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茜色に染まる空。
それを自室の窓からぼんやりとアリア・バレンシアは空を眺める。
「…お嬢様、クラム様がお見栄ですが、いかがいたしますか?」
同じ学校に通っていた仲のいい女友達。
この前の誕生日会にも来てくれていた、子爵の愛娘。
でも、今は…
「…ごめんなさい。今は誰とも会いたくないの」
「…かしこまりました」
ずっと控えていた執事のハリーが、部屋を出て友人のところへ伝言を告げに部屋を出た。
静かな部屋に一人。
軽く息を吐き、窓を背にしたアリアは自身の影を見てため息をついた。
誕生日会の祝いの席で、アリアは父親を亡くした。
誰かに殺害されたことが分かり、騎士達が調査をしているそうだが、一向に犯人が捕まる気配はない。
一家の大黒柱を亡くし、屋敷の中はしばらく慌ただしかった。
執事のハリーはもちろん、メイド達も忙しそうに日々を送る。
それをアリアはただ、自室にこもり過ごしていた。
脱力感。
何もしたくない。誰とも会いたくない。
まるで、自分の体ではないような感覚に陥っている。
食事をとっても、味がしない。
美味しいはずなのに、大好きな食べ物でさえ味が分からないのだ。
そのため、食事を残すことが増えた。
周りはもちろん、心配する。
それでも、苦笑を浮かべて大丈夫の一言。
そのせいで、日に日に、アリアは痩せていく。
それが、どんな風に周りに見られているのだろう。
父親を亡くした可哀想な娘?
傷心仕切って何も手につかない愛娘?
そう思われていなければ、何もこんな屋敷に人は訪ねてこないだろう。
「私は…………どうしたら………?」
あふれでた涙が、頬を伝う。
拭う力もなく、ただ、声を押し殺し、涙を流す。
これから、どうなるのか。
どうしたらいいのか。
先の見えない不安がアリアを襲った。
「……………………」
アリアの部屋の前。
漏れる声を聞きながら、執事のハリーは暗く悲しそうな表情を浮かべ立っていた。
だが、静かに息を吐くとハリーはその部屋を後に廊下を歩き始める。
「申し訳ありません…。お嬢様……」
ハリーから呟かれた言葉。
それはとても切ないものだった。
「ハリー・クロックっていう名前で公爵の屋敷に潜り込んでいたってことですか?」
ぼんやりとランプの明かりで照らされた部屋で、リオがそう問うとジークが頷いた。
オリバー・ネッセルの屋敷に調査のため来ていたユズリハ達。
それぞれ、屋敷に来たのはバラバラだったが、オリバー・ネッセルの趣味であった、からくりに引っ掛かり、隠し部屋へと落ちた三人は、オリバー・ネッセルの子供が公爵の屋敷で執事として働いていることを知った。
それも、名前を一部変えて。
「考えられるのは、昔からの知り合いのよしみでハリーを引き取ったということ。それか、オリバー・ネッセルの不正と公爵が何か関係していての復讐目的か」
「復讐ですか…?」
「公爵の評判の悪さはリオでも知ってるだろう?今回だって本来なら捕まるはずだったんだ。昔からやっていてもおかしくない」
「それ、どうやら当たりみたいです。見てください、これ」
ユズリハが読んでいたオリバーの日記を差し出す。
ジークが受け取り、リオと一緒に読み始めた。
不正が発覚し、騎士達の聴取を受けたと思われる日に綴っている内容。
それは、不正は全く心当たりがなく、完全に無関係であり、誰かが仕組んだ罠だと書いてあった。
それから、オリバー自身、犯人を探したのだろう。
調べて、調べて、一つの可能性を見つけていた。
それが、公爵の行っていた不正のことだ。
もしかしたら、公爵がしたことではと疑い始める内容で終わってしまっている。
