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お姉ちゃんはもう負けないよ
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レイドールとの戦いが終わったジーク。
彼女は心の中でアクセルに感謝の意を込めていた。
自分が失態をしたとしても、その寛大な心で許してもらい、自分を信じてくれたことを。自分たちのために、守るために命を賭けてくれたことを。
そして、無事に自分達の前に戻ってきてくれたことを。
だが、今はその時ではないと分かっているのだろう、ジークはしばらくその状態を保った後、まだ終わっていない戦場に飛び込んでいく。
「団長!!」
どこからか声が聞こえる。まだこんな自分にも必要と思ってくれる団員は存在する。
「すぐに向かう」
それだけ呟いて、彼女はレイドールの死骸に目を向け、その場から離れる。
(......みんなにも謝らないとな)
アクセルの想いを無駄にしないためにより厳しい訓練をさせてしまったことやそんな自分のために動いてくれたことに、嬉しさと申し訳なさを感じながら彼女はまた動いていく。
◇
そして、ジークとレイドールの戦いが終わった後も、もう一組の戦いは衰えることを知らないのかより激しいものとなっていた。
「おらぁあっ!!」
その戦いとは......マリアとラゴイスタのものだ。
雄叫びを上げながら彼女に向けて殴りつけようとしているラゴイスタ。
彼女は特に動揺することなく岩石とも言ってもいい拳を愛剣で受けとめる。
ドンッ!
剣と拳がぶつかったとは思えない鈍い音が響き渡る。
いつもならここでラゴイスタの猛攻が始まるが、今回は違う。
マリアはラゴイスタの拳を純粋な力で弾き返したのだ。
これには流石の彼も呆気にとられてしまい、隙が出来てしまう。
そこを彼女は見逃すことなく、そのまま自分の愛剣で攻め続ける。
顔を顰めながらもマリアの猛攻を止めようと、ラゴイスタは自身の拳で弾き返そうとした。
しかし、彼女はその攻撃を見切ったように、彼の巨大な拳の上に脚を乗せ、そのまま蹴り上げ、ラゴイスタの頭上を飛ぶ。
そのまま頭に目掛けて剣を突き刺した。
グサッ!
「ぐっ...!俺の皮膚に剣を通しただと.....!?」
それは明らかなる変化。
さっきまでなら傷にもならなかった攻撃が、僅かながら、ラゴイスタの皮膚に傷をつけたのだ。
だが、マリアは少し不満そうに眉を下げている。
そして、そのまま何事もなく着地。ラゴイスタに攻撃を仕掛けようと、即時に突きの体勢を取り、彼の背中を貫こうとした。
「土流壁《グランドウォール》!」
すると、ラゴイスタとマリアの間に、突如地面から土の壁が彼女の猛攻を止めた。
今のマリアの攻撃をあまり受けてはいけないと考えたラゴイスタが自分の不得意な魔法で作り出したものだ。
その強度は他と比べても脆い、だがマリアの攻撃を少しでも防げたら十分だろう。
そのまま彼女から距離を取り、自身の最高速度で繰り出されるパンチをマリアに与えようと突進する。
「受けてみろマリアぁあ!!」
自身の魔法で作った壁を破壊し、突進しながらこちらに接近している様子にマリアは顔を歪めてしまう。
避けきれないと感じた彼女は攻撃を少しでも軽減するべく、持っている剣を斜めに構える。
そして、ラゴイスタの速度の乗ったパンチが炸裂。
受け止めた瞬間、顔をさらに歪ませ、歯を食いしばったマリア。
彼女でもその攻撃をなんなく受けとめるのは厳しい。
勢いを抑えきれないまま、彼女は後ろに吹き飛んだ。
「うっ...!」
何度も地面にバウンドをして、その後ろにあった岩に激突してなんとか止まる。
これだけ見れば有利そうに見えるラゴイスタだが、彼はマリアの様子に冷や汗を浮かべていた。
「...野郎、俺の攻撃を受け止めた際に、魔法を付け加えやがった」
見るとラゴイスタの拳には見慣れのない焼き焦げの跡があった。
これはマリアが剣で攻撃を防いだ時に、彼女の剣に一瞬だけ、炎の魔法付与《エンチャント》を付け加えたため、ラゴイスタの拳に触れた時にその炎が自分の手に襲ってきたのだ。
その瞬発的な発想、自分の皮膚に魔法ありきとはいえ、再び傷つけたこと、ラゴイスタからしたら彼女の今の戦闘能力は異常と言っても良かった。
(......これが奴の本気ということか?さっきよりもまるで迷いがない。もしそれが本当なんだとしたら.....あの攻撃はまずい)
ラゴイスタがいうマリアの攻撃とは自身の目ですら見えない速度で切り裂き、あまつさえ身体に大きくダメージを与えた技、次元一閃。
(あれは他の攻撃と比べても桁にならねぇくらいにやばい。俺の皮膚を傷つけたのもそうだが、格が違った。まるで空間そのものを斬ってるように見えた。あの時は奴がまだ全力を出し切れてなかったから良かったが、今は違う。もしあれの全力を喰らえば......)
