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課金令嬢はしかし傍観者でいたい
行かない理由1
しおりを挟む魔法学園カルヴィナータ。この世界で唯一の魔法学校であり、もちろん魔力を持つ者しか入学することはできない。世界中から魔力を持つ生徒が集まるため、寮生活が基本となっている。あとは知らん。行ったことないし。
子供たちの憧れの学園であることは間違いない。
「がしかし、私は行かぬ」
「何を言ってんだオメーは」
「行ってはならぬのだ」
「武士か」
目の前で腕を組み、呆れた顔のソウシ。そしてそのバックには、うちの屋敷のメイドや執事達が背景と化していた。
(お嬢様を何とかしてください!)
きっとそう泣きつかれたのだろう。
「お主も苦労性よの」
「ほぼほぼお前が原因だけどな」
ソウシは弱者にとことん弱い。激弱だ。アイスティー1杯にガムシロップを50個入れたんじゃないかってくらいの、軽く吐き気を覚える甘さ。
特に……ちらりとメイドを見る。メイドの中でも最年少のアンナは、今にもこぼれ落ちそうな涙を大きな瞳に溜め込んで、不安げに成り行きを見守っている。
アンナに泣きつかれたら、それこそ全裸で世界一周とかやりかねん。……今度アンナにお願いしてみよう。
「ふふふっ」
「今すぐその脳内に浮かんだものを消し去れ」
「何よ、まだ何も言ってないじゃない」
「だいたい想像がつく」
「大丈夫だって、パンツくらいは履かせてあげる……ふふっ」
さっと青ざめたソウシは私と距離を取りたいのか、無意識に数歩下がった。
「悪魔が笑ってる」
「人々はこれを、花の笑みと呼ぶ」
「何真顔で言ってんだ。こんなおぞましい花があってたまるか」
ソウシは身震いをした。私が笑えば誰もが顔を赤らめるのに、いつもソウシだけは青ざめる。失礼しちゃうよね。
「まったく、可愛げのない弟」
「いいから学園に行く支度しろよ」
「だが行かぬ」
「だー!なんでだよ!楽しみにしてただろう!」
面倒になってきたのか、ソウシは頭をガシガシとかいた。ピリッとした空気にケンカになるのではないかと、周囲はハラハラと見守っている。
「ご心配には及びません、ソウシ様」
カチャリとドアを開ける音がしたかと思えば、静かにナディアが入室してきた。
「マナリエル様の入学のお支度は、滞りなく進んでおります」
「ナディア!?」
何だと!?私ちゃんとナディアにも行かないって言ったのに!
「私はマナリエル様の望むまま、手足となって動くことを信条としています。けれどマナリエル様のためを思えばこそ、時には手を滑らせてしまうこともあります」
「手を……ねぇ」
「はい、うっかり」
そう、滑らせちゃったのね、うっかり。
申し訳ありません、なんて言ってるけどさ、めっちゃ清々しい笑顔やん。やりきったんだね。お支度完了したんだね。
「なんで急に行かないなんて言い出したんだ。楽しみにしてただろう」
ごもっともな質問が来ましたよ。みんなも気になっていたのか、部屋にいる全員の目がこちらを向いていた。
そう、確かに私は魔法を使えるようになってから、魔法の勉強を怠らなかった。ありとあらゆる本を調べるのはもちろん、フゥがいれば魔法が使えたため、魔法の絨毯なるものを生み出して空を散策したり、ソウシを馬に変身させて乗馬したり、野生の動物を使役してみたりと、思いつく限りの魔法を試してみた。周囲は私の魔法を見る度に卒倒してたから、きっと私の魔法レベルはチート設定なんだろう。
ともかく、私が魔法学に対して熱心に取り組んでいたのは間違いない。認めよう。
「がしかし!」
「うぉ!何だよいきなり」
「私はあの日から学園への入学を断念したのだ」
「あの日?」
「そう!あの日!」
「いちいち声でけーな」
「ソウシよ。お前と2人で話がしたい。ナディア、部屋へ行くから誰も近付けるなよ」
「かしこまりました、マナリエル様」
「ソウシよ!ついてまいれ!」
「へいへい」
もはやソウシもナディアも抵抗する気は見せず、私に付き合い従っていた。
3人が出ていった部屋では、残された従者達が状況を飲み込めず、ただポカンと口を開けていた。
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