黒い君と白い私と。

マツモトリン

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6、悪夢

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(ここはどこ?)

何も見えない真っ暗な空間を、行く当てもなくフラフラと彷徨う。
すると、遥か遠くに微かな光が見えた。

(光だ!)

駆け寄ろうと、足を上げる。
しかし、どんなにめいいっぱい力を振り絞っても、足がピクリともしない。
不思議に思って、自分の足を見下ろす。

足首に、赤黒いぐちゃぐちゃとした何かが纏わり付いていた。

「ひっ!」

ひどい異臭を放つそれをなんとか振り解こうと、もがく。
もがいてももがいても、一向に離れる気配がない。それどころか、足を動かそうとする度に呑み込まれて行く感覚がする。
暫くすると、ぐちゃぐちゃの泥状の何かから、段々と人の形に変わって、見覚えのある顔が浮かび上がった。

「…お母さん?」

そう認識した時、彼女は唐突に喋り出した。

「……ーーね」

「な、何?」

「…」

ぼそぼそと発せられる僅かな音を捉えようと、彼女の顔へ耳を傾けた瞬間。







「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

つん裂くような罵倒に、耳鳴りがし、恐怖を覚え、身体がガクガクと震えた。

逃げなきゃ!!!!

本能的にそう確信した時には、もう既に彼女によって皮膚がえぐられ腹わたが飛び出し腹から下が無くなっていた。
ぐちゃぐちゃと気持ちの悪い咀嚼音を発しながらケタケタと笑う彼女は、耳元でこう言った。

「お前はいらない子なんだよ。」

その言葉が、容赦なく心を突き刺した。
痛い。痛い痛い痛い。
激しい苦しみに耐えられず、意識が遠のいて行く。


すると、何処からか力強い声が聞こえた。
「…ン!ワン!!」

ハッとすると、目の前にはソラの顔があった。

優「…夢か。」

祖母の家に来てからと言うもの、優はほぼ毎晩悪夢にうなされていた。
額の汗を拭いながら、深呼吸をし乱れた呼吸を整える。

「クゥーン。」

優「大丈夫だよソラ。ありがとう。」

心配そうに見つめるソラを撫でながら、心を落ち着かせる。
サラサラと流れるように綺麗な毛並みに、優しく触れてゆく。
すると、次第に心が安らぐような気がした。
(ソラを撫でてると安心する…。)

悪夢を頻繁に見ているという事を、祖母は知らない。
心配をかけまいと、優が隠し通しているのだ。
この言い様のない不安と恐怖を何処にも吐き出せず、自分の奥底に詰め込む事が優の毎日の日課だった。

ところが、今日からは違う。
ソラがいる。
いつもなら自力で悪夢から脱しなければならなかった優は、ソラの声に導かれて目を覚ます事が出来た。
この時からソラは、優にとって唯一不安を打ち明けられるかけがえの無い存在となる。
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