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六話 リア充、騎士を持ち帰る
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時刻は午後十時半頃。
ピークの時間は過ぎ、お客様はまばら。注文はほとんどなく雑談に花咲かせている状況。
グラスを磨いているそのタイミングで、待ちにまってたお客様がカウンター席へといらっしゃった。
「いらっしゃいませ!」
「リュウか、久しぶりだな」
銀髪のポニーテールが映える凜々しい女性。オフの時間だというのに、兜以外の甲冑を身につけているさまは相変わらずだ。
ヴァルキリオンのパーティの一人、騎士のリリーアさんだ。
「今日もユメ酒ですか?」
「いや、ビーアをいただこう。思い切り流し込みたい気分なんだ」
「かしこまりました、少々お待ちください」
ジョッキグラスにビーアを入れ、お通しであるトメトのお浸しを持ってリリーアさんの元へ持って行く。
「おお、今日はトメトか。いい日に戻ってこれたものだ」
そう言って、リリーアさんはトメトを一口食べると、ビーアを一気に口の中に流し込んだ。
「かぁ!久しぶりに飲む酒は格別だな!」
「ちょっとリリーアさん、あんまりお酒強くないんですからそんな一気に」
「なんだリュウ、客である私に文句をつけるのか?」
「文句ではなく心配です。仕事は大丈夫なんですか?」
「それなら心配はいらない、長い遠征だったからしばらく休みだ。というわけでビーア」
火照った表情を見せながら、リリーアさんは飲み終えたグラスを俺に渡してきた。
まあ仕事がないなら別にいいんだけど、確かにリリーアさんがアルヴァに来たのは久しぶりだし。
とはいえいつもは度数の強くないユメ酒をちょびちょび一杯飲んで帰っている。ビーアも度数は高くないが量は多い、来て早々二杯目というのはちょっと不安だ。
「リュウ」
リリーアさんのビーアを注いでいると、厨房の方からアルラさんの声がした。何かやらかしてしまっただろうか。
「それ出したら今日はもう上がりな、まかないはリリーアの隣に置いておくから」
「えっ、でも」
「返事ははい!」
「はい!」
急な申し出に頭がついていかなかった。いつもより遅くまで残ることはあれど、早く帰れというのは初めてだ。
アルラさん、優しいところもあるじゃないか。普段はまかないだって勿体ないとこあ言うくせに・・・・・・
せっかくのご厚意だ、さくっと着替えてリリーアさんの隣でお話でもしよう。
ちょうど、訊きたかったこともあるし。
―*―
だがしかし、俺の考えなど一瞬で水泡に帰すのであった。
「おーいリュウ!ビーアだビーア、仕事の時間だぞ~」
着替えてリリーアさんの隣に座ろうとした頃には、すでに二杯目のビーアが空になっていた。
問題は、リリーアさんの顔がリンゴのように真っ赤であること。
普段ですら顔に赤みが差すのに、この短時間でビーアを二杯。普段のクールさなど微塵も感じられない。
・・・・・・もしかして俺、リリーアさんの相手をするために早く上がらされたのか?
「リリーアさん、せめてペースを」
「おっ、ビーア来た!」
「えっ?」
いつの間にやら、カウンターにはビーアの入ったジョッキが置かれていた。
正式な注文でもなかったのにこんな早く、それこそ魔法でも使ったのではないかと疑うレベルだ。
「それでだなリュウ、何の話だったか」
「いや、まだ何も聞いてないですけど」
グラスを片手に、ジト目でこちらを見るリリーアさん。凜々しさではなく可愛さが先行していて、本当に別人のようだ。
「そうだ、バハヌスの話だ。あいつはことあるごとに私の胸を見てくるんだ。百歩譲って休憩時はいいだろう、戦闘中までそうなのは頭がおかしいと思わないか!?」
「まあそうですね」
バハヌスさんというのは恐らくヴァルキリオンの一人だろう、顔は見たことないがたまにリリーアさんの話から出てくる名前だ。
しかしこういった下世話な内容で名前が出たのは初めてだ、リリーアさんはそういう話は嫌いそうに見えるし。
しかし男としてはバハヌスさんという男の気持ちも分からないでもない、リリーアさんは鎧の上からでも分かるほど立派なものをお持ちなのだから。
とはいえ、戦闘中にまで気にするというのはよく分からないことではあるが。
「バハヌスだけではない、私は今のパーティに限界を感じている。遠征は旅感覚、本当に危険な相手には様子見、我らが行かなくては誰が道を切り開くというのか!」
「ちょ、リリーアさん落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!この世界の命運が懸かっているんだぞ!」
店の迷惑など蚊帳の外、突然立ち上がったリリーアさんは腰に手を当て、ちょびちょび飲んでいたはずの三杯目すら飲み干してしまった。
「私は絶対に世界を救う。魔王などに世界を明け渡してたまるものか!」
そして巻き起こる、温かい拍手。リリーアさんの言葉は、お客様にとっては救いの言葉なのだろう。少なくともこの店内だけは騒がしい客にも優しい世界だった。
「今日は飲む!私がそう決めた!リュウ、私はビーアを所望する!」
「もうダメですって!普段と違うの自覚ありますか!?」
「な~にを言っている。トメトだってこんなに美味しいんだぞ?」
ダメだ、これ本当に危ないんじゃないのか?
