未来郵便

R3号

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夏休みが始まった最初の土曜日。
部活もオフで両親は出勤。

いつもの様にぼんやり過ごしていた。
何時であったかわからないがうとうとしていたところをインターホンが鳴る音ではっと目が覚めた。

玄関に出ると若い男の配達員が立っていて何通かの郵便物を渡された。
軽く会釈をして受け取り玄関を閉めた時にあることに気がついた。

それは、いつも郵便を届けてくれるのは母親と同世代くらいの女性であったことだった。

帽子とマスクで顔ははっきりと見えなかったが二十五~二十七歳くらいの初めて見る配達員だった。

担当が変わったのか。
愛想は前の女性の方が良かったなとか思った。

届いた郵便物の中に少し変なものが混ざっていた。

僕の名前と住所だけが書かれ、差出人の名も住所も書かれていない手紙があった。

封を開けると一枚の手紙が入っていた。

「拝啓、十二年前の僕へ。」

という書き出しで僕の頭には大きなはてなマークが浮かんだ。

「信用してもらえるか分からないが僕は十二年後の君だ。まあ信じられないよな。十二年前の僕ということは今は部活は〇〇中学から続けてきたテニス部を〇〇高校でもやっている時か。とても懐かしいな。」

「顧問の前田先生は厳しいだろ、でも大人になった今ではとても良い先生だったと思える。高森先輩や斉藤先輩、同級生の山岸や北澤とは今でも時々会うよ。部活のみんなで行った合宿で-」


と自分の周りの人名前や自分しか知らない話が書かれたその手紙は不思議と恐怖や気味の悪い物には感じられなかった。

「あんまり長くなると書くの疲れるからまた手紙出します。敬具」

この最後の方に面倒臭くなる感じに親近感すら覚えてしまった。

そんな不思議な手紙は三日に一通ほどの頻度で送られてくるようになった。

しかも毎回偶然自分しか家にいないタイミングで配達される。

過去を懐かしむように自分しか知らない家族や友人との話が書かれていた。

手紙が何通か溜まった頃にある自分との共通点に気がついた。
「僕」の字の書き方が今の自分と全く同じであるということだ。

昔から続け字でクシャッと書いてしまう癖があり学校の先生に度々注意されていた。

これが自分にとって一気にこの手紙に差出人が自分であること確信につながった。

夏休みの終わりがあと二週程に近づいた頃、どうにか夏休みの宿題を終わらせて残るは例の「将来の自分」についての作文課題だけとなった。

十二年後の自分からの手紙は過去を懐かしむばかりの内容でなんだか立派な大人には感じられていなかった。

我ながら頼りない。

机に向かい作文用紙を睨んでいると手紙が届いた。そういえばいつもは三日に一通のペースで来ていたのにここ一週間は届いていなかった。

課題に追われすぎて少し忘れていた。

いつもの様に手紙を受け取り部屋に戻って封を開けた。
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