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課金令嬢はしかし傍観者でいたい
プロローグ
しおりを挟む「はい、全クリー。そっちは?」
「余裕」
気だるそうにコントローラーを放り投げるソウシを横目に、私はベッドでゴロゴロと横になりながらスマホを眺める。
画面では、壮大なラブバラードとエンドロールが流れていた。合間にゲットしたスチルが出てくるので、まるで本当に彼と激動の人生を駆け抜けた気持ちになる。
「はぁ、やっぱ王道は最後に取っておいてよかったわ」
私がハマッているのは、スマホの恋愛アプリゲーム。いわゆる『課金してアイテムをゲットしないとスペシャルルートに行けない』やつだ。ハッピーでスイートでロイヤルなストーリーを見るために、いったいいくら注ぎ込んだだろう。……計算するのは止めておこう。
いずれにしろ、このハマッていたゲームは一通りのキャラをクリアした。えもいわれぬ達成感とはこのことね。私は割りと、王道キャラは最後に取っておくタイプで、まずは興味のない相手を先にクリアしておく。だって全クリが目的なのだから、最後は一番お目当ての相手で締めたいじゃないか。
「で、金に物言わせて男を手に入れた感想はどうよ」
ソウシは小馬鹿にしたように、鼻で笑う。
「聞き方よ、あんたバカねぇ」
私は思わず身を乗り出した 。課金の何がいけないのか。だって、そのアイテムを買わないとハッピーでスイートでロイヤルなストーリーに進めないのだ。なんならスチルも手に入らないのだ。これまで必死に上げた経験値や好感度を見ると、ノーマルエンドで納得できるわけがない。
そんなことは、きっと無課金派のソウシには説明しても理解してもらえないんだろうけど。そう思った私は、開いた口をきゅっと結び、もう一度ベッドへダイブした。
「そういうあんたはそれ何周目よ」
「覚えてねえよ」
ソウシは私の2つ下の弟で、同じく腐人と化したゲーマーだ。ソウシは無課金タイプで、スマホのゲームでも課金はしない。今はテレビゲームのソフトに夢中で、それを何周も何周もクリアしていき、引き継いでいったスキルがやばいことになっている。
ラスボスを一撃で倒せるレベルでスタートの村から始めていくのが面白いらしい。よく分からないけど。
テレビを覗くと、またデータを引き継いで始めようとしている。主人公は主役らしい端正な顔立ちで、私好みの黒髪紅眼。うん、彼も攻略対象としていけるわ。
けれど、スキルを見るとえげつなさに震えた。レベル865とか見たことない。魔法スキルもかなり高めだが、何より体力と剣術がMAX振り切ってるんじゃないかってくらいある。今回のゲームはかなりのめり込んだのだろう。周数を覚えてないわけだ。
「ん?なんだこれ」
呆としているとソウシが眉を寄せた。目線の先は、テレビゲーム。もう一度最初から始めたのではないかと画面を覗きこむと、黒い画面に一言、メッセージだけが白く浮き出ている。
『生きたいですか?』
たった一言なのに、心臓がきゅっと捕まれたような気味の悪さを感じた。幽霊を見た時のような、肝が冷えるあの感覚。幽霊見たことないけど。
「ねぇソウシ、いつもこんな───」
「マナ!」
いつもこんなメッセージが出るのか、そう聞こうとした途端、ソウシが「YES」のボタンを押し、勢いよく私を抱き寄せた。抱き寄せたというより、まるで覆い被さるような強引さだった。少女漫画定番の強引なハグも、弟相手じゃキュンとしないわね。
てか、こいついい加減お姉ちゃんって言えよ。
それからどうなったのか、覚えていない。
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