本人は楽しそうだけど、無事帰れるのか。普段は敵なんていないだろうけど、この状況だと話は別だ。
「おっ、ビーア早いなぁ」
「アルラさん!?」
リリーアさんの状況など構いはしないのだろう、お金を払う客こそ正義と言わんばかりにジョッキを置いてくるアルラさん。
訊きたいことがあったんだけど今はもう絶対無理だろう。
俺はこれ以上、リリーアさんがお酒を飲まないようにすることに精一杯だった。
―*―
「リュウ~、私はまだ飲めるんだぞ~」
「おしまいです、さっさと帰りますよ」
リリーアさんの肩を担ぎながら、アルヴァを出た俺たち。まともに歩けないリリーアさんを俺が支えるしかないというのはどうなのだろうか。
リリーアさんの知り合いに助けを請いたいところだが、いかんせんどこにいるのかも分からないし。
「リリーアさん、俺ん家行きますけどいいですか?」
「リュウの家にはビーアがあるのか~?」
「ありません!」
どれだけストレスを抱えていたのだろうか、リリーアさんの口からはお酒のことしか出てこない。
それほど、意義のない遠征だったのだろうか。
鎧のせいか、想像以上に重いリリーアさんと二人三脚して歩く。こんな重い物を着ても騎士としてやっていけるなんて、どれだけ素早く動ける人なんだろう。
リリーアさんのようにすごい人が他にも数名いるというのだから恐ろしい話だ。
・・・・・・どういった人間であればヴァルキリオンにふさわしいのか、訊きたかったんだけどな。
人の多い大通りではなく細く薄暗い道を行き、少し遠回りしながらもようやく俺の家に着いた。
本当はリリーアさんに家の場所を訊いてそこへ連れて行くのがいいのだろうけど、こんな形で有名人、しかも女性の家を知ってしまうというのは気が引ける。
俺からリリーアさんの家の場所が伝播しないとは限らないんだ、何も知らないに超したことはない。
とりあえず、眠ってしまったリリーアさんが起きるまで、何事もなければよいのだが・・・・・・
そんなことを考えながら、俺とリリーアさんは家の中へと入っていった。
ピークの時間は過ぎ、お客様はまばら。注文はほとんどなく雑談に花咲かせている状況。
グラスを磨いているそのタイミングで、待ちにまってたお客様がカウンター席へといらっしゃった。
「いらっしゃいませ!」
「リュウか、久しぶりだな」
銀髪のポニーテールが映える凜々しい女性。オフの時間だというのに、兜以外の甲冑を身につけているさまは相変わらずだ。
ヴァルキリオンのパーティの一人、騎士のリリーアさんだ。
「今日もユメ酒ですか?」
「いや、ビーアをいただこう。思い切り流し込みたい気分なんだ」
「かしこまりました、少々お待ちください」
ジョッキグラスにビーアを入れ、お通しであるトメトのお浸しを持ってリリーアさんの元へ持って行く。
「おお、今日はトメトか。いい日に戻ってこれたものだ」
そう言って、リリーアさんはトメトを一口食べると、ビーアを一気に口の中に流し込んだ。
「かぁ!久しぶりに飲む酒は格別だな!」
「ちょっとリリーアさん、あんまりお酒強くないんですからそんな一気に」
「なんだリュウ、客である私に文句をつけるのか?」
「文句ではなく心配です。仕事は大丈夫なんですか?」
「それなら心配はいらない、長い遠征だったからしばらく休みだ。というわけでビーア」
火照った表情を見せながら、リリーアさんは飲み終えたグラスを俺に渡してきた。
まあ仕事がないなら別にいいんだけど、確かにリリーアさんがアルヴァに来たのは久しぶりだし。
とはいえいつもは度数の強くないユメ酒をちょびちょび一杯飲んで帰っている。ビーアも度数は高くないが量は多い、来て早々二杯目というのはちょっと不安だ。
「リュウ」
リリーアさんのビーアを注いでいると、厨房の方からアルラさんの声がした。何かやらかしてしまっただろうか。
「それ出したら今日はもう上がりな、まかないはリリーアの隣に置いておくから」
「えっ、でも」
「返事ははい!」
「はい!」
急な申し出に頭がついていかなかった。いつもより遅くまで残ることはあれど、早く帰れというのは初めてだ。
アルラさん、優しいところもあるじゃないか。普段はまかないだって勿体ないとこあ言うくせに・・・・・・
せっかくのご厚意だ、さくっと着替えてリリーアさんの隣でお話でもしよう。
ちょうど、訊きたかったこともあるし。
―*―
だがしかし、俺の考えなど一瞬で水泡に帰すのであった。
「おーいリュウ!ビーアだビーア、仕事の時間だぞ~」
着替えてリリーアさんの隣に座ろうとした頃には、すでに二杯目のビーアが空になっていた。
問題は、リリーアさんの顔がリンゴのように真っ赤であること。
普段ですら顔に赤みが差すのに、この短時間でビーアを二杯。普段のクールさなど微塵も感じられない。
・・・・・・もしかして俺、リリーアさんの相手をするために早く上がらされたのか?
