隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫ゆかり

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第2章

雅美の場合 その7 美枝の影 

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 タオルで髪を拭きながら、和也がバスルームから出てきた時、雅美は尋ねずにはいられなかった。
「今日、美枝と会ったの?」
 一瞬和也は、黙ったが
「ああ、二次会の帰り、駅でね。たまたまだよ」と答えた。
「どうして言わなかったの?」
「言わなかったって、言い忘れてただけさ。雅美、何を怒ってるんだよ」
「美枝からLINEが来たのよ。その後、あなたのスマホも鳴ったわ。美枝からじゃないの?」
「え?」
 和也はすぐスマホのロックを解除し、確認した。和也は黙った。
「美枝からなのね。会ったことも内緒にして、こそこそLINE交換までするなんて。私、高校の時から美枝は嫌いだった。何でも人の物を欲しがって。美枝は離婚したけど、その結婚だって不倫だったのよ。美枝は人の家庭を平気で壊す女なのよ」

 雅美は自分の言い方に毒があろうと、構ってられなかった。
「人の結婚や離婚のことなんか、どうでもいいだろ。それにLINE交換は、知り合いなら断れないよ。雅美だって、LINE交換するのにいちいち『夫と相談します』なんて言うのか?」
「今日、美枝はテニスクラブを無断で休んだの。和也だって、二次会に出席するなんて言ってなかったじゃない」
 和也はため息をついた。
「雅美、ほんとにどうかしてるよ。俺が美枝さんと何かあったとでもいうのか。二次会は、後輩から頼まれて出ただけさ。会社の仲間も知ってるし、写真だってある。美枝さんは、子育てで苦労してるし、あれから働きにいくふうだった。雅美の邪推だよ」
 雅美は和也が「美枝さん」というのすら、ぞっとした。それに自分の話より、美枝の肩を持つような和也の言い方も気に入らなかった。
「美枝と二人きりで会うのは、やめて」そう言うと、雅美は自室へ行きドアを閉めた。不妊治療のことは頭にあったが、とても寝室に行く気はしなかった。

 翌朝、気まずい思いで雅美は朝食の準備をした。
「昨日はごめんなさい。私、言い過ぎたわ」と雅美は謝ったが、和也は
「いいよ。もう。それより飲み過ぎたらしい。朝食は要らないよ」と言い、外出した。
 その日からしばらくは、雅美は和也と接するのが、ぎこちなかった。和也が美枝と何かあったという証拠もないのに、打ち消しても打ち消しても、和也の後ろに美枝がいるように思った。自分でも気にしすぎだと思いつつ、美枝の行動や言動を無視できなかった。

 テニスクラブで美枝と会うのも苦痛になったが、次第に美枝はテニスクラブを休むようになった。理由は「子供の体調が悪くて」「仕事の準備で忙しくて」といったものだった。
 ある日、水野晴美からLINEが来た。
「鈴原さん、クラブを辞めるらしいわ。知ってる?」
 雅美は、美枝が突然クラブを辞めることに安堵するより、不審に思った。美枝は何かを企んでいるのではないか。
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