夜明けのひかり

湯殿たもと

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3章 二年目の七月

夜明けのひかり その16

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夜明けのひかり その16


翌朝。目が覚めたのは朝の五時だった。まだひので君はすやすや寝ていて、その間に朝の支度を済ませる。そして、一番のお気に入りのワンピースを着た。普段こんな時間から着ないけれど今日は特別だった。本当にこれでいいのかな、と迷いが入る。

と、その時ひので君が目を覚ました。私の方を、思ったよりもじーっと見ていたので緊張するけど表情には出さない。そして起き上がって朝の支度を始めた。ひので君はそれが終わると窓の外を見始めた。私も覗いてみたけど特に何か珍しいものがあるという訳ではなかった。

少したってから、いつも通り食堂で朝御飯の支度をする。準備をしているとひので君があとからついてきた。それを見た同居人のお爺さんが首をかしげる。

「新入りさんか?」

私がつれてきたことを伝えるとお爺さんは咎めるような表情で、

「勝手に連れてきて騒ぎになったらどうする。帰してやりなさい」

と言う。私は大丈夫と言ったが確かにまずいかもしれない。よその人間をつれてきたひとをこの町で見たこともない。九尾さんに話をしてあるから大丈夫なのだけど。

外に出掛けようと思って着替えたのにこれじゃだめだ。朝ごはんを済ませると二人で部屋に戻る。

「俺はまだお前の名前を聞いてないぞ、自己紹介してくれ」

「そういえばそうだね、私は湯殿たもと。よろしくね」

「よろしくな」

危ない危ない。危うく名乗りはぐるところだった。私は名前をなのり安心したのだけど、ひので君はそわそわしている。

「何かしよう?」

「竹馬と競争はやだぞ」

「ボードゲームは?」

「ボードゲーム?」

「まあそれなら」

「超次元オセロで良い?」

「なんだその超次元って」

「イカサマオセロ?」

「せっかくだしそのイカサマとやらを見てみようか」

ひので君は案外ノリが良かった。思い出してみるとそんなにノリが悪い印象は無かったのだけどすっかり忘れていた。そしていろいろやっているうちに夕方になった。前もこんなゆったりとした一日があったような気がする。

「湯殿さん」

「どうしたの」

「どうして俺を誘拐したんだ、何をさせるってわけでもないのに」

「どうしてだと思う?」

「見当つかないな」

「高校生の男の子からは特に美味しい鍋が出来るんだよ」

「鍋の時期じゃないだろう」

「冗談だよ」

「だったら何でだよ」

「寂しかったからね」

「・・・・・・」

誘拐した直接の原因。それはひので君がタイムリープして一年前の私のところにやって来たから。でもそれは今のひので君は知らないし、言っても混乱を招くだけだった。

しかし、今ひので君の前にいて、私が言った「寂しさ」が紛らわされることは無かった。その寂しさはひので君が理解してくれることは無かった。梨香姉さんやよこちゃんは事情を知っているけどひので君は知らない。

晩御飯の後、私はふらりと町へ出た。空はうっすらと太陽の光を残し星が見えていた。梨香姉さんのところにやってくる。

「あれ?ひので君はどうしたのさ」

驚いたような顔でこちらを見る。私は今考えている、その気持ちを全部伝えた。冷静に考えるとバカみたいだけど、それを頷きながら聞いてくれた。

「それはね、ひので君と話足りないんだよ。もっと話したらきっと寂しさも紛れるから」

「そうかな」

「そうだよ、あたしも初めてここに来たときには寂しかったけど、たくさん話したら平気になったよ」

「ありがとう、私がんばってみる」

「うん。辛くなったらいつでも戻ってきなよ」

落ち着いた気持ちでひので君のいる部屋に戻る。ひので君とたくさん話して、寂しさを紛らわせていこう。

・・・・・・でも。九尾さんとの約束の時間は明日の十時だった。


続きます。

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