自分の生死すら操るのに造作のない攻撃、それを今、自分の目の当たりにいる人物が放てることにラゴイスタ警戒心を高める。
それが彼の命を繋ぐことなった。
長年得た戦闘経験、そして本能の危機からラゴイスタはすぐに地面を蹴り上げる。
すると、何かが彼の下を通り抜けた。
それは、空間そのものすら切断してしまう白い斬撃。彼が今、最も警戒するべき攻撃であり、彼女の技の中でも最上位クラスの物であった。
ラゴイスタがその技に警戒をするのは正解だったと示すように、彼の後ろにあった草、岩、さらにはそこに居合わせていた魔物や盗賊がその斬撃に呑み込まれ、通り過ぎた時には何も存在していなかった。
「......やっぱ、そう簡単にはいかないわよね」
そう言い放ちながら、ラゴイスタの攻撃を何事もなかったかのように、頭に血を流しながらも、なんなく歩き続けるマリアの姿。
「てめぇ...あれを喰らってなんなくと......」
「あんなの、私が今まで受けてきた攻撃と比べたら大したことないわよ」
ラゴイスタ自身も中々にダメージを喰らわせたと思っていたであろう攻撃に対してマリアは首をゴキゴキと鳴らしながら、そう答える。
その風格はまさに強者の証。
今の彼女からはそれが強く感じられた。
「....ハハっ、いいじゃねぇかその余裕....ならこれでも喰らっとけ!!」
すると、マリアに向かって急降下し、自身の腕を魔力で硬化させ....巨大化させる。
(あれが奴の異能なのかしら……巨大化、単純だけど馬鹿にはならないわ)
そう思いながら、マリアはそのままラゴイズタに近づくように地面を蹴りあげ、突きの構えをとる。
「巨人の拳!」
「八重鏡《やえかがみ》!」
ラゴイスタの巨大な拳とマリアの強靭な剣の突きが激突する。
瞬間、ゴオォオッ!という音が鳴り響き、衝撃波が生じ始めた。
大地は揺れ、天地でさえ切り裂く圧力が周囲の空気を通じて震動させる。
また、剣と拳の間には、火花が飛び始めており、それは力の衝突が激しくなってること、お互い一歩も引かないことを表していた。
だが、その拮抗は長くは続かず、両者は信じられないほどの速度で後方に吹き飛ぶ。
マリアはそれを予感していたように、後方に飛ばされることに特に焦りを見せずに、そのままバックステップを何度も繰り返し、無事に着地する。
対するラゴイスタも自身の背中にある巨大な翼を広げ、手に地面について勢いを殺して静止する。
「……これも返すか……いいぞ……いいぞマリア!もっと俺を楽しませろ!!」
ラゴイスタは目の前にいる自分の敵、マリアに自身の闘争心を爆発させ、雄叫びを上げている。
それは自身にあった退屈な闘いを終わらせてくれる者に対する敬意、興奮、そして……無意識に出始めた恐怖を隠すもの。
その様子に対してマリアは何も発さず、ただずっと前を眺めていた。
しばらくして目を閉じ、心を落ち着かせるように深呼吸を繰り返して再び目を開いて、ラゴイスタを見る。
(……どうして、かしらね)
(今まで何度も繰り返してきた。試行錯誤して、私なりに考えて、みんなを守るためにずっと鍛えてきた……それでも、守れなかった……父さまや母さま、アルマン兄さんにソフィア、ついでにジークも……そして……アクセルのことを)
それは今まで繰り返してきた自分自身の罪。
それを懺悔のごとく、心の中で露頭し始める。
(……でも、今回は違った)
思い出されるのは、先ほど自身の前に現れてくれたアクセルの姿。
ローレンスが立て直してくれた心が再び折れそうになった時、まるで何事もなく手を差し伸ばしてくれたように、救ってくれた。
(……ここに来てからずっとそうだった。私が見たことのなかった光景を、アクセルはずっと見させてくれた。たくさんの罪を抱いてくれた私を包んでくれた……救ってくれた)
剣を握る力が自然と強くなる。
(……ここだけは、絶対に守りたい)
