一心君は、人狼です!

清澄 セイ

文字の大きさ
27 / 33
第八章「一心君のお父さんと、キオクの箱」

しおりを挟む
 神山さん達に連れられてやってきたのは、生まれて初めての人狼専用区。人間が入っちゃいけないって決まりはないんだけど、なんだか妙にドキドキして、一心君のシャツのスソを話すことができない。

「鼻の穴がふくらんでるけど」
「だ、だって!この気持ちをどうあらわしたらいいのか、分かんないんだもん!」
「こわい?」
「全然!」

 わたしの答えを聞いた一心君は、呆れたように笑った。

 テレビでしか見たことはなかったけど、専用区はいい意味で普通だ。確かに、耳とシッポが出てる人狼の方が多いけど、みんな仕事中だったり、スマホをいじってたり、ベビーカーを押してたり。

 わたしが住んでる街の風景と、なにも変わらない。

 怖いなんて感情は、ちっとも浮かばなかった。

「どうぞ、座って」

 案内されたのは、どこかの部屋の一室。広いけど、ソファとテーブルくらいしか置かれてない。

「まずは、二人が無事で本当によかった」
「助けてくれて、ありがとうございました」
「日向ちゃんになにかあったら、僕はご両親に顔向けができない」

 神山さんが、悲しそうに眉を下げる。

「…ごめんなさい」

 自分の行動がどれだけキケンなことだったのかを、わたしは改めて反省した。

 結局、一心君に守られてばかりで。

 神山さん達が来てくれなかったら、一心君が大ケガわしてたかもしれない。

 そう思うと、いまさら鼻の奥がツンと痛んだ。

「日向ちゃんがいなかったら、今頃僕と一心はこうして再会できていなかったよ。君にも君のご両親にも、本当に感謝している」
「神山さん……」
「実を言うと、僕もキオクを失っていたんだ。全部ってわけじゃないけど、一心とのことは思い出せなかった」

 思わず、え!っと声がもれる。まさか、神山さんまでキオクがなかったなんて。

「一心に触れてはじめて、僕は思い出した。あの店に感じていた懐かしい感情は、間違いじゃなかったんだと」

 ケガをしていた神山さんを、お父さんが助けた。それよりも前に、わたし達は神山さんに会ってたってことなのかな。

 さっき頭に流れてきた、あのシーンには。

 楽しそうに笑う、わたし以外の五人が映っていたから。

「どうして、こんなことになってしまったのか。それは……」
「はいはーい、俺から話しまーす」

 突然聞こえてきた、聞き覚えのあるハスキーでよく通る声。振り返ると、倉橋さんが八重歯を見せながらニシシッと笑っている。

 ピョコピョコ動く両耳は、頭の上についている。

「く、倉橋さん!?ま、ま、まさか……っ」
「そ、俺も人狼でーす」

 語尾に音符マークがつきそうなノリで、倉橋さんはそう言った。

 その後神山さんから怒られた倉橋さんは、シュンとしながらわたし達に事情を説明してくれた。

 まず神山さんの本当の名前は、大神さん。一心君のお父さんで、心さんと一緒に【ウルフマン】というグループを立ち上げた人。

 世界中を旅する料理人だったというのは本当で、心さんと一心君が一緒についていくこともあったらしい。

【ウルフマン】がキケンな真似をするようになってしまったのは、ロン君のお父さんであるリュウファさんがメンバーとして正式に加入してから。

 二人はもともと仲のいい友人だったらしく、考え方は違っても、敵同士じゃなかった。

 リュウファさんが人間を憎む気持ちがさらに強くなった原因は、ロン君のお母さんが事故に巻き込まれてしまったこと。

 神山さん…じゃなくて大神さんもそこにいて、ひどいケガを負ってしまった。

 二人が、一心君とロン君を守るためにそんなことになったっていうのは、前に一心君から聞いてた。

 彼は「自分のせいだ」って自分自身を責めていて、それはたぶんロン君も。同じ痛みを背負った二人は、お互いに友達以上の感情を持っているのかもしれない。

 ケガをした大神さんをお父さんが助けて、ウチで働くようになった。キオクをなくしていたから、一心君や心さんのところに帰ることも、グループのことも、どうすることもできなかった。

 ここまでは、なんとなく理解することができた。だけど不思議なのは、わたし達のことだ。

 心さんと一心君がしばらくウチにいたのは、リュウファさんの考えと合わなかったから。

 その時、大神さんは仕事でそばにいられなかったみたい。

 帰ってきてから一度ウチにやってきたのが、
 わたしも思い出したあのオムライスのシーン。

「どうも、リュウファが操作してたみたいなんだよね。心吾さんのキオク喪失はぐうぜんだったけど、それを利用して一心だけじゃなく三ツ星一家のキオクからも、心吾さんに関することを消しちゃったってわけ」
「キオクを消す…?そんなことが…」
「できちゃうみたいなんだなぁ、これが。ちなみに、心さんにもすごい特技があるよ。そのおかげで、日向ちゃん達のキオクは丸ごと消されてないし、心吾さんに触れることで、簡単に元通りになったってわけ」

 倉橋さんはさも簡単なことのように説明するけど、わたしの頭はごちゃごちゃで、なにをどう整理すればいいのかも分からない。

「俺は心吾さんがここにいるって分かってから、あの人がなにかされないように見張り役をしてたんだ。心さんも知ってる」
「そうだったんですね…」
「いろいろタイミングよかったでしょ?あれ、全部俺のおかげ。すごいでしょ?カッコいい?」
「あ、は、はい…」

 キラキラした笑顔に圧倒されていると、大神さんが「日向ちゃんを困らせるな」って、鋭い視線で倉橋さんをにらんだ。

「僕は買い出しを頼んだあの日に、全てを思い出した。そして倉橋に頼んで、リュウファのやろうとしていたことを止めたんだ」
「あの人、関係ない一般人まで巻き込もうとしてたからねぇ」

 もしも、大神さん達が間に合っていなかったらと思うと、背筋がゾクッとする。

「リュウファも、決して悪ではないんだ。ただ今回のことは、度を越している。それなりの処罰が、必要だ」
「まぁ、あとのことは俺達に任せてよ」
「日向ちゃん。本当に、ありがとう」

 大神の言葉に、ジワッと涙がにじむ。

 悔しくて、ギュッと唇を噛みしめた。

「わたし、なんの力にもなれなくて…みんなと違って普通の人間で…特別でもなんでもなくて……」
「そんなことない!」

 うつむくわたしの頭上に降ってきたのは、力強い声。見上げると、一心君の金色の瞳が悲しそうにユラユラゆれていた。

「お前がいたから、俺は父さんに会えた。お前がいたから、諦めたくないと思えた。お前がいたから、俺は……っ」
「一心君……」
「お前は、すごいんだ…っ」

 ほとんど同時に、ポロッとこぼれおちた涙。いろんな感情がない混ぜになって、ごちゃごちゃで、うれしくて、苦しい。

「お前の作るものは、世界一なんだ。それが、普通なわけない」
「アハハ、ありがとう」

 大神さんの大きな手が、わたし達の頭を優しくなでる。

 あふれる涙を拭うこともしないまま、わたし達は目を見合わせて笑った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...