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課金令嬢はしかし傍観者でいたい
帰ろう2
しおりを挟むあの後フゥちゃんが転移魔法を使い、あっという間に自宅へ到着した。1日も経っていないはずなのに懐かしく感じる屋敷の門をくぐれば、中央にある噴水広場で見知った顔がいくつもあった。用事がある素振りはなく、みんな私のことを待っていてくれたのだと容易に想像できた。
私は大きく息を吸い込む。
「ただいま戻りました!」
そう叫べば、全員が一斉に振り返った。お父様、お母様、ソウシ、アルバート、ナディア、みんな安心したような笑顔を浮かべて走り寄ってくる。
「マナリエルちゃん、おかえりなさい!」
勢いよく抱きついてくるお母様。
「魔力を感じる、無事に解放されたんだな。おめでとう」
優しく微笑むお父様。
「すごいです!お姉様!」
尊敬するような眼差しを向けるアル。
「おめでとうございます、マナリエル様」
どこか誇らしげなナディア。
「肉弾戦でも最強のお前が魔法なんて必要ないだろ!」
ケラケラとうるさいソウシ。
「「「「で、その人達、誰(ですか)?」」」」
あ、見事にハモった。みんなの視線は、もちろんフゥちゃんとミカエラ。そりゃそうだよね、いきなり知らない人連れて帰ったんだから。振り返れば、二人とも大人しく事の成り行きを見守っていた。まぁ大人しいといっても、フゥちゃんは期待に満ちた目、ミカエラは諦めに満ちた目をしているけど。
勢いで連れてきたものの、家族への説明を考えていなかった。どうしようか……なんて言おうかな……あーめんどくさい。
「実はかくかくしかじかなことがあって、うちに連れてくることにしたんです。こちらがフゥちゃん。こちらがミカエラね」
「そのかくかくしかじかを聞いてんだよ、こっちは」
目を細めるソウシ。けれどその目は、フゥちゃんを見ながら徐々に開いていった。フゥちゃんを見つめるソウシ。ソウシを見つめるフゥちゃん。
「フゥちゃんって……まさかあの、フゥか?」
「はい!そうですわ!ソウシ様!」
気付いてもらえた喜びで、フゥちゃんは千切れそうなほど尻尾をブンブンと振り回した、ように見えた。尻尾ないけど。
もちろん前世で家で飼っていたのだから、弟のソウシはフゥちゃんを知っている。 フゥちゃんも覚えていたようだ。
「そうか!あのフゥか!なんでここにいるか分かんねーけど、会えて嬉しいぞ!」
そう言いながらフゥちゃんの頭をワシャワシャと撫で回した。フゥちゃんは髪が乱れることを気にすることなく、幸せそうにされるがままとなっていた。
「そうです、この荒波に飲まれるような情熱的な撫で方……まさしくソウシ様ですわ。あぁ、もっと…もっと撫でてくださいませ!昔のように、もっとお腹もお尻も胸「ストーーップ!」……へ?」
危ねぇー!さらっと危ない発言が出たんだけど!犬が求めるのは可愛らしいけど、人間の、ましてや女の子が発言していいセリフじゃないからね!
「フゥちゃん、君はもう人間だからね?人間の女の子がそんなこと言っちゃいけません。悪いおじさんに連れてかれちゃうよ?ほら、ソウシもビックリして手が止まっちゃって……って、手丸めてお椀作ってるんじゃねーよ!揉むつもりかお前!ワキワキすんな!鼻の下縮めろ!」
スパーンとソウシの頭を叩く音が響いた。
「いってえな!やんのかコラ!」
「おー、私はいつでもいいぜ来いよクソ変態野郎が!」
「変態ではない、同意の上だ」
「うわ、もはや引くほどの気持ち悪さですねー」
「女の胸は男のロマンだろ!」
「自分の胸でも揉んでろ!」
ゴングは鳴った。
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