隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫ゆかり

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第2章

雅美の場合 その4 薔薇の花束

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 水野晴美の家は、すぐにわかった。
 もう、早くも訪れているメンバーの声が庭先から聞こえてくる。
 雅美が門扉の横のインターホンを押すと
「はーい。雅美さんね。そのままどうぞ」という晴美の声が聞こえた。
 雅美が玄関のドアを開けると、晴美が迎えに出た。
「いらっしゃい、みんな勝手に寛いでるし、とりあえず空いてる席にでも座ってね。ご無沙汰してます、雅美さんのご主人様。いつも雅美さんには、お世話になってます。最近、雅美さん、ますます腕が上がって、私は負けてばかりですよ」
 晴美が如才なく、挨拶すると和也も
「こちらこそ、お世話になってます。雅美からお噂はかねがね。今日のポテトサラダは、僕もお手伝いしたんですが、味の方はどうなりますか。食中毒にだけは、気をつけたつもりです」と答えた。
 庭が見渡せる、大きなリビングに案内されると、佐々木隆をはじめ、すでに三家族ほどが到着していた。美枝はまだ来ていないようだ。雅美は晴美を手伝うため、キッチンに入り食器を出し、テーブルに料理を並べた。晴美の夫は椅子に座っている男性グループに、飲み物を勧めている。そうしているうちにも二家族が到着し、来ていないのは美枝だけになった。
「鈴原さん、どうしたのかしら。来るはずなんだけど……」時計をみながら、晴美がつぶやいた。
 開始時刻、ギリギリに美枝はやって来た。
 高校時代、美枝は準備も後片付けも手伝わず、ギリギリにやってきたり、先に帰ったりする癖があったことを雅美は思い出した。

「すみません。娘のダンスの練習が、長引いちゃって」美枝は両手を合わせて、謝るポーズを取った。しかし子供の姿はなかった。
「娘ですか? 大人の集りにこんな子供がいたら迷惑だろうって、母が見てくれてるんです。あ、晴美さん、お呼ばれのお礼にお花を持ってきました」
 美枝がバラの花束を渡すと、晴美は一瞬、戸惑ったような表情を浮かべたが
「綺麗ね、ありがとう」とすぐに笑顔で受け取った。美枝は料理を持ってきていないようだった。
 席は晴美の娘が作った、くじで決まった。
 美枝の隣は、和也だった。雅美は大人げないな、と思いながらも、和也の横に美枝がいるのが、何となく不快だった。晴美が作ったパエリヤとローストビーフ、そしてそれぞれの家族が作った料理を並べ、食事会が始まった。
「わぁこのポテトサラダ、和也さんが作ったの? お料理が上手なのね。雅美は幸せね」
「いや僕は野菜を洗ったり、切ったぐらいですよ」
「私は雅美とずっと、同じクラスだったんです。雅美は勉強が得意だったけど、私は教科書よりファッション雑誌の方が好きで……どうしてもメイクアップアーティストになりたくて、親の反対を押し切って渡米したんですよ」
「へぇ、そうなんですか」
 美枝はそんな会話を和也と続けていた。
 雅美は自分の向かい側にある、美枝が持ってきた薔薇の花が目障りに感じた。
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