夜明けのひかり

湯殿たもと

文字の大きさ
16 / 26
3章 二年目の七月

夜明けのひかり その15

しおりを挟む
夜明けのひかり15


翌日午前、神社に向かう。作戦決行の最終準備を行うため。九尾さんに用があるので、うまく話しかけられる状況になるまで待つ。よこちゃんとひので君が買い物に出掛けていって、吹浦さんもまた別の方向に出掛けていった。今がチャンス。

「誰かいるんでしょ、出ておいで」

「は、はいっ!」

まさか先に声をかけられるとは、九尾さんはものすごく鋭かったっぽい。

「君は吹浦のとこの妖怪だね」

「はい。湯殿たもとといいます」

「私に用があるんでしょ」

「実はかくかくしかじかというわけで・・・・・・」

私は今までの出来事、そして考えてることをすべて説明した。客観的に見ればとんでもない話ではあるけど、うんうんと聞いてくれた。

「先のタイムスリップの話とかは解らないけど、ひーくんが欲しいんでしょ、それは協力してあげるよ」

「ありがとうございます!」

「いいっていいって」

九尾さんはかなり寛容な方だった。もっと厳しいかたを想像してたけど、そんなことは無かった・・・・・・名が残るような強い妖怪だから余裕があるのだろう。


夕方。山の上の町で私は出かける支度をして待っていた。いや、支度はお昼には終わったのだけど、そのままそわそわして部屋のなかを歩き回っている。しかも作戦まであと四時間もあった。落ち着いていられない、という感じ。夜ご飯もあまり喉を通らずおかわり出来なかった。え?普段から食べ過ぎ?知らないよ。

そろそろ丁度良い時間だと思い山を下る。今日は満月、そして快晴。月明かりが森を照らす。

思ったより早く神社に着いてしまった。早くどころかまだ九時にもなっていない。そわそわして早く出てきてしまった。その辺りを歩きまわって時間を潰そうとするが一時間たったところで限界を迎えた。こっそり裏口から社務所に入る。社務所とよこちゃんの実家は別なのだがこちらに住んでいる。明かりが部屋からこぼれているのでそこを避けるようによこちゃんの部屋に侵入する。よこちゃんは本を読んでいた。

「きっと待ちきれないだろうと思ってた」

と少しだけ笑みを浮かべた。ここにいてもいいと言うのでその言葉に甘える。後でお返ししないといけないね。

一階での宴会は十一時には終わりすっかり静かになった。ひので君も寝る準備をしているに違いない。完全に眠ってしまう都合が悪い。今だ。一回外に出てひので君のいる部屋の窓を叩く。するりと窓が開く。

「こんばんは」

「誰?」

「夜風が涼しいですよ、遊びましょ」

違和感のあるセリフを口に出す。これは湯田川さんの案で不思議っぽさを全面に出した方が良いという。

「東海ひので君」

「なんで名前知ってるのさ」

「知ってるものは知ってるからね」

ひので君は黙ってしまった。少ししてから私はことばを繋ぐ。

「遊びに行こう」

「今から?夜中だよ」

「行こうよ、ほら」

ひので君はジャージて寝ていたのでそのまま連れ出した。手を引いて山を登る。念入りに草刈りをしたり石を取り除いたから暗くても歩きやすい。

「大丈夫?ついてこれる?」

「ちょっと休ませてくれ」

いったん休憩。山の中、静か環境で静かに休む。前にひので君と会ったときは大荒れだったけれど今日は本当に穏やかだった。こうこうと森を照らす満月、涼しい夜風。

休憩を終えいよいよ妖怪の町へ。ひので君はこの真っ暗な町を見てどのように思うだろうか。顔を覗くと寂しそうな顔をしていた。寂しいというか不安なのかもしれない。知らない人に真夜中の山道を歩き回らされたうえに変なところにつれてこられたらそうだよね。敵意を持っていないことを証明したいのだけど。

「さっそく何かしましょ、縄跳び?竹馬?」

このアホの子みたいな発言は湯田川さんから提案されたもの。気持ちをほぐすのにこういう発言をしたらいいと言われたのだけど。

「みんな寝ているじゃないか、それに俺も眠い」

「それじゃ私の家に泊まっていきなよ」

「そうするか」

やっぱり気が立っているようだった。私の部屋にはあらかじめ布団を二人分用意しておいたのでとなりに寝る。

ひので君と少し話したけど、すぐ眠ってしまった。


続きます。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...