その後の記述は誰かに破り捨てられ、無くなっているのだ。
「ハリーさんが屋敷に入ったのはただの偶然ではなく、必然。ジークの言うように、時を待って復讐を遂げるつもりだったんだと思います。でも、ハリーさんが手を下す前に誰かに公爵は殺害されてしまった…」
「ちょっと、待て。公爵を殺ったのはハリーじゃないのか?」
「あり得ません。私、あの後にハリーさんとばったりあって会話をしているんです。公爵を殺害するには早すぎます」
「それじゃ…いったい誰が…?」
「……リオ君、ネッセル家は魔法にたけている貴族だったか知っていますか?」
急に話を振られ、リオは一瞬たじろぐ。
「え、えっと…。確か魔法はそれなりに使えたと思います。あ、でも、さっきも言ったように、からくりが好きで、その延長で少しだけ魔法具も作ってたっていうのは聞いたことがあります」
少量の魔力を注ぐことにより使える便利道具。それが、魔法具だ。
耳飾りや首飾りの物、腕輪等、様々な魔法具が出回っている。
それを使うことにより、魔力が少なくても、それなりに魔法を使うことができるのだ。
「この部屋にも魔法具は残されてましたよ?ほら、壁に飾られてるのが、それです」
ジークの持っていたランプを持ち、部屋の壁に飾られている 五つの魔法具を照らす。
左側から桃色の花の首飾り、腕輪、ブローチ、耳飾りと並び、最後の一ヶ所で明かりが止まる。
照らされたそこには何もなかったから。
いや、正確には何かが飾られていたであろうそこに、本体が何もないというのが、正しいだろう。
「あれ……?」
「何もないな……」
「形からして……人形の形をしたものが飾られていたみたいですね?」
飾られていた物の後がくっきり残っている。
長年そこに飾ってあった証拠だ。
落ちている訳でもなければ、他の場所にあるわけでもない。
ということは………
「誰かが持ち出したってことか……?」
「……そっか。そういうことなら繋がる…」
『…………………?』
一人で納得するユズリハにリオは不思議そうにジークを見た。
何かを察したようでジークは口元に笑みを浮かべている。
「わかったみたいだな、犯人が」
ジークがそう言うとユズリハは頷いて見せた。
「まずはここから早く出ましょう。犯人が消される前に捕らえなくてはいけませんから」
それを自室の窓からぼんやりとアリア・バレンシアは空を眺める。
「…お嬢様、クラム様がお見栄ですが、いかがいたしますか?」
同じ学校に通っていた仲のいい女友達。
この前の誕生日会にも来てくれていた、子爵の愛娘。
でも、今は…
「…ごめんなさい。今は誰とも会いたくないの」
「…かしこまりました」
ずっと控えていた執事のハリーが、部屋を出て友人のところへ伝言を告げに部屋を出た。
静かな部屋に一人。
軽く息を吐き、窓を背にしたアリアは自身の影を見てため息をついた。
誕生日会の祝いの席で、アリアは父親を亡くした。
誰かに殺害されたことが分かり、騎士達が調査をしているそうだが、一向に犯人が捕まる気配はない。
一家の大黒柱を亡くし、屋敷の中はしばらく慌ただしかった。
執事のハリーはもちろん、メイド達も忙しそうに日々を送る。
それをアリアはただ、自室にこもり過ごしていた。
脱力感。
何もしたくない。誰とも会いたくない。
まるで、自分の体ではないような感覚に陥っている。
食事をとっても、味がしない。
美味しいはずなのに、大好きな食べ物でさえ味が分からないのだ。
そのため、食事を残すことが増えた。
周りはもちろん、心配する。
それでも、苦笑を浮かべて大丈夫の一言。
そのせいで、日に日に、アリアは痩せていく。
それが、どんな風に周りに見られているのだろう。
父親を亡くした可哀想な娘?
傷心仕切って何も手につかない愛娘?