——必ず、生きて帰ります。
すると思い出される、今まで聞いたことのなかったアクセルの言葉。
その言葉が反芻し、再びマリアの心を支えてくれた。
「……うん…うん、そうだよねアクセル……お姉ちゃんがこんな所で負ける訳にはいかないもんね?」
そう呟くとともに、彼女の待っていた剣が白く輝き始める。
「……もう、迷わない、折れない、挫けない。アクセルがそばに居てくれるから………だから絶対にここを……みんなを守る!」
マリアはもう迷わない。
ずっと不安定だった心はアクセルによって強靭なものへと開花させた。
それは些細なことなのかもしれない、あまり影響力のないものなのかもしれない。
それでも……マリア・アンドレ・レステンクールにとっては大きな事であった。
罪を背負った自分を守ると彼は言ってくれたから。だから彼女はアクセルがいる限り、折れることはないであろう。
そしてその心の強さが、マリアをまた一歩、光り輝く花へと進化させる。
「はっはぁ!行くぞマリア!!これで最後だ!!!」
その雄叫びがマリアの耳に届き、彼女もまた自分の大技を出すべく、剣を相手に向ける。
「狂人化《ビーストモード》!!」
ラゴイスタがその単語を叫ぶと、彼の身体がさらに強靭なものへと変化させ、さらに彼の異能である巨大化を利用して、身体全体がおおきくなった。
「……いってくるね、アクセル」
マリアは自身の心を支えてくれた人物の名前を吐き、そして一歩、地面を踏み出した。
常人には見えない、残像が出る程の速度で、ただまっすぐとラゴイスタに向かっていく。
「イクゾォオオオオオ!!!」
悍ましい叫び声とともに、彼自身の全力の拳が流星のように一直線にマリア目掛けて突き進んだ。
「隕石落とし!!」
風を切り裂き、周囲の空間を歪めるほどの凄まじい威力を持つであろうその拳の軌跡はまるで空間を引き裂く光の筋のようで、圧倒的な破壊力を予感させた。
そんな拳をマリアは剣全体から放たれる白銀のオーラを纏う剣がその隕石を砕くべく、斬撃が放たれた。
「次元・一閃!!!」
瞬間、先ほどとは別次元の斬撃がラゴイスタの拳を断ち切ろうと迫る。
それは異次元の空間でさえ開かれてしまうような錯覚をもたらしていた。
マリアの進化したその斬撃とラゴイスタの拳がぶつかり合い、空間が一瞬、光で包まれた。
まるで時間が止まったような静寂が訪れた後、二人が先ほどぶつかった衝撃波よりもさらに激しく広がり、それは周りにいた生物等しく、吹き飛ばされていった。
そして、その衝撃が収まり、光に包まれた世界が元に戻った後………ラゴイスタのその巨大な身体は真っ二つに切り裂かれた。
マリアはそれを見送った後、剣を鞘に戻して……今まで見せたことがない屈託のない笑顔を浮かべていた。
「……えへへ……勝ったよアクセル……お姉ちゃん、今度はちゃんと守り抜いたよ」
罪を背負った女性が、やっと自分が守りたかった物を守れた瞬間であった。
最大の宿敵と最後まで戦いあったラゴイスタと、脆弱な精神から強靭な物へと進化させた(アクセルがいる限定)マリアの戦い。
その戦いを制したのは
英雄《ブリュンヒルデ》 マリア・アンドレ・レステンクールだ。
彼女は心の中でアクセルに感謝の意を込めていた。
自分が失態をしたとしても、その寛大な心で許してもらい、自分を信じてくれたことを。自分たちのために、守るために命を賭けてくれたことを。
そして、無事に自分達の前に戻ってきてくれたことを。
だが、今はその時ではないと分かっているのだろう、ジークはしばらくその状態を保った後、まだ終わっていない戦場に飛び込んでいく。
「団長!!」
どこからか声が聞こえる。まだこんな自分にも必要と思ってくれる団員は存在する。
「すぐに向かう」
それだけ呟いて、彼女はレイドールの死骸に目を向け、その場から離れる。
(......みんなにも謝らないとな)
