黒い君と白い私と。

マツモトリン

文字の大きさ
上 下
2 / 11

2、出会い

しおりを挟む
じわじわと暑い日の午前、騒がしい教室。

ガララッ

扉が開いた途端、そこにいた数十人の視線が、先生の影に隠れて俯いている優に降りかかる。

先生「席につけー。今日は転校生を紹介する、白山優さんだ。それじゃあ白山さん、自己紹介をどうぞ。」

優「あ…あの……」

上手く言葉が出てこない。喉がカラカラになって、額から大量の汗が出て、顔が真っ赤になる。
大勢から好奇の目にさらされて、一気に緊張感が増す。
(うっ…怖い。)

優「し、しろっ、白山優です。…よ、宜しくお願いします。」

なんとか言い終え、安堵感を覚える。
少し顔を上げ周りを見渡すと、1人の男子が目に止まった。

色素が薄く、日差しに照らされて茶色がかった髪の間から見えるその瞳を、思わず見つめてしまう。
瞬間、パッと視線を逸らされる。
(っ!しまった、見過ぎた…。変な人だと思われたかな?)
そんな思いも露知らず、先生が声を上げた。

先生「白山さんはこっちに引っ越してきて間もないみたいだから、皆色々教えてやってくれ。じゃあ、そこの空いてる席座って。ホームルーム始めるぞー。」

優「…あっ。」

(空いてる席って、さっき目が合った人の隣だ…き、気まずい。)

助けを求めるように先生を見ると、ニカッと笑い返される。

(…分かるはずもないか。)

仕方なく席に座り、恐る恐る隣に目をやると、彼はうつ伏せになっていた。

(…寝た?は、早い…。)

サラサラとした髪を横目で見ながら、これからの学校生活にひどく不安を覚えた。

(ちゃんと上手くやっていけるのかな…。)



ホームルームが終わった後、直ぐに声をかけてきたのは、後ろの席に座る溌剌とした女子だった。

凛「はじめまして!あたし、川波凛。白山優ちゃんだよね?宜しくね!」

健康的な色の肌とは裏腹に、ポニーテールを揺らしてニコッと笑う仕草に女の子らしさを感じさせる彼女は、川波凛と言うらしい。

優「う、うん、宜しく。」

こんな自分に声をかけてくれる人がいるなんて、驚きだ。

凛「優ちゃんて、色が白くてふわふわしてるね。なんかお人形さんみたい…可愛い!」

凛「え!?そ、そんな事ないよ…。」

こんなにも自分を褒めてくれる人がいるなんて、更に驚きだ。
照れる反面、恥ずかしさがこみ上げてくる。

凛「そんな事なくない!ね、悠もそう思うでしょう?」

唐突に出てきた”悠”と言う名前にきょとんとしていると、隣から、低い声が聞こえた。

悠「…別に。」

声の方に顔を向けると、そこにはあの男子がいた。

(悠って言うんだ。)

凛「こいつ、悠って言うの!犬井悠。ちょっと無愛想かもしれないけど、大目に見てやって。照れてるんだよ。」

悠「照れてねえよ。」

耳をピンク色に染めた悠を見て、凛がくすくすと笑う。
優がその整った横顔を見つめていると、凛がニタニタと不敵な笑みを浮かべて呟く。

凛「あれ?もしかして優ちゃん…悠に惚れちゃった?まあしょうがないよね!悠イケメンだし。」

優「ぅえ!?い、いや、そんなことないよ!ち、違う違う!」

凛の言葉に、どっと汗が出る。

(や、やめてー!わたしに好かれるなんて、相手が不快に思うよ…。)

凛「吃ってるところが怪しい!なんなら、校舎の案内とか悠に頼んじゃえば?ね、悠、いいよね?」

(ひー待って!そんなの嫌がるに決まってる!)

尋常じゃない汗を手で握りしめ、動揺を隠せずに俯いた時、

悠「いいよ。」

と、声が聞こえた。

驚いて顔を上げると、茶色に光った瞳が、優の顔をじっと見つめていた。

悠「昼休み、空いてる?」

優「……う、うん。」

自分の顔が熱くなってゆくのを感じながら、それでも、その綺麗な瞳から目をそらせずにいると、凛が横から声をかけた。

凛「悠が承諾するなんて、珍しいね。優、良かったじゃん!」

優「うん、ありがとう。」

悠「珍しいってなんだよ、凛が頼んできたんだろ。」

(この学校は凄く良い人達ばっかりだな…。新しい学校生活、不安だったけど、なんとかやっていけそう…。)
しおりを挟む

処理中です...