「リリーアさん、せめてペースを」
「おっ、ビーア来た!」
「えっ?」
いつの間にやら、カウンターにはビーアの入ったジョッキが置かれていた。
正式な注文でもなかったのにこんな早く、それこそ魔法でも使ったのではないかと疑うレベルだ。
「それでだなリュウ、何の話だったか」
「いや、まだ何も聞いてないですけど」
グラスを片手に、ジト目でこちらを見るリリーアさん。凜々しさではなく可愛さが先行していて、本当に別人のようだ。
「そうだ、バハヌスの話だ。あいつはことあるごとに私の胸を見てくるんだ。百歩譲って休憩時はいいだろう、戦闘中までそうなのは頭がおかしいと思わないか!?」
「まあそうですね」
バハヌスさんというのは恐らくヴァルキリオンの一人だろう、顔は見たことないがたまにリリーアさんの話から出てくる名前だ。
しかしこういった下世話な内容で名前が出たのは初めてだ、リリーアさんはそういう話は嫌いそうに見えるし。
しかし男としてはバハヌスさんという男の気持ちも分からないでもない、リリーアさんは鎧の上からでも分かるほど立派なものをお持ちなのだから。
とはいえ、戦闘中にまで気にするというのはよく分からないことではあるが。
「バハヌスだけではない、私は今のパーティに限界を感じている。遠征は旅感覚、本当に危険な相手には様子見、我らが行かなくては誰が道を切り開くというのか!」
「ちょ、リリーアさん落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!この世界の命運が懸かっているんだぞ!」
店の迷惑など蚊帳の外、突然立ち上がったリリーアさんは腰に手を当て、ちょびちょび飲んでいたはずの三杯目すら飲み干してしまった。
「私は絶対に世界を救う。魔王などに世界を明け渡してたまるものか!」
そして巻き起こる、温かい拍手。リリーアさんの言葉は、お客様にとっては救いの言葉なのだろう。少なくともこの店内だけは騒がしい客にも優しい世界だった。
「今日は飲む!私がそう決めた!リュウ、私はビーアを所望する!」
「もうダメですって!普段と違うの自覚ありますか!?」
「な~にを言っている。トメトだってこんなに美味しいんだぞ?」
ダメだ、これ本当に危ないんじゃないのか?
本人は楽しそうだけど、無事帰れるのか。普段は敵なんていないだろうけど、この状況だと話は別だ。
「おっ、ビーア早いなぁ」
「アルラさん!?」
リリーアさんの状況など構いはしないのだろう、お金を払う客こそ正義と言わんばかりにジョッキを置いてくるアルラさん。
訊きたいことがあったんだけど今はもう絶対無理だろう。
俺はこれ以上、リリーアさんがお酒を飲まないようにすることに精一杯だった。
―*―
「リュウ~、私はまだ飲めるんだぞ~」
「おしまいです、さっさと帰りますよ」
リリーアさんの肩を担ぎながら、アルヴァを出た俺たち。まともに歩けないリリーアさんを俺が支えるしかないというのはどうなのだろうか。
リリーアさんの知り合いに助けを請いたいところだが、いかんせんどこにいるのかも分からないし。
「リリーアさん、俺ん家行きますけどいいですか?」
「リュウの家にはビーアがあるのか~?」
「ありません!」
どれだけストレスを抱えていたのだろうか、リリーアさんの口からはお酒のことしか出てこない。
それほど、意義のない遠征だったのだろうか。
鎧のせいか、想像以上に重いリリーアさんと二人三脚して歩く。こんな重い物を着ても騎士としてやっていけるなんて、どれだけ素早く動ける人なんだろう。
リリーアさんのようにすごい人が他にも数名いるというのだから恐ろしい話だ。
・・・・・・どういった人間であればヴァルキリオンにふさわしいのか、訊きたかったんだけどな。
人の多い大通りではなく細く薄暗い道を行き、少し遠回りしながらもようやく俺の家に着いた。
本当はリリーアさんに家の場所を訊いてそこへ連れて行くのがいいのだろうけど、こんな形で有名人、しかも女性の家を知ってしまうというのは気が引ける。
俺からリリーアさんの家の場所が伝播しないとは限らないんだ、何も知らないに超したことはない。
とりあえず、眠ってしまったリリーアさんが起きるまで、何事もなければよいのだが・・・・・・
そんなことを考えながら、俺とリリーアさんは家の中へと入っていった。
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