アクセルの想いを無駄にしないためにより厳しい訓練をさせてしまったことやそんな自分のために動いてくれたことに、嬉しさと申し訳なさを感じながら彼女はまた動いていく。
◇
そして、ジークとレイドールの戦いが終わった後も、もう一組の戦いは衰えることを知らないのかより激しいものとなっていた。
「おらぁあっ!!」
その戦いとは......マリアとラゴイスタのものだ。
雄叫びを上げながら彼女に向けて殴りつけようとしているラゴイスタ。
彼女は特に動揺することなく岩石とも言ってもいい拳を愛剣で受けとめる。
ドンッ!
剣と拳がぶつかったとは思えない鈍い音が響き渡る。
いつもならここでラゴイスタの猛攻が始まるが、今回は違う。
マリアはラゴイスタの拳を純粋な力で弾き返したのだ。
これには流石の彼も呆気にとられてしまい、隙が出来てしまう。
そこを彼女は見逃すことなく、そのまま自分の愛剣で攻め続ける。
顔を顰めながらもマリアの猛攻を止めようと、ラゴイスタは自身の拳で弾き返そうとした。
しかし、彼女はその攻撃を見切ったように、彼の巨大な拳の上に脚を乗せ、そのまま蹴り上げ、ラゴイスタの頭上を飛ぶ。
そのまま頭に目掛けて剣を突き刺した。
グサッ!
「ぐっ...!俺の皮膚に剣を通しただと.....!?」
それは明らかなる変化。
さっきまでなら傷にもならなかった攻撃が、僅かながら、ラゴイスタの皮膚に傷をつけたのだ。
だが、マリアは少し不満そうに眉を下げている。
そして、そのまま何事もなく着地。ラゴイスタに攻撃を仕掛けようと、即時に突きの体勢を取り、彼の背中を貫こうとした。
「土流壁《グランドウォール》!」
すると、ラゴイスタとマリアの間に、突如地面から土の壁が彼女の猛攻を止めた。
今のマリアの攻撃をあまり受けてはいけないと考えたラゴイスタが自分の不得意な魔法で作り出したものだ。
その強度は他と比べても脆い、だがマリアの攻撃を少しでも防げたら十分だろう。
そのまま彼女から距離を取り、自身の最高速度で繰り出されるパンチをマリアに与えようと突進する。
「受けてみろマリアぁあ!!」
自身の魔法で作った壁を破壊し、突進しながらこちらに接近している様子にマリアは顔を歪めてしまう。
避けきれないと感じた彼女は攻撃を少しでも軽減するべく、持っている剣を斜めに構える。
そして、ラゴイスタの速度の乗ったパンチが炸裂。
受け止めた瞬間、顔をさらに歪ませ、歯を食いしばったマリア。
彼女でもその攻撃をなんなく受けとめるのは厳しい。
勢いを抑えきれないまま、彼女は後ろに吹き飛んだ。
「うっ...!」
何度も地面にバウンドをして、その後ろにあった岩に激突してなんとか止まる。
これだけ見れば有利そうに見えるラゴイスタだが、彼はマリアの様子に冷や汗を浮かべていた。
「...野郎、俺の攻撃を受け止めた際に、魔法を付け加えやがった」
見るとラゴイスタの拳には見慣れのない焼き焦げの跡があった。
これはマリアが剣で攻撃を防いだ時に、彼女の剣に一瞬だけ、炎の魔法付与《エンチャント》を付け加えたため、ラゴイスタの拳に触れた時にその炎が自分の手に襲ってきたのだ。
その瞬発的な発想、自分の皮膚に魔法ありきとはいえ、再び傷つけたこと、ラゴイスタからしたら彼女の今の戦闘能力は異常と言っても良かった。
(......これが奴の本気ということか?さっきよりもまるで迷いがない。もしそれが本当なんだとしたら.....あの攻撃はまずい)
ラゴイスタがいうマリアの攻撃とは自身の目ですら見えない速度で切り裂き、あまつさえ身体に大きくダメージを与えた技、次元一閃。
(あれは他の攻撃と比べても桁にならねぇくらいにやばい。俺の皮膚を傷つけたのもそうだが、格が違った。まるで空間そのものを斬ってるように見えた。あの時は奴がまだ全力を出し切れてなかったから良かったが、今は違う。もしあれの全力を喰らえば......)
