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4章

お目々

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1.木々をなぎ倒したイザベルがこちらに向かって手を振ってきていた。
 あと少し斬撃がずれていたら直撃していたとか、言いたいことはたくさんあった。が、今はみんなに会えただけでとても嬉しかった。
「みんなぁ!」
 裕次郎は立ち上がり、駆け寄ろうとした。しかし足に力が入らない。すぐによろけて倒れてしまう。
「裕次郎! 大丈夫か?」
 イザベルは心配そうに駆け寄ってくると裕次郎をお姫様だっこした。少し遅れてルイーゼも到着する。シャルロットは・・・・・・どこにも見当たらなかった。多分豆芝と一緒にどこかで遊んでいるのだろう。
「何があったのかは知らんが、ずいぶん消耗しているようだし怪我もしている。一旦戻るとしよう。いいな?」
「・・・・・・うん」
 裕次郎はそれだけしか言えなかった。心の中ではまったく別の事を考えていたからだ。消耗していようが、怪我をしていようがたいした問題ではない。そう思っていた。今一番重要な問題は『邪力が解放された今、支配の力を使えば女の子を好きに出来る。しかし童貞卒業してしまえば悪魔に体を乗っ取られてしまう』というこの矛盾をどう解決するか。それだけだった。
「よし! なら戻るとしよう!」
 イザベルはそう言うと一気に山を下っていく。振動が鎧を通して伝わり、ちくちくと体を貫いていく。
「・・・・・・なんか・・・背中痛い・・・」
 裕次郎の呟きはイザベルには届かなかった。

2.イザベルは裏庭ガーデンから出ると、裕次郎を地面に寝かせた。いや、正確には放り投げたと言った方が正しいかもしれない。裕次郎は地面に叩きつけられ、一回転しうつ伏せになった。
「背中も怪我しているようだな。すぐに治してやる。治癒回復ヒーリング!」
 イザベルが呪文を唱えると、背中の傷はみるみる治っていた、しかし体全体の怠さ、疲れは取れない。なんとか立ち上がれるほどには回復したものの、とてもクエストを続けられるような状態ではなかった。
「右目の怪我もなおらないようだな・・・どうだ? 痛むのか?」
 イザベルが心配そうに右目に触れようとした。間一髪で鋭いトゲトゲを避ける。
「大丈夫だよ! 一晩寝れば治るんじゃないかな?」
 慌てて誤魔化し、帰ろうとするがやはりふらついてしまう。そんな裕次郎を見かねてか、イザベルが声をかける。
「裕次郎、やはり一人で帰るのは危険だ。が、私はこの後用事がある。ルイーゼに送ってもらうといい」
「はぁ? 私がなんでそんなことしなきゃいけないのよ!」
「仲間なのだから助け合うのは当然だ。後は頼んだぞ」
 イザベルは裕次郎とルイーゼのいざこざを知らない。頼むだけ頼んだあとどこかに行ってしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・行くわよ」
 ルイーゼは渋々裕次郎の体を支えた。二人はゆっくりと歩いていった。

3.「・・・・・・」
「・・・・・・」
 裕次郎とルイーゼは無言で歩いていた。気まずい空気が流れる。
「あ、あのさ! 今日いい天気だよね!」
「・・・そうね」
「あ、あと緊急クエスト初めてだったから緊張しちゃったよ!」
「・・・そうなの」
「・・・うん・・・そう」
 会話はそこで途切れてしまった。
 どうしよう・・・めっちゃ気まずい・・・そもそも何でこんなことになったんだっけ・・・そうだ。デートの件からか・・・
 裕次郎はため息をついた。そして考える。このままずっと気まずいままいるのと、ここで今誤解を解く。どちらがいいだろうか。
 それはもちろん誤解が解けた方がいいに決まっている。そうだ。そのそも『誤解』なんだこれは! 本当の事を話せばきっとルイーゼも分かってくれるはず!
「あ、あのさ!」
「・・・なによ」
 ルイーゼは睨み付けるように裕次郎を見た。少しびびってしまったが話を続ける。
「えっと、デートの話の時にいた女の子の話なんだけど・・・・・・あれは誤解なんだよ! ほんとに!」
「・・・・・・」
 ルイーゼは無言で睨み付けてきていた。裕次郎はしどろもどろで言い訳する。
「あの子は俺の力を監視してるだけっていうか・・・べ、別にデートの約束をしたとかじゃないんだよ? ちょっとした勘違いだったんだよ! あの日はルイーゼとデートするつもりだったんだよ!」
「・・・あの子とは別の日にデートするつもりだったってことね」
 ルイーゼは凍えるような目で裕次郎を見てきた。
 パニクった裕次郎は慌てて反論する。
「違うよ! あの子とデートなんてする約束なんてしてないよ! 他の子とデートなんてするつもりなかったし!」
「・・・そうなの?」
 ほんの少しだけルイーゼの表情が和らいだ気がした。裕次郎は畳み掛ける。
「うん! デートなんてするつもりなかったし! ルイーゼ以外の女の子と一生デートするつもりないし!」
「え?」
「ん?」
 ルイーゼはぽかんとした表情で見上げてきた。
 やっべ。調子に乗りすぎて告白みたいになっちゃった。このままじゃハーレム作れなくなっちゃう。裕次郎は頭をフル回転させ解決方法を考え出していた。

 続く。
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