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第4章
志織の場合 その9 指輪
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涼平は急ぎ足で通り過ぎ、志織には全く気がついていないようだった。志織は立ち上がり、涼平の後ろ姿を目で追うと、涼平は宝飾メーカーの店に入って行った。
涼平があの店に?
ブランドものに興味を持たなかったはずの涼平が、どうして宝飾メーカー店に? と一瞬、志織はいぶかしく思った。
しかしすぐに、志織は隣に立っていた女性の横顔を思い出した。その女性と涼平は、宝飾店で待ち合わせをしていたのだ。きっとそれは、涼平が彼女にクリスマスプレゼントを贈るためなのだろう。ふたりが仲良く指輪を選ぶ姿が目に浮かぶようだった。
「待った?」
慎一の声がした。
志織は慎一が近づいてきたことに、気がついていなかった。
「あ、全然よ。ちょっと前に来ただけなの」と志織は動揺を隠すように、微笑んでこたえた。しかし、その志織の微笑みにぎこちなさがあるのはどうしようもなかった。
「雪で道が混んでてさ。遅れたから怒ってるのかと思ったよ。こわい顔して座ってるから」
「緊張してたのよ。華やかなところにに来て、気後れしたんだわ」
志織はそう言って立ち上がると、慎一と並んでエレベーターのある場所に向かった。
エレベーターは、フロントとテナントの店の間にある。ボタンを押したが、クリスマスで混雑しているのか、エレベーターは中々降りて来ない。すると向こうから、さっきの女性と涼平が歩いてくるのが見えた。
涼平も、志織と慎一の姿を認めたようだった。志織はどんな表情をしていいのか、当惑した。
「こんばんは。お久しぶりです、高梨さん。おじさんやおばさん、お元気でしょうか?」
先に挨拶したのは涼平だった。慎一が怪訝な顔をすると
「はじめまして。僕、久保田涼平と言います。高梨さんの中学、高校の後輩なんです。いや、小学校もそうだったかな」と、こだわりなく自己紹介した。
「久保田君、お久しぶり。おかげさまで父も母も元気よ。あら今日は、彼女とデイトなのね?」志織もわらって聞いた。
「とうとう高い指輪を買わされることになって。何で指輪って、あんなにバカ高いんでしょうね」と涼平が苦笑いすると
「女性へのプレゼントを値切ると、後々祟るから怖いよ」
慎一は年上の男らしく、鷹揚にわらった。
涼平の隣にいた女性は村澤みずきといい、法科大学院の同級生ということだった。エレベーターが来たので、志織と慎一は乗り込み、涼平たちと別れた。
これだけ多くの人間が集まり、しかもほとんど知らない人間ばかりなのに、どうしてよりによって夫といる自分と、恋人といる涼平が、ここで顔を合わせたのだろう。二人で初めてクリスマス・イブを過ごしたTホテルに、同じクリスマス・イブの日に……
志織はやりきれなさを感じたが、その時、ふと子供の頃にした、涼平との会話を思い出した。
「イエス様はね、私たちの罪を背負ってあの十字架にかけられたのよ」
涼平があの店に?
ブランドものに興味を持たなかったはずの涼平が、どうして宝飾メーカー店に? と一瞬、志織はいぶかしく思った。
しかしすぐに、志織は隣に立っていた女性の横顔を思い出した。その女性と涼平は、宝飾店で待ち合わせをしていたのだ。きっとそれは、涼平が彼女にクリスマスプレゼントを贈るためなのだろう。ふたりが仲良く指輪を選ぶ姿が目に浮かぶようだった。
「待った?」
慎一の声がした。
志織は慎一が近づいてきたことに、気がついていなかった。
「あ、全然よ。ちょっと前に来ただけなの」と志織は動揺を隠すように、微笑んでこたえた。しかし、その志織の微笑みにぎこちなさがあるのはどうしようもなかった。
「雪で道が混んでてさ。遅れたから怒ってるのかと思ったよ。こわい顔して座ってるから」
「緊張してたのよ。華やかなところにに来て、気後れしたんだわ」
志織はそう言って立ち上がると、慎一と並んでエレベーターのある場所に向かった。
エレベーターは、フロントとテナントの店の間にある。ボタンを押したが、クリスマスで混雑しているのか、エレベーターは中々降りて来ない。すると向こうから、さっきの女性と涼平が歩いてくるのが見えた。
涼平も、志織と慎一の姿を認めたようだった。志織はどんな表情をしていいのか、当惑した。
「こんばんは。お久しぶりです、高梨さん。おじさんやおばさん、お元気でしょうか?」
先に挨拶したのは涼平だった。慎一が怪訝な顔をすると
「はじめまして。僕、久保田涼平と言います。高梨さんの中学、高校の後輩なんです。いや、小学校もそうだったかな」と、こだわりなく自己紹介した。
「久保田君、お久しぶり。おかげさまで父も母も元気よ。あら今日は、彼女とデイトなのね?」志織もわらって聞いた。
「とうとう高い指輪を買わされることになって。何で指輪って、あんなにバカ高いんでしょうね」と涼平が苦笑いすると
「女性へのプレゼントを値切ると、後々祟るから怖いよ」
慎一は年上の男らしく、鷹揚にわらった。
涼平の隣にいた女性は村澤みずきといい、法科大学院の同級生ということだった。エレベーターが来たので、志織と慎一は乗り込み、涼平たちと別れた。
これだけ多くの人間が集まり、しかもほとんど知らない人間ばかりなのに、どうしてよりによって夫といる自分と、恋人といる涼平が、ここで顔を合わせたのだろう。二人で初めてクリスマス・イブを過ごしたTホテルに、同じクリスマス・イブの日に……
志織はやりきれなさを感じたが、その時、ふと子供の頃にした、涼平との会話を思い出した。
「イエス様はね、私たちの罪を背負ってあの十字架にかけられたのよ」
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