモンド殿下はとても素敵なお方よ。私の可愛いケイティベルの婚約者として、これ以上の男性はきっといないわ」
「ああ、うん。うーん、うん」
「あら、反応が良くないわね。気が進まないの?」
まったくもってその通りだと、ケイティベルはうんうん頷く。外国へ嫁ぐのも、あんな美丈夫の妻になるのも、全てが嫌で仕方ない。それに、誕生日パーティー当日に自分はその人に振られたような形になってしまうのだ。非常に不本意だし、すでに嫌いになりそうだった。
「家族と離れるのが寂しいの」
「私も寂しいわ。けれど会おうと思えばいつだって会えるし、なんといってもあんな大国の王族へ嫁げるのだから、こんなに幸運なことはないのよ」
最初にこの話を聞いた時、ケイティベルはわんわん泣いた。ルシフォードと共に何度も両親に抗議して、部屋に籠城したりもしてみたけれど、結局結果は変わらず。
今こうして冷静に母の顔を見てみると、娘の婚約を純粋に喜んでいる気持ちに嘘はないのだろうが、なんとなく他にも理由が隠れているように感じる。
急死に一生を得る(あるいは一度死んでいるかも)体験をした二人は、以前よりもずっと大人になっていた。死なない為には、感情だけで動かずにきちんと考えなければならないのだから。
「お姉様はどう思う?」
ケイティベルは、向かいに座るリリアンナに話を振ることにした。彼女はあくまで冷静に、自分には関係ないと頭を振る。
――ケイティベルが外国へ⁉︎そんなの寂し過ぎるわ‼︎ルシフォードだって泣いてしまうだろうし、私も耐えられない‼︎‼︎
と、心の中はこういった具合にダメージを受けていた。最初聞いた時は半信半疑だったが、改めて現実を突きつけられると非常に落ち込む。もちろんケイティベルが幸せならそれが一番なのだが、なんとなくそんな風には思えなかった。
「ケイティベルなら、必ず殿下に気に入っていただけるわ。優しくて可愛らしくて、愛さずにはいられないもの」
「お母様ったら、それは言い過ぎよ」
「あら、本当のことですもの」
ベルシアの口元は弧を描きながら、視線はちらりとリリアンナを見ている。まるで「貴女とは大違い」とでも言いたげに。
「ねぇ、お姉様。お姉様は、どんな男性がタイプなの?」
ケイティベルの突拍子もない質問に、さすがのリリアンナもぎょっとする。もしも姉の想い人がエドモンドなら、あんな風に婚約者を取り替えなくても最初から譲るのにと、彼女は考えた。
実際そんなに簡単な話ではないのだけれど、いかんせんまだ子どもなので仕方ない。
「ちなみに私は、ルシフォードみたいな人が良いわ。穏やかで優しくて、わがままをなんでも聞いてくれる人!あと、頬っぺたがふにふにしているところも」
「……ベル、それは褒め言葉に聞こえないよ」
「そんなことないったら」
じゃれ合う双子を前に「なんて尊いのかしら」と憂いの溜息を吐きながら、リリアンナは妹からの質問を真剣に考える。
どんな男性が好みかなど、想像したこともなかった。少しでも両親に認められたいと必死に生きてきて、婚約者であるレオニルのことも当然受け入れた。それは好き嫌いの問題ではなく、それを望まれているから。家のさらなる繁栄の為、大切な弟妹の為、自身の感情など関係ない。
「私は、レオニル殿下の婚約者よ。他に言えることはないわ」
きっと彼と結婚しても、大切にされないと分かっている。昔から自分以外に想い人いることに、なんとなく気付いていたから。それがいつからなのか、誰なのかまでは知らないが、感情のない結婚をしなければならないのは彼も同じ。恨む気持ちなどなく、むしろ同情すら感じていた。
「誰かが秘密を漏らしたせいで、私が恥をかいたわ」
ベルシアはティーカップのハンドルを指で摘みながら、じろりとリリアンナに視線を向ける。いまだに彼女の仕業だと思っているらしい。
「どうする?やっぱりお母様に打ち明ける?」
「止めた方が良いわよ、絶対良い方向には向かない」
「それもそっか」
ぷっくりとした白い頬を突き合わせながら、双子は密談を交わす。誰にも気付かれていないと思っているのは、本人達だけだった。
