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変わりだす未来
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原作「ヴァニティフィロス」
その物語に登場するレステンクール家やその名に関連する者達は悲惨な運命に陥っていた。
ある者は毒により無惨に死を遂げ、ある者は自身の不甲斐なさ、大切な人物を守れなかった後悔によりそのまま自ら死に向かい、ある者達は誰にも認知されず、恐怖の対象として崇められ、後に登場する原作の主人公により、葬られる。
そんなどうしようもなく残酷で、胸糞悪いバッドエンドは……今、変わりつつある。
それは、レステンクール家が崩壊のきっかけになったであろうこの戦場を見れば一目同然だ。
「マエル様の傷が深すぎます!今すぐに治療をしなければ……!」
「分かっておる!此奴は死なせん…!アルマン!今ここにいる負傷者を全員我の所へ連れてこい!今すぐだ!!」
「わ、分かりました!」
その葬られる事実にある者は、その強大な力で複数の魔族を滅ぼし、戦いで負傷した騎士達の治療を専念し……。
「団長、こちらも終わりました!」
「あぁ、よくやった。ならお前達は生きている盗賊を見張ってておいてくれ。レイス!団員の負傷者は?」
「異常ありません。全員、いつでも行けます!」
「よしっ、なら残りも制圧するぞ。全員突撃!」
自ら死に向かっていった者は、死闘を見事勝ち抜き、自身の団員を率いて、今も戦っているであろう所へと赴いており……。
「「"ガァアアアア!!」」
「ふっ…!」
シュッ!
「…ふぅ、ここらへんの魔物は大丈夫そうね……そこの人達!ここは任せたわよ!!」
「あ、ありがとうございます…!」
毒により無惨な死を遂げた者は、強大な魔族と戦い抜いた後も、この戦いを終わらせるべく、彼方此方を駆け回っている。
原作には介入しないであろう魔族が相手でも尚、この戦いは今、彼らが優勢に進められていた。
それは彼が未来を変えるために奮闘した事、彼に影響されて強くなった事、彼を守るために強靭な物へと変化した事……それらの小さな小さな塵が積め合わせた事により成し得ることが出来た、誰も見たことがない未来。
それが今、実現されつつあったのだ。
「……な、なんなんだこれ?」
ある森の中で、その戦場を水晶を通じて見守っていた魔族は信じられないものを見ているかなように吐いてしまう。
「嘘だろ……奴らを倒しやがった…!」
彼が言う奴らとは、この戦場に参加したであろう七体の魔族とワイバーン、そしてレイドールとラゴイスタであろう。
「冗談じゃねえだろ……魔族の中でも名の知れた奴らだったんだぞ!それを、こんな……人間ごときに……」
頭をガシガシと掻き乱しながら、受け入れられない現実を見るように叫ぶ魔族。
「だから俺も着いて行ったのに……くそっ、失敗した!俺の存在を知られたらまずい!
今すぐに逃げないと…!」
そう言い、何かの魔法ではない物を解いて、その場から離れようとする一体の魔族。
「あら、こんなところにいたのね」
「ッ!?」
大人の妖艶さを持った声が耳に入る。
後ろを振り向くと、見るものの目を奪ってしまうようなスタイルでゆっくりと近づいてきてる女性がいた。
「全く、探したわよ……魔物を操っている魔族。まさかこんな所にいるだなんて思わなかったわ」
「……何者だ?」
適度に距離を取りつつ、誰かと聞く魔族。
それに対して……ユニーレはふふっとただ笑みを浮かべているだけで特に何も答えない。
「ッ!なんとか答えたらどうなんだ!!」
その対応に対して自分が舐められたと感じた魔族は声を荒げる。
「そんなに声を荒げなくてもいいじゃない。
もっとお話しましょう?」
「黙れっ!」
その態度に堪忍袋が切れたのだろう、魔族は手を左右に広げて、何かを唱えるとそこに多くの魔物が集まってきた。
「……へっ、丁度いい。今実験材料が切れかけていたんだ……お前で代用してやる」
「……それは、なんとまぁ趣味が悪い事ね」
「お前ら人間など、俺たち魔族の道具に過ぎないんだよ……それを理解したら、大人しく捕まりやがれ!」
そう言い放ち、操っている魔物に命令し、ユニーレを襲おうとする大量の魔族。
対するユニーレはその様子に特に焦りを見せず……そのまま前へ歩き出す。
「この子達には罪はないけれど……」
そして今にも接触しようとした時……突如、魔物達の身体で何かが内部を貫き……串刺し状態となって息絶えた。
「……私の邪魔をするなら、容赦はしないわ」
そのまま魔族に手を向けると、魔物達と同じように槍のような鋭利な刃物が彼の身体の中を貫く。
「ぐわぁ……こ、これは……」
必死に身体をもがいて、彼女から離れようとするが、何かの阻害を受けてなのか、指一本でさえ動かすことが難しい。
「貴方の身体の中で物体を精製させてもらったわ。あと、その中に毒も仕込んでるからいくら抵抗しても無駄よ」
目の前にいる魔族の疑問を淡々と返して、ユニーレは相手の頭に手を触れると、魔法を使用した。
「………………………なるほどね」
何かを理解したように、彼女はそう呟いて、もう魔族には用がないのか、そのまま来た道を引き返す。
「ま、待ち、やが、れ……」
魔族はそう言って彼女の歩みを止めようとするが、その声はユニーレの耳には入らない。
そして時間が残酷なのか、意識が朦朧としていき……魔族の命はこの世から去っていった。
「……あぁ、そういえば言い忘れてたけど、その毒は……ってもう聞こえてないかしらね」
後ろを振り向き、身体が形を保てないとでも言ってるように、ボロボロと崩壊していってる魔族を見ながらそう呟き、彼女は再び前へ向いて暗い森の中へと消えていった。
◇
カキンッ!