そう思われていなければ、何もこんな屋敷に人は訪ねてこないだろう。
「私は…………どうしたら………?」
あふれでた涙が、頬を伝う。
拭う力もなく、ただ、声を押し殺し、涙を流す。
これから、どうなるのか。
どうしたらいいのか。
先の見えない不安がアリアを襲った。
「……………………」
アリアの部屋の前。
漏れる声を聞きながら、執事のハリーは暗く悲しそうな表情を浮かべ立っていた。
だが、静かに息を吐くとハリーはその部屋を後に廊下を歩き始める。
「申し訳ありません…。お嬢様……」
ハリーから呟かれた言葉。
それはとても切ないものだった。
「ハリー・クロックっていう名前で公爵の屋敷に潜り込んでいたってことですか?」
ぼんやりとランプの明かりで照らされた部屋で、リオがそう問うとジークが頷いた。
オリバー・ネッセルの屋敷に調査のため来ていたユズリハ達。
それぞれ、屋敷に来たのはバラバラだったが、オリバー・ネッセルの趣味であった、からくりに引っ掛かり、隠し部屋へと落ちた三人は、オリバー・ネッセルの子供が公爵の屋敷で執事として働いていることを知った。
それも、名前を一部変えて。
「考えられるのは、昔からの知り合いのよしみでハリーを引き取ったということ。それか、オリバー・ネッセルの不正と公爵が何か関係していての復讐目的か」
「復讐ですか…?」
「公爵の評判の悪さはリオでも知ってるだろう?今回だって本来なら捕まるはずだったんだ。昔からやっていてもおかしくない」
「それ、どうやら当たりみたいです。見てください、これ」
ユズリハが読んでいたオリバーの日記を差し出す。
ジークが受け取り、リオと一緒に読み始めた。
不正が発覚し、騎士達の聴取を受けたと思われる日に綴っている内容。
それは、不正は全く心当たりがなく、完全に無関係であり、誰かが仕組んだ罠だと書いてあった。
それから、オリバー自身、犯人を探したのだろう。
調べて、調べて、一つの可能性を見つけていた。
それが、公爵の行っていた不正のことだ。
もしかしたら、公爵がしたことではと疑い始める内容で終わってしまっている。
その後の記述は誰かに破り捨てられ、無くなっているのだ。
「ハリーさんが屋敷に入ったのはただの偶然ではなく、必然。ジークの言うように、時を待って復讐を遂げるつもりだったんだと思います。でも、ハリーさんが手を下す前に誰かに公爵は殺害されてしまった…」
「ちょっと、待て。公爵を殺ったのはハリーじゃないのか?」
「あり得ません。私、あの後にハリーさんとばったりあって会話をしているんです。公爵を殺害するには早すぎます」
「それじゃ…いったい誰が…?」
「……リオ君、ネッセル家は魔法にたけている貴族だったか知っていますか?」
急に話を振られ、リオは一瞬たじろぐ。
「え、えっと…。確か魔法はそれなりに使えたと思います。あ、でも、さっきも言ったように、からくりが好きで、その延長で少しだけ魔法具も作ってたっていうのは聞いたことがあります」
少量の魔力を注ぐことにより使える便利道具。それが、魔法具だ。
耳飾りや首飾りの物、腕輪等、様々な魔法具が出回っている。
それを使うことにより、魔力が少なくても、それなりに魔法を使うことができるのだ。
「この部屋にも魔法具は残されてましたよ?ほら、壁に飾られてるのが、それです」
ジークの持っていたランプを持ち、部屋の壁に飾られている 五つの魔法具を照らす。
左側から桃色の花の首飾り、腕輪、ブローチ、耳飾りと並び、最後の一ヶ所で明かりが止まる。
照らされたそこには何もなかったから。
いや、正確には何かが飾られていたであろうそこに、本体が何もないというのが、正しいだろう。
「あれ……?」
「何もないな……」
「形からして……人形の形をしたものが飾られていたみたいですね?」
飾られていた物の後がくっきり残っている。
長年そこに飾ってあった証拠だ。
落ちている訳でもなければ、他の場所にあるわけでもない。
ということは………
「誰かが持ち出したってことか……?」
「……そっか。そういうことなら繋がる…」
『…………………?』
一人で納得するユズリハにリオは不思議そうにジークを見た。
何かを察したようでジークは口元に笑みを浮かべている。
「わかったみたいだな、犯人が」
ジークがそう言うとユズリハは頷いて見せた。
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