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6章

てきへい

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1.裕次郎は突然足を掴まれ、顔から地面に倒れこんでしまう。
 顔面を強打し、泣きそうになる裕次郎。しかしそのおかげでイザベルの大剣が裕次郎を切り裂くことはなかった。
 足を引っ張った何かを確認しようと視線を向けるが、裕次郎にはそれがなんなのか確認できなかった。
 一瞬にして視界を奪われてしまったからだ。
「ぎゃああああ!」
 裕次郎は叫び声を上げながら転げ回る。瞼が鉄に変化したかのように全く開かなくなってしまった。
 辺りからも悲鳴や叫び声が聞こえてくる。
『まさか、敵が攻めてきたのか?』
 最初、裕次郎はそう考えた。しかしいつまでたっても殴られたり、斬られたりはしなかった。
 裕次郎は必死に瞼を持ち上げる。すると予想外の光景が広がっていた。
 周りにいた兵士たちも、イザベルも、イエリスもみんなその場で転げ回っていた。
 特にさっちゃんが一番重症のようだった。ぐったりと地面に貼り付いていた。
「さっちゃん!? 大丈夫!? 生きてる!?」
 裕次郎はさっちゃんを抱え起こした。
「加減、間違っちゃったのじゃ・・・・・・」
 さっちゃんは瞼を閉じたままぽろぽろ涙を流していた。そこで裕次郎は気がつく。
「もしかして、さっきの攻撃やったのさっちゃん?」
「お兄ちゃんが殺られそうじゃったから、注意を引くために角を全力で光らせてみたんじゃ・・・」
「さっき足を引っ張ったのも?」
「私じゃ・・・」
「そっか・・・ありがと・・・」
 裕次郎はお礼を言い、さっちゃんをおんぶした。他の人たちは未だに呻いているか転げ回っていた。
 角を光らせた瞬間、つまり一番眩しかった時に、地面とキスしていた裕次郎が一番軽傷だったようだ。
 そして一番重症なのは至近距離でスタングレネードをも遥かに越える閃光をくらったさっちゃんだった。
 強いけど、使えないな。だったん邪眼と同じだな。
 そんなことを考えていると、地響きのような足音のような、よく分からない音が聞こえてくる。
 今度はなんなんだよ・・・
 裕次郎はさっちゃんを木陰に寝かせたあと、音のする方へと視線を送る。
 そこには、砦から進軍してくる敵兵の姿があった。

2.「うわあああ! どうしよう!? どうしよう!?」
 裕次郎はパニックになりながら辺りを見回す。が、今だ回復している兵士はいない。
 すぐに交戦するほど近くには来ていない。が、このままではこちらが全滅してしまうだろう。
 なぜ居場所がばれたんだろう? と考えてみたが、すぐに答えは見つかった。
 そりゃ、山の斜面に本気で人間を蹴り飛ばしたり、大剣で地面を切り裂いたり、閃光を発生させたりしたらばれるよなぁ・・・
 そんなことを考えてると、急に怒鳴り声が聞こえてきた。
「敵か! 敵なのか!?」
 大剣を振り回しているイザベルの姿が目に入る。まだ視力は回復していないらしく、適当にぶんぶん振り回しているだけだ。
 だけだが、
 割りと被害が出ていた。
 剣圧がスゴかったからだ。イザベルが大剣を振り回すたび、兵士たちが飛ばされていた。あの威力の剣がまともに当たれば死んでしまうだろう。
 自陣にいるイザベルが今のところ一番危ない。
 少し冷静になってきていた裕次郎は、とりあえずイザベルの説得にかかる。
「イザベル! 敵兵はまだ来ていないから! 落ち着いて! とりあえず剣を下ろして!」
「おお! 無事だったか裕次郎!」
「う、うん。まあね」
 裕次郎はそう言いながら、『いや無事も何も俺まだイザベル以外に殺されそうになっていないんですけど・・・』と思っていた。しかしイザベルはさらに裕次郎を殺しにかかる。
「裕次郎! どこにいるのだ!」
 イザベルは裕次郎を探しながら剣を振るっていた。こう、杖で探る、ような手軽さで、剣を振り回していた。
 杖と違うところは、触れれば切れてしまう。それだけだ。
「ちょっと! 剣振り回さないで! 良いから少し落ち着いて! 深呼吸して! 深呼吸!」
「わかったわかった・・・・・・ふぅ・・・よし」
 イザベルは素直に深呼吸し、また大剣を振り上げる。
「だから剣を振り回すなああああ!」
 裕次郎は決死の覚悟でイザベルの後ろに回り込み、抱きついた。
「おお、そこにいたのか!」
 イザベルは目を閉じたままだったが、口元はにこにこと笑っていた。
 ついさっき殺そうとしたくせに調子よすぎないかな?
 そんなことを考えていたが、今はそれどころじゃない。
「イザベル、敵兵がこっちに向かってきてるの! このままじゃ全滅しちゃうよ!」






 続く。




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