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第五章「衝撃(たぶん)の真実」
10
「くれぐれも旦那様には内緒にしてください!」
「だけど、フィリア一人でちゃんと説明できるだろうか」
「それは私自身も大いに不安です」
とにかく、ヴァンドーム家に確執が生まれる事態だけは避けたい。口を開けば余計なことばかり、口を噤んでいても顔がうるさい(マリッサ談)私が、こんなに重要な話を上手く伝えられるのだろうか。
「というよりもまず、無断でセシルバ様に話してしまったことを一番に謝罪するべきでは……!」
「それは後回しでいいんじゃないかな。フィリアは、オズベルトを想っての行動しかしていないんだから」
いつの間にかナチュラルにファーストネームを呼ばれているけれど、今はそれどころではない。潔くセシルバ様のお力を借りようと、懇願の瞳で彼を見つめた。
顎に手を当てしばらく考え込む動作をした後、セシルバ様はぱっと晴れやかな顔でぽん!と手を叩く。
「分かった。僕がジャラライラの香りに誘惑されたふりをして、フィリアに迫ればいいんだ」
「何をどう考えたらそんな結論に⁉︎」
私には絶対に思い付かないような突拍子もない言動に、顔中の毛穴がぶわっと開いた。と思う。
セシルバ様は意地悪な笑みを浮かべて、可愛らしく肩をすくめる。ほんの少しこちらに顔を近付けて、ひそひそと内緒話のような口調で作戦内容を話し始めた。
「つまり、オズベルトが本当にフィリアに惹かれているかどうか確かめればいいわけでしょう?」
「それって、意味がありますか……?」
「君への態度がただの刷り込みなら、白い結婚として距離を取ればいい。もしオズベルトに気になる女性が出来た時は、それ相応の見返りをもらって身を引く。だけどもし、花の件なんか関係なくフィリアに好意を示すなら、それは彼が本当の愛を見つけたってこと」
説明されればされるほど、頭がこんがらがって脳が捻れていく。私を本気で好きだなんて、そんなことあるわけがないのに。
「オズベルトが運命の相手に出会えたって、僕は信じてるよ。この間のパーティーでの振る舞いを見ても明らかだし、今日だって僕を牽制してた」
「だからそれは、私の肌に香花が移っていると思っていらっしゃるから、セシルバ様や他の方を誘惑しては迷惑が掛かると……」
「そもそも、フィリアから花の香りを感じること自体がおかしな話じゃないか」
そう言われてみれば、確かにそうかもしれないけれど。
「私が毎日、庭園を走り回っては花壇にダイブしているから、物理的に香りが擦りつけられたのかも」
「あはは、だったらそれはそれでおもしろいね」
可愛らしい顔に似つかわしくない豪快な声で、セシルバ様は手を叩きながら笑った。
「僕、会う前から君のことを知っていたんだ。噂程度だけど、社交界にも顔を出さずに領地で泥まみれになって遊んでいる風変わりな令嬢がいるって」
ひとしきり笑った後、彼は爽やかにそう口にする。何も間違っていないけれど、そんなに素敵な表情で言う台詞じゃない気がする。
「そういえば、初めてお会いした時『噂はかねがね』とおっしゃっていましたよね。てっきり、旦那様から聞いた話だとばかり」
「まぁ、それもあるよ。だからずっと、フィリアのことが気になってしかたなかったんだ」
「それはつまり、珍獣を見てみたい好奇心というやつでしょうか?」
嫌味のつもりはなく、私は素直な感想を述べただけ。セシルバ様は旦那様を大切に思っていらっしゃるみたいだし、いくらお飾りの妻でも誘惑なんてしてくるはずがない。
「君って本当、斜め上の発想ばかりでおもしろいなぁ!」
「普通は嘘でも否定なさりません?」
「あはは!」
再びツボに入った様子の彼は、形のいい目元に涙を浮かべながらひいひい笑っていた。
「だけど、フィリア一人でちゃんと説明できるだろうか」
「それは私自身も大いに不安です」
とにかく、ヴァンドーム家に確執が生まれる事態だけは避けたい。口を開けば余計なことばかり、口を噤んでいても顔がうるさい(マリッサ談)私が、こんなに重要な話を上手く伝えられるのだろうか。
「というよりもまず、無断でセシルバ様に話してしまったことを一番に謝罪するべきでは……!」
「それは後回しでいいんじゃないかな。フィリアは、オズベルトを想っての行動しかしていないんだから」
いつの間にかナチュラルにファーストネームを呼ばれているけれど、今はそれどころではない。潔くセシルバ様のお力を借りようと、懇願の瞳で彼を見つめた。
顎に手を当てしばらく考え込む動作をした後、セシルバ様はぱっと晴れやかな顔でぽん!と手を叩く。
「分かった。僕がジャラライラの香りに誘惑されたふりをして、フィリアに迫ればいいんだ」
「何をどう考えたらそんな結論に⁉︎」
私には絶対に思い付かないような突拍子もない言動に、顔中の毛穴がぶわっと開いた。と思う。
セシルバ様は意地悪な笑みを浮かべて、可愛らしく肩をすくめる。ほんの少しこちらに顔を近付けて、ひそひそと内緒話のような口調で作戦内容を話し始めた。
「つまり、オズベルトが本当にフィリアに惹かれているかどうか確かめればいいわけでしょう?」
「それって、意味がありますか……?」
「君への態度がただの刷り込みなら、白い結婚として距離を取ればいい。もしオズベルトに気になる女性が出来た時は、それ相応の見返りをもらって身を引く。だけどもし、花の件なんか関係なくフィリアに好意を示すなら、それは彼が本当の愛を見つけたってこと」
説明されればされるほど、頭がこんがらがって脳が捻れていく。私を本気で好きだなんて、そんなことあるわけがないのに。
「オズベルトが運命の相手に出会えたって、僕は信じてるよ。この間のパーティーでの振る舞いを見ても明らかだし、今日だって僕を牽制してた」
「だからそれは、私の肌に香花が移っていると思っていらっしゃるから、セシルバ様や他の方を誘惑しては迷惑が掛かると……」
「そもそも、フィリアから花の香りを感じること自体がおかしな話じゃないか」
そう言われてみれば、確かにそうかもしれないけれど。
「私が毎日、庭園を走り回っては花壇にダイブしているから、物理的に香りが擦りつけられたのかも」
「あはは、だったらそれはそれでおもしろいね」
可愛らしい顔に似つかわしくない豪快な声で、セシルバ様は手を叩きながら笑った。
「僕、会う前から君のことを知っていたんだ。噂程度だけど、社交界にも顔を出さずに領地で泥まみれになって遊んでいる風変わりな令嬢がいるって」
ひとしきり笑った後、彼は爽やかにそう口にする。何も間違っていないけれど、そんなに素敵な表情で言う台詞じゃない気がする。
「そういえば、初めてお会いした時『噂はかねがね』とおっしゃっていましたよね。てっきり、旦那様から聞いた話だとばかり」
「まぁ、それもあるよ。だからずっと、フィリアのことが気になってしかたなかったんだ」
「それはつまり、珍獣を見てみたい好奇心というやつでしょうか?」
嫌味のつもりはなく、私は素直な感想を述べただけ。セシルバ様は旦那様を大切に思っていらっしゃるみたいだし、いくらお飾りの妻でも誘惑なんてしてくるはずがない。
「君って本当、斜め上の発想ばかりでおもしろいなぁ!」
「普通は嘘でも否定なさりません?」
「あはは!」
再びツボに入った様子の彼は、形のいい目元に涙を浮かべながらひいひい笑っていた。
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