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6章

たんさく

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1.裕次郎たちは、砦に敵兵が隠れていないか探索することにした。
 建物の中を一軒一軒確認していく。小さな砦だったせいか、兵士は家族を連れてきてはいなかったようだ。
 少し安心しながも、気を抜かないように注意する。
「パパ~、だれもいないね?」
「そうだね・・・ママが全部ぶちのめしちゃったからね・・・」
「ママつよいんだね!」
「そうだね・・・」
「パパは・・・つよくないの?」
「えっ!?」
 裕次郎は予想外の攻撃を受け、うろたえる。
『強くないの?』って訊かれるってことは、強くないって思われているってことなのかな?
 確かにあんまり良いとこ見せてない気がするし・・・ここは父親としての面子を保たないと。
「い、いや、パパはまだ本気だしてないだけだよ。本気だしたら町が壊れちゃったりするかもしれないからね」
「そうなの? じゃあつよいの?」
「うん。めっちゃ強いよ。腕振っただけで地面えぐれたりするし」
「そっか! パパよわいかとおもった! よかった!」
「うっ・・・良かったね」
 裕次郎はちょっとだけ心が痛んだが、顔には出さなかった。
 嘘はついてないし。
 右手封印されてなかったらイザベルよりも強かったし!
 まあ、ぶっちゃけサキが一番強いと思うけどね。裕次郎はサキの頭の上に生えている角を見ながらそう思った。

2.「・・・ふむ。敵兵の姿も無いようだし、異常も無しか」
 砦内部を全て確認し、裕次郎たちとイエリスは再度合流した。
 行動不能が解けた味方の兵士たちも続々と砦へと入ってくる。捕らえた敵兵は、全て一ヶ所に集め、備え付けてあった牢にぶちこんだ。
 イザベルは、『よく燃えそうですし、焚き火にしましょう!』とか意味不明な提案をしていたが、当然イエリスに却下されていた。
 味方の疲れを癒すため、砦の食料庫から目ぼしいものを持ち出し、宴会をすることになった。
 しかし、やってることは占領に略奪、まるで盗賊みたいだな・・・本当、戦争って恐い。
 裕次郎は改めて戦争の恐ろしさを再認識する。
 今回は奪う側だったから痛いこともあんまりなかったけれど、奪われる側だったら拷問とかされるかもしれないし、さっきの隊長みたいにボコボコにされるかもしれないし・・・痛いのは嫌だなぁ・・・
 少しだけ憂鬱な気分になっていると、上機嫌のイザベルが話しかけてきた。
「どうした裕次郎! 勝利を勝ち取ったというのに浮かない顔をしているなぁ! ほら! 飲め! 飲め!」
 イザベルは裕次郎の口を無理矢理開き、なにやら液体を注ぎ込んだ。
「・・・ゲホッ! ゴホッ!」
 その液体を飲んだ瞬間、喉が焼けるように痛む。
「え!? 何飲ませたの!?」
「・・・・・・えー? 何か言ったか?」
 イザベルはその液体をごくごくと飲み干していた。周りをみてみると、みんなジョッキ片手にうかれている。
 ヤコはずっとニャハニャハ笑っているし、イザベルはふらふらと足取りがおぼつかない。そのせいで鎧がガッシャンガッシャン騒音を立てている。
 イエリスは、何故か飲みながら泣いていた。心配した裕次郎は側に行ってみた。
「・・・うう・・・なんで結婚できないのよ・・・わたしよりよわいおとこがわるいんじゃないの・・・けっこんしたいなぁ・・・」
「・・・・・・」
 裕次郎は、無言でイエリスから離れた。

3.「うう・・・きもちわるい・・・」
 イザベルから無理矢理飲まされた裕次郎は、ふらつきながら建物の中へと入った。
「あれぇ!? ここどこだっけぇ!?」
 ふらふらと入ったその中は食料庫だった。宴会で半分以上飲み食いしたせいで中はガランとしている。
「うまいものあるかな・・・」
 裕次郎はごそごそと食料を漁る。
 すると突然、『ガタン!』と何かが倒れたような音がした。振り返ると、大きな樽がゴロゴロと転がっていた。
「おぉ! 美味しいものはそこかなぁ!?」
 裕次郎はよろよろと樽に近づくと、蓋を力任せに引っ張った。よほど固く閉まっているのか、なかなか外れない。
 仕方なく腰に挟んでいた雷刀を抜き、スイッチを入れる。
 ・・・今回の戦争で初めて斬るのが樽かよ。そう思いながら蓋を切り裂いた。
 蓋はあっけなく切断される。裕次郎は上機嫌で中を覗き込んだ。
「何かな~、何かな~」
 中には、プルプル震えている人間が入っていた。


 続く。







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