自分の生死すら操るのに造作のない攻撃、それを今、自分の目の当たりにいる人物が放てることにラゴイスタ警戒心を高める。
それが彼の命を繋ぐことなった。
長年得た戦闘経験、そして本能の危機からラゴイスタはすぐに地面を蹴り上げる。
すると、何かが彼の下を通り抜けた。
それは、空間そのものすら切断してしまう白い斬撃。彼が今、最も警戒するべき攻撃であり、彼女の技の中でも最上位クラスの物であった。
ラゴイスタがその技に警戒をするのは正解だったと示すように、彼の後ろにあった草、岩、さらにはそこに居合わせていた魔物や盗賊がその斬撃に呑み込まれ、通り過ぎた時には何も存在していなかった。
「......やっぱ、そう簡単にはいかないわよね」
そう言い放ちながら、ラゴイスタの攻撃を何事もなかったかのように、頭に血を流しながらも、なんなく歩き続けるマリアの姿。
「てめぇ...あれを喰らってなんなくと......」
「あんなの、私が今まで受けてきた攻撃と比べたら大したことないわよ」
ラゴイスタ自身も中々にダメージを喰らわせたと思っていたであろう攻撃に対してマリアは首をゴキゴキと鳴らしながら、そう答える。
その風格はまさに強者の証。
今の彼女からはそれが強く感じられた。
「....ハハっ、いいじゃねぇかその余裕....ならこれでも喰らっとけ!!」
すると、マリアに向かって急降下し、自身の腕を魔力で硬化させ....巨大化させる。
(あれが奴の異能なのかしら……巨大化、単純だけど馬鹿にはならないわ)
そう思いながら、マリアはそのままラゴイズタに近づくように地面を蹴りあげ、突きの構えをとる。
「巨人の拳!」
「八重鏡《やえかがみ》!」
ラゴイスタの巨大な拳とマリアの強靭な剣の突きが激突する。
瞬間、ゴオォオッ!という音が鳴り響き、衝撃波が生じ始めた。
大地は揺れ、天地でさえ切り裂く圧力が周囲の空気を通じて震動させる。
また、剣と拳の間には、火花が飛び始めており、それは力の衝突が激しくなってること、お互い一歩も引かないことを表していた。
だが、その拮抗は長くは続かず、両者は信じられないほどの速度で後方に吹き飛ぶ。
マリアはそれを予感していたように、後方に飛ばされることに特に焦りを見せずに、そのままバックステップを何度も繰り返し、無事に着地する。
対するラゴイスタも自身の背中にある巨大な翼を広げ、手に地面について勢いを殺して静止する。
「……これも返すか……いいぞ……いいぞマリア!もっと俺を楽しませろ!!」
ラゴイスタは目の前にいる自分の敵、マリアに自身の闘争心を爆発させ、雄叫びを上げている。
それは自身にあった退屈な闘いを終わらせてくれる者に対する敬意、興奮、そして……無意識に出始めた恐怖を隠すもの。
その様子に対してマリアは何も発さず、ただずっと前を眺めていた。
しばらくして目を閉じ、心を落ち着かせるように深呼吸を繰り返して再び目を開いて、ラゴイスタを見る。
(……どうして、かしらね)
(今まで何度も繰り返してきた。試行錯誤して、私なりに考えて、みんなを守るためにずっと鍛えてきた……それでも、守れなかった……父さまや母さま、アルマン兄さんにソフィア、ついでにジークも……そして……アクセルのことを)
それは今まで繰り返してきた自分自身の罪。
それを懺悔のごとく、心の中で露頭し始める。
(……でも、今回は違った)
思い出されるのは、先ほど自身の前に現れてくれたアクセルの姿。
ローレンスが立て直してくれた心が再び折れそうになった時、まるで何事もなく手を差し伸ばしてくれたように、救ってくれた。
