白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり

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18.花鋏の音

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「何だか兄妹の中で最後に生まれた子どもって、つまらないわね。自分のことはみんなに知られているのに、年上の兄姉のことはなにも知らないんだもの」
 真由子は少し口をとがらせた。
「なに言ってるのよ、年の順番はどうしようもないでしょ」
 雪江はチーズケーキを切りながら、わらった。
「それはそうなんだけど。今日もね、稚子姉さんとあれこれ話をしていたら、知らない話がいろいろ出てきてビックリだったわ」
「知らない話? どんな話なの?」
 一瞬、雪江の表情が変わったのを、真由子は見逃さなかった。しかし何でもないような表情をして
「うふふ。それはないしょよ」真由子はくちびるに指をあてた。
「変な真由子。きっと二人で、さんざん私の悪口でも言ってたのね」
 雪江は冗談にまぎらわせるように、そう言った。
「まさか。言わないわよ、そんなこと。あ、仏様のお花は私がするわね。お母さん、疲れているでしょ? ゆっくりしててね」
 仏間の写真のことが真由子の頭をよぎったが、法事を終えて帰ってきた雪江の疲れた様子を見ると、やはり休ませてあげたく思った。真由子は立ち上がって部屋を出た。雪江は黙ったまま真由子の後ろ姿を見送った。

 真由子は、再び仏間の電灯をつけると仏壇の前に座り、手を合わせた。仏壇には、父の実之の前妻と実之、そして靖之の位牌がある。いずれここに雪江の位牌も入る日が来るのだろうか。そしてその時は靖之の隣に置かれるのだろうか。実之の顔、靖之の顔を思い浮かべた。仏壇の花瓶に触れると、冷たさが真由子の指に伝わった。

 真由子は洗面所に花瓶を置いた。そしてテーブルにあった供花を取りに行くために部屋に戻ると、雪江が供花の包み紙を開いているところだった。
「お母さん、そんなことしないですわっていればいいのに」
 と真由子が言うと、雪江は
「真由子の淹れてくれたお茶を飲んで、稚子さんのおみやげのチーズケーキを食べたら、何だか元気が出てきたみたい。私がするからいいわ」と言った。
 雪江は供花の長さを調整しながら、花鋏を入れようとしていた。
 真由子はぽかんと雪江を見ていたが、そのとき思いがけない言葉が口をついて出た。
「お母さん、願掛けをすると願いごとが叶うって、ほんとうかしら」
 真由子の言葉の最後と、雪江のぱちんと供花を切る花鋏の音が重なった。
「真由子、なんて言ったの? お母さん、よく聞こえなかったわ」
 雪江はゆっくりと真由子を見た。真由子も雪江を見た。二人の視線がぴたりと重なった。
「お母さん、願掛けをすると願い事が叶うってほんとうかしら」
 雪江は怪訝そうな顔をして真由子を見たが、それはわずかな時間だった。雪江はすぐに供花に目を落とすと、静かな声で言った。
「さぁ、どうなのかしらね。そんなことは私にはわからないわ。でもね、誰かを悲しませるような願い事だけは絶対にしてはだめよ。願いが叶っても叶わなくても、悲しい目にあうわ」

 再び花鋏の音がすると、雪江の手の中にある白菊の花が、一瞬揺れたように見えた。
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