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6章

たたかい

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1.敵兵の中に突入したイザベルは、大剣を炎で纏い、無茶苦茶に攻撃していた。
 頑強な鎧で敵兵の攻撃をはじき、大剣で力任せになぎはらう。そんな戦い方だった。
 一方イエリスは・・・イザベルと大差ない戦い方だった。しかし鎧を着ていないので、相手の攻撃は全てかわし、カウンターを決めるように攻撃していた。
 目、見えないはずなのにどうやって避けてんのかな・・・凄いなー。
 裕次郎はあまり何も考えず、ただ感心していた。
 そして予想外に善戦していたのはまさかのベルだった。
 上空からなにか白いものを降らせていたのだ。よく観察してみると、お腹についている六つの突起から、ポコポコと白い卵のようなものを産み落としていた。卵は地上に落ちるとすぐに孵り、その幼虫は敵兵の口の中に入っていった。
 無理矢理幼虫を飲み込まされた敵兵は、必死に吐き出そうとえずくが、出ては来ない。すぐに苦しそうにのたうち回り始める。
 しばらくたつと敵兵は意識を失い倒れてしまう。するとすぐにその口からすこし大きくなった幼虫がモゾモゾと這い出していた。そして次の獲物を探し始める。
 裕次郎は単純に『キモいけど強い能力だな』と感心していた。
 そして裕次郎はというと、なにもしていなかった。動けない敵兵を守るポジションだと思っていたのだが、そもそもイザベル、イエリス、ベルが敵兵を全てくい止めていた。
 裕次郎はやることもなく、暇を潰すためそばにあった花で花占いをすることにした。
 地面に座り、花びらを一枚一枚ちぎって占っていく。
「戦争に勝つ、負ける、勝つ、負ける、勝つ、負ける、勝つ、負ける・・・あ、負けちゃったぁ・・・もう一回しようかな・・・」
 裕次郎が遊んでいると、袖をくいくいと引かれる。振り返ると、目を擦っているサキが立っていた。
「あれ? もう大丈夫なの?」
「・・・うん・・・ちょっとめがかゆいけど、もうだいじょうぶ」
 サキはそう言いながら裕次郎の膝の上に座ってくる。
 サキも悪魔だから耐性あったのかな? そんなことを考えていると、いきなりサキが立ち上がった。
「パパ! ママがんばってるからいこう!」
「いや、パパはここを守るっていう重大な使命があるから・・・・・・」
「パパおはなであそんでたよ?」
「・・・違うから。あれは占いだから。遊んでたわけじゃないから」
「そうなの?」
「そうなの! サキも占いする?」
「うん! する!」
「なら花を摘んで・・・花びらを一枚一枚ちぎって占っていくんだよ。こんな感じ」
 裕次郎は先程と同じように占っていく。
「戦争に勝てる、勝てない、勝てる、勝てない、勝てる、勝てない、勝てる、勝てない・・・勝てなかったね。残念」
「じゃあサキもする! パパがせんそうでしなない、しんじゃう、しなない、しんじゃう、しなない、しんじゃう・・・パパせんそうでしんじゃうの?」
「・・・え・・・なんでそんなの占ったの」
 いくら占いとはいえ、死んじゃうとか言われたらちょっとビビってしまう。
 ビビった裕次郎はすぐに花を摘み、占う。
「死ぬ、死なない、死ぬ、死なない、死ぬ、死なない、死ぬ、死なない、死ぬ・・・・・・あのねサキ、占いっていうのは当たるときもあるし当たらないときもあるんだよ。だからわかんないんだよ実際」
「そうなの? パパしなないの?」
「うん! 死なないの!」
 そんな話を楽しくしていると、戦いが終わったのかイザベルたちが戻ってきた。閃光の効果が切れたのか、二人とも目を開いている。
「あ、お疲れさま~」
「さま~」
「ああ。ただいま。敵兵は全滅だ。あとは砦に五十人近く残っているらしい。すぐに皆殺しにいくぞ」
 イザベルは大剣についた血を拭き取り、そう言った。すぐにイエリスが口を挟む。
「だから今の時代皆殺しは駄目なの! 何回言ったら分かるの? バカなの?」
「あ? いくら姉上でも、戦争中に死にたくなければ言葉を慎むべきだと思うぞ?」
「ちょっとぉ! だからなんで喧嘩しようとするの! いや正直喧嘩はいいけど殺し合いはやめて!」
 裕次郎は慌てて二人を止めたが、なぜが当の本人たちがキョトンとしていた。
「え? 別に私イザベルのこと殺そうとなんてしてないよ?」
「同じくだ。何故そう思ったのだ?」
「いやだって蹴っ飛ばしたり斬りかかったりしてたじゃん!! 俺にも大剣で斬りかかろうとしてたじゃん!!」
 裕次郎が必死にそう言うと、二人は笑い始める。
「何を言う裕次郎。別に殺そうとなんかしてないし、ちゃんと急所は外すつもりだったぞ? それに姉上の蹴りだって本気ではなかったはず。でしょう?」
「そうね、本当に殺すつもりだったら蹴らないで首の骨折っていたし」
「だそうだ。裕次郎は考えすぎなのだ。姉妹の喧嘩はよくあることだろう?」
「・・・・・・はぁそんなもんですかね」
 裕次郎はもう何も言わなかった。そもそも大剣で切り裂けば急所かどうかなんて関係なくない? とか、あの威力の蹴りで死なない人間はあんまりいないと思うんですけど? 少なくとも俺は死ねますが何か? とか、さっき死にたくなければとか言ってたじゃん、とか突っ込みどころ満載だったが、とりあえずスルーすることにした。
 あきれ果てている裕次郎に構わず、イザベルはその腕を掴んだ。
「よし! それでは砦に攻めこむぞ!」
「ちょっと・・・まだ心の準備が・・・」
「サキもいく~」
「皆殺しは駄目だからね!」
「大丈夫です姉上。わかっていますよ、殺しはしませんよ殺しは」
 人間三人に悪魔二匹。裕次郎たちは砦へと向かった。












 続く。





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