「あらあら、貴方達二人は本当に仲が良いわね」
ベルシアの言葉にはっとして、適当な愛想笑いを浮かべる。母のことは大好きだったが、盲目的に信じられるほど子どもではない。
シーツぐるぐる巻きの未来回避の為にはやはり姉の力が必要だと、二人は確信していた。
「エドモンド殿下はとても素敵なお方よ。私の可愛いケイティベルの婚約者として、これ以上の男性はきっといないわ」
「ああ、うん。うーん、うん」
「あら、反応が良くないわね。気が進まないの?」
まったくもってその通りだと、ケイティベルはうんうん頷く。外国へ嫁ぐのも、あんな美丈夫の妻になるのも、全てが嫌で仕方ない。それに、誕生日パーティー当日に自分はその人に振られたような形になってしまうのだ。非常に不本意だし、すでに嫌いになりそうだった。
「家族と離れるのが寂しいの」
「私も寂しいわ。けれど会おうと思えばいつだって会えるし、なんといってもあんな大国の王族へ嫁げるのだから、こんなに幸運なことはないのよ」
最初にこの話を聞いた時、ケイティベルはわんわん泣いた。ルシフォードと共に何度も両親に抗議して、部屋に籠城したりもしてみたけれど、結局結果は変わらず。
今こうして冷静に母の顔を見てみると、娘の婚約を純粋に喜んでいる気持ちに嘘はないのだろうが、なんとなく他にも理由が隠れているように感じる。
急死に一生を得る(あるいは一度死んでいるかも)体験をした二人は、以前よりもずっと大人になっていた。死なない為には、感情だけで動かずにきちんと考えなければならないのだから。
「お姉様はどう思う?」
ケイティベルは、向かいに座るリリアンナに話を振ることにした。彼女はあくまで冷静に、自分には関係ないと頭を振る。
――ケイティベルが外国へ⁉︎そんなの寂し過ぎるわ‼︎ルシフォードだって泣いてしまうだろうし、私も耐えられない‼︎‼︎
と、心の中はこういった具合にダメージを受けていた。最初聞いた時は半信半疑だったが、改めて現実を突きつけられると非常に落ち込む。もちろんケイティベルが幸せならそれが一番なのだが、なんとなくそんな風には思えなかった。
「ケイティベルなら、必ず殿下に気に入っていただけるわ。優しくて可愛らしくて、愛さずにはいられないもの」
「お母様ったら、それは言い過ぎよ」
「あら、本当のことですもの」
ベルシアの口元は弧を描きながら、視線はちらりとリリアンナを見ている。まるで「貴女とは大違い」とでも言いたげに。
「ねぇ、お姉様。お姉様は、どんな男性がタイプなの?」
ケイティベルの突拍子もない質問に、さすがのリリアンナもぎょっとする。もしも姉の想い人がエドモンドなら、あんな風に婚約者を取り替えなくても最初から譲るのにと、彼女は考えた。
実際そんなに簡単な話ではないのだけれど、いかんせんまだ子どもなので仕方ない。
「ちなみに私は、ルシフォードみたいな人が良いわ。穏やかで優しくて、わがままをなんでも聞いてくれる人!あと、頬っぺたがふにふにしているところも」
「……ベル、それは褒め言葉に聞こえないよ」
「そんなことないったら」
じゃれ合う双子を前に「なんて尊いのかしら」と憂いの溜息を吐きながら、リリアンナは妹からの質問を真剣に考える。
どんな男性が好みかなど、想像したこともなかった。少しでも両親に認められたいと必死に生きてきて、婚約者であるレオニルのことも当然受け入れた。それは好き嫌いの問題ではなく、それを望まれているから。家のさらなる繁栄の為、大切な弟妹の為、自身の感情など関係ない。
「私は、レオニル殿下の婚約者よ。他に言えることはないわ」
きっと彼と結婚しても、大切にされないと分かっている。昔から自分以外に想い人いることに、なんとなく気付いていたから。それがいつからなのか、誰なのかまでは知らないが、感情のない結婚をしなければならないのは彼も同じ。恨む気持ちなどなく、むしろ同情すら感じていた。
5
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる