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狼の巫女 6
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午前九時。病院にて。
患者さんは非常にショックをうけていた。仲間三人が死亡。間違いなく狼に喰われたとその患者さんは言う。
「狼にしても熊にしても人里まで降りてきて人を襲う理由がないと思うんだけど」
「エサ不足とは聞いてないんだけどなぁ」
前ほど熊は人を恐れないとも聞いたことがある。そういえば昨日の晩に狼の仲間の少女が来てたな・・・
午後六時。夕食の時雪音が話し出す。
「警察の捜査を覗いてきたよ。死因は何かしらの動物に襲われたこと。熊ということになってますが確証は無いらしい。狼の可能性もあります。それで今週中に調査が行われるって」少し機嫌が良さそうだった雪音に対してこう返した。
「狼が可哀想だよ、そっとしておいてあげたいねぇ」
「いることがはっきり分かったほうが良いよ」
「どうして」
「保護につながるから」
「今まで絶滅したって言われてから百年も生き残ってきたんだ、保護は必要無いと思うぞ、むしろそっとしといたほうが良い」
「うう、保護した方がいいよ、もう。私の方が詳しいんだから口を出さないでよ」
しばらく静かだった兄、かおる君が口を開く。
「藤島家の言い伝えによると、生け贄が帰ってきたらその生け贄は神の使い。つまり巫女と同等。みずほは雪音に口出しする権利がある」
ちょっと待て、それって大抵の人は口出しできないじゃないか。どういう言い伝えなんだ。
「この言い伝えは生け贄が明らかに巫女より下の立場の時無効」
「明らかに下っていうことはないだろう」
雪音はくっくっくと笑い、こう続けた。
「巫女と結婚した男は、妻である巫女の支配下におかれる」
何のこっちゃ。きょとんとしてると雪音がすっと近づいて、こうささやく。
「結婚しよ?」
ぇえ、どういうこと?結婚だって?・・・冷静になれ。クールになれ、八代みずほ。僕はまだ働いて無いから当然雪音を養えないので、当然結婚できない。ていうかどういう流れなんだ、結婚て。
「結婚ってどういうことだ」
「拒否権は無いよ」
「結婚なんて駄目だぁ!」
かおる君が大声で叫ぶ。
「兄としてそんな愛の無い結婚は認められないぞ」
「雪音ちゃん、ええとね、僕はまだ働いて無いし、稼ぎも無いから君を養えない。だから今は結婚できないんだよ」
「ていうことはその時になったら結婚してくれるんだよね?」
ええっ・・・
「かおるが賛成するなら仕方ない、雪音を大事にしてやってくれ」
ええっ、賛成なんてしてないんだけど。未来のことはわからないけど、今のところ結婚なんて。
午後十一時。
さて、そろそろ寝よう。長く居すぎた。電気を消して布団に入る。その時するりと襖が開く。
「みずほ君、起きてる?」
「ん」
「あの・・・、一緒に寝ようよ、夫婦だし」
さっきの話はまだ続いていたのか。さすがそれはまずいんじゃないかと思っているうちに入ってきてしまった。
「ねぇ、狼っているのかなぁ」
「いるんじゃないのかな」
「何でそう思うの?」
「いや、単にいたら良いなって思ってるだけ、雪音ちゃんはいたら捕まえたい?」
「・・・えっと」
「僕は捕まえなくても良いと思うんだよ、ひっそりと暮らしているんだからそっとしておいてあげたい」
「うん・・・話変わるけど大学っておもしろい?」
「面白いよ、雪音ちゃんも沢山勉強すれば行けるさ」
「私、巫女をやってるからこの村を離れられないんだ・・・」
暗くてよく見えないが、落胆の表情を浮かべているようだ。声でわかる。
「巫女さんだから離れられないのか」
「うん、遠くに行こうとするとお年寄りに反対される、災いが起きるって」
「雪音ちゃん、巫女であることに人生をとらわれるのは良くない、本当に村の外でやりたいことがあるなら皆認めてくれるよ」
「・・・うん」
雪音とさまざまなことを話して、その夜は更けて行った。
続きます。気長にお待ちください。
患者さんは非常にショックをうけていた。仲間三人が死亡。間違いなく狼に喰われたとその患者さんは言う。
「狼にしても熊にしても人里まで降りてきて人を襲う理由がないと思うんだけど」
「エサ不足とは聞いてないんだけどなぁ」
前ほど熊は人を恐れないとも聞いたことがある。そういえば昨日の晩に狼の仲間の少女が来てたな・・・
午後六時。夕食の時雪音が話し出す。
「警察の捜査を覗いてきたよ。死因は何かしらの動物に襲われたこと。熊ということになってますが確証は無いらしい。狼の可能性もあります。それで今週中に調査が行われるって」少し機嫌が良さそうだった雪音に対してこう返した。
「狼が可哀想だよ、そっとしておいてあげたいねぇ」
「いることがはっきり分かったほうが良いよ」
「どうして」
「保護につながるから」
「今まで絶滅したって言われてから百年も生き残ってきたんだ、保護は必要無いと思うぞ、むしろそっとしといたほうが良い」
「うう、保護した方がいいよ、もう。私の方が詳しいんだから口を出さないでよ」
しばらく静かだった兄、かおる君が口を開く。
「藤島家の言い伝えによると、生け贄が帰ってきたらその生け贄は神の使い。つまり巫女と同等。みずほは雪音に口出しする権利がある」
ちょっと待て、それって大抵の人は口出しできないじゃないか。どういう言い伝えなんだ。
「この言い伝えは生け贄が明らかに巫女より下の立場の時無効」
「明らかに下っていうことはないだろう」
雪音はくっくっくと笑い、こう続けた。
「巫女と結婚した男は、妻である巫女の支配下におかれる」
何のこっちゃ。きょとんとしてると雪音がすっと近づいて、こうささやく。
「結婚しよ?」
ぇえ、どういうこと?結婚だって?・・・冷静になれ。クールになれ、八代みずほ。僕はまだ働いて無いから当然雪音を養えないので、当然結婚できない。ていうかどういう流れなんだ、結婚て。
「結婚ってどういうことだ」
「拒否権は無いよ」
「結婚なんて駄目だぁ!」
かおる君が大声で叫ぶ。
「兄としてそんな愛の無い結婚は認められないぞ」
「雪音ちゃん、ええとね、僕はまだ働いて無いし、稼ぎも無いから君を養えない。だから今は結婚できないんだよ」
「ていうことはその時になったら結婚してくれるんだよね?」
ええっ・・・
「かおるが賛成するなら仕方ない、雪音を大事にしてやってくれ」
ええっ、賛成なんてしてないんだけど。未来のことはわからないけど、今のところ結婚なんて。
午後十一時。
さて、そろそろ寝よう。長く居すぎた。電気を消して布団に入る。その時するりと襖が開く。
「みずほ君、起きてる?」
「ん」
「あの・・・、一緒に寝ようよ、夫婦だし」
さっきの話はまだ続いていたのか。さすがそれはまずいんじゃないかと思っているうちに入ってきてしまった。
「ねぇ、狼っているのかなぁ」
「いるんじゃないのかな」
「何でそう思うの?」
「いや、単にいたら良いなって思ってるだけ、雪音ちゃんはいたら捕まえたい?」
「・・・えっと」
「僕は捕まえなくても良いと思うんだよ、ひっそりと暮らしているんだからそっとしておいてあげたい」
「うん・・・話変わるけど大学っておもしろい?」
「面白いよ、雪音ちゃんも沢山勉強すれば行けるさ」
「私、巫女をやってるからこの村を離れられないんだ・・・」
暗くてよく見えないが、落胆の表情を浮かべているようだ。声でわかる。
「巫女さんだから離れられないのか」
「うん、遠くに行こうとするとお年寄りに反対される、災いが起きるって」
「雪音ちゃん、巫女であることに人生をとらわれるのは良くない、本当に村の外でやりたいことがあるなら皆認めてくれるよ」
「・・・うん」
雪音とさまざまなことを話して、その夜は更けて行った。
続きます。気長にお待ちください。
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