(……ここに来てからずっとそうだった。私が見たことのなかった光景を、アクセルはずっと見させてくれた。たくさんの罪を抱いてくれた私を包んでくれた……救ってくれた)
剣を握る力が自然と強くなる。
(……ここだけは、絶対に守りたい)
——必ず、生きて帰ります。
すると思い出される、今まで聞いたことのなかったアクセルの言葉。
その言葉が反芻し、再びマリアの心を支えてくれた。
「……うん…うん、そうだよねアクセル……お姉ちゃんがこんな所で負ける訳にはいかないもんね?」
そう呟くとともに、彼女の待っていた剣が白く輝き始める。
「……もう、迷わない、折れない、挫けない。アクセルがそばに居てくれるから………だから絶対にここを……みんなを守る!」
マリアはもう迷わない。
ずっと不安定だった心はアクセルによって強靭なものへと開花させた。
それは些細なことなのかもしれない、あまり影響力のないものなのかもしれない。
それでも……マリア・アンドレ・レステンクールにとっては大きな事であった。
罪を背負った自分を守ると彼は言ってくれたから。だから彼女はアクセルがいる限り、折れることはないであろう。
そしてその心の強さが、マリアをまた一歩、光り輝く花へと進化させる。
「はっはぁ!行くぞマリア!!これで最後だ!!!」
その雄叫びがマリアの耳に届き、彼女もまた自分の大技を出すべく、剣を相手に向ける。
「狂人化《ビーストモード》!!」
ラゴイスタがその単語を叫ぶと、彼の身体がさらに強靭なものへと変化させ、さらに彼の異能である巨大化を利用して、身体全体がおおきくなった。
「……いってくるね、アクセル」
マリアは自身の心を支えてくれた人物の名前を吐き、そして一歩、地面を踏み出した。
常人には見えない、残像が出る程の速度で、ただまっすぐとラゴイスタに向かっていく。
「イクゾォオオオオオ!!!」
悍ましい叫び声とともに、彼自身の全力の拳が流星のように一直線にマリア目掛けて突き進んだ。
「隕石落とし!!」
風を切り裂き、周囲の空間を歪めるほどの凄まじい威力を持つであろうその拳の軌跡はまるで空間を引き裂く光の筋のようで、圧倒的な破壊力を予感させた。
そんな拳をマリアは剣全体から放たれる白銀のオーラを纏う剣がその隕石を砕くべく、斬撃が放たれた。
「次元・一閃!!!」
瞬間、先ほどとは別次元の斬撃がラゴイスタの拳を断ち切ろうと迫る。
それは異次元の空間でさえ開かれてしまうような錯覚をもたらしていた。
マリアの進化したその斬撃とラゴイスタの拳がぶつかり合い、空間が一瞬、光で包まれた。
まるで時間が止まったような静寂が訪れた後、二人が先ほどぶつかった衝撃波よりもさらに激しく広がり、それは周りにいた生物等しく、吹き飛ばされていった。
そして、その衝撃が収まり、光に包まれた世界が元に戻った後………ラゴイスタのその巨大な身体は真っ二つに切り裂かれた。
マリアはそれを見送った後、剣を鞘に戻して……今まで見せたことがない屈託のない笑顔を浮かべていた。
「……えへへ……勝ったよアクセル……お姉ちゃん、今度はちゃんと守り抜いたよ」
罪を背負った女性が、やっと自分が守りたかった物を守れた瞬間であった。
最大の宿敵と最後まで戦いあったラゴイスタと、脆弱な精神から強靭な物へと進化させた(アクセルがいる限定)マリアの戦い。
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ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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