隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫ゆかり

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第2章

雅美の場合 その2 空白の年月

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「雅美よね? 私よ、鈴原美枝。懐かしいわ。わぁ、いつぶりかしら?」
 美枝が大げさに喜びながら、雅美に近づいてきた。
 雅美は(懐かしいと言われるほど、私たち親しかったかしら?)と言いたくなる気持ちを抑えて
「そうねぇ、高校を卒業して以来だから十年以上ね。あ、年齢がバレちゃう」と答えた。
 周囲のテニスのメンバーが、雅美と美枝を囲むように集った。
「雅美さんと鈴原さん、同級生だったの? 奇遇だねぇ。でもお互い一目でわかるっていうんだから、たいしたもんだよ。二人ともクラスのアイドルだったんじゃない? いやあ美人が増えてテニスも楽しくなるなぁ」
 最年長の佐々木隆が、冗談半分にそう言うと
「あ、佐々木さん、今の発言はセクハラです。もしくはルッキズムの権化。一発アウト、退場です」
 クラブの古参の女性メンバーの水野晴美が、笑いながら言った。
「いつもながら水野さんは、怖いなぁ。今度の試合のダブルスは、やっぱりご辞退させていただきます。毎試合、右に左に、僕は下僕のように振り回されるばかり。あれは立派な高齢者虐待です」
 やり合いながらも佐々木と水野は、息の合ったコンビであるのを誰もが知っているので、みんなは、どっと笑った。

 テニスの練習が終わり、めいめいが帰途につこうとしていると、美枝が雅美に駆け寄った。
「ねぇ雅美は、どこに住んでるの?」
「私? A市のB町よ」
「いい場所じゃないの。最近あの辺、タワマンばっかじゃない?」
「確かにね。でも都心のタワマンみたいな、そんなタイプじゃないわ」
「タワマンか。へぇ……」美枝はうらやましそうな表情をしたので、雅美はあわてて
「いやね。もう。それより美枝はどこに住んでるの?」と聞いた。
「あ、私? 私はC市。クルマがないと出かけられない所なの。まぁのんびりしてるから、子育てには向いてるけどね」
「そうなんだ」
 子育て、という言葉が雅美の胸を刺した。
 雅美は二十七歳で結婚したが、子供に恵まれておらず、数年前から不妊治療をしている。生理が来るたび落ち込む雅美に、夫の和也は「このまま二人だけでも、いいじゃないか」と慰めてくれるが、そんな優しい和也に一日も早く、可愛い赤ちゃんを抱かせてあげたいと雅美は思う。

「雅美は子供は?」
 雅美は、美枝に不妊治療のことを知られたくなかった。
「うちはいないの。まぁそのうちにって考えてるわ」
「ふぅん。でも生むなら若いうちよ。私がシンママでも頑張れるのも、若い時に生んだからよ」
 雅美は少し驚いた。
「いやぁね、驚かないでよ。今時、シンママなんて珍しくも何ともないでしょ。私、21の時に結婚したんだけど、ホントに世間知らずで、騙されたような結婚だったわ。ひどい男で今で言うモラハラ男。それに短気ですぐ手が出るの。子供のために我慢しようとしたけど、やっぱり無理だったわ」
「そう……」
 美枝が大げさな嘘をつく癖を知っていたので、雅美はそれ以上は何も聞かなかった。それに美枝に身辺のことを聞かれるのも、いやだった。
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