洞窟内で鋭い音が反芻してなり響いた。
お互い相手の剣を押しやり、適度に距離を取りつつ、再度構える。
「あっはは!流石っすねアクセル様~俺、これでも強い方なんすよ?それをいとも簡単に渡り合うって……どんな強さしてるんすか?」
目の前にいる相手…モルクは傷だらけになりながらも、口を歪ませて俺に話し出す。
そんな傷だらけに対して俺は特に外傷を負わずに無傷のまま、モルクを見つめる。
「……そろそろ答えたらどうなんだ?」
「え、なんすか?もう終わりっすか?そんなのあんまりですよ~もっと」
「とぼけるなと言ってるんだ!」
「……あーあ」
……つい、無意識に声を荒げてしまっている。
原作では確かに、モルクという人物は謎に包まれていた。
そもそも仕えていた人がマエルということでマイナーキャラだから仕方ない気がするが、
特にこのキャラはそれ以上に分からないことが多かった。
ただナンパ好きで、もしかしたら強いかも、という曖昧な情報だけ。
……だから、彼が奴らに加担していると知ったあの時、俺は激しい動揺が生じていた。
「……まぁ、別に隠すことでもないっすからね。いいっすよ、答えてあげます」
特になんとも思ってないのか、そのまま面白くなさそうに語り出すモルク。
「……というか何故あっち側なのかは俺のことを知れば理解出来ると思うっすよ」
「……どういうことだ?」
「簡単っすよ。俺、魔族なんですから」
そう言って、さっき傷をつけたであろう傷がみるみる内に回復していっている。
「……」
「特に驚かないんすね……いや、案外隠してるだけっすか?まぁそんなことはいいっす」
心の中で感情を出さないようにしていたが、どうやらバレてるらしい。そのままモルクは語る。
「と言っても協力したのはつい最近なんすよ?それに、俺もあそこは気に入っていましたから、裏切るつもりなんてなかったんすよ」
でも…その言葉を否定するようにモルクは俺の方を見ながら、語り出す。
「……あなたを見ていたら、気が変わりました。前まではただの平凡で、どこにでもいそうな子供……それが、数日後に突然変わりだした。まるで俺が知っていたアクセル様ではないように……ね」
「……つまり、これは……俺が原因、ということか」
「いや特に貴方に責任があるわけじゃないっすよ?ただ、好奇心が抑えきれなかっただけですよ。この人は一体……何をするのかをね」
「まぁそこからはただの作業ですよ。元々作っていた魔法薬を俺が少し改良したり、奴らに貴方達の情報を提供したり、ペレクの奴らを王都から領地まで移動短縮のため、ワープしたりしました……まぁ、この場所を嗅ぎつけられたり、貴方が毒を飲まれた時は少し驚きましたが……」
「……そういう、ことか」
モルクの言葉に俺は……唖然とするしかなかった。
確かに、俺が何かしたことで歴史が変わったと思った。
魔族が何体か関わり出していたのが、いい例だ。
でも、その原因が……俺という存在そのものだったなんて、な。
「…あー、さっきも言いましたが。特に貴方が悪いわけじゃないですよ?」
俺の様子にモルクが気を使ったようにそう言うが、それは俺には届かない。
「………ほいっ」
するとモルクは何か魔法を俺ではないどこかに放つ。
「きゃあっ!」
「ッ!」
後ろを見ると、そこには今にも魔法に当たりそうな盗賊達に捕まっていた複数人の女性。
俺は彼女達を庇うようにその魔法を剣で斬る。
幸い様子を見た限り、怪我をした様子はなかった。それに安堵し、同時にモルクを睨みつける。
「何やってるんだモルク…!彼女達は何も関係ないだろ!」
「えぇ、そうっすね。ただその場にいただけですね」
そう言いながら、また別の人たちを魔法で狙撃しようとしている。
その前に、彼の腕を魔法が放たれる前に切り裂く。
「おっと」
モルクは驚愕に帯びた声をしつつ、そのまま腕を抑えながら距離を取る。
「これは、俺とお前の戦いのはずだ!彼女達を巻き込むのはやめろ!」
「それと同じなんですよ」
「は…?」
突然、突拍子もない事を言うモルク。
俺はその言葉に対して、意味が分からずつい言葉が漏れてしまう。
「彼女達は何も関係ないですよ?ただ捕まっていただけなんですから。何も悪くありません……さっき言ったこともそれと同じことが言えるんすよ」
彼らしくないだらけた様子ではなく、表情を変えずにそのまま語り出す。
「俺は確かに裏切りました。ですが、それは俺の気分です。アクセル様のせいで裏切ったのではありません。貴方は変わった。それだけなんです……貴方が思ってることは、さっきの俺の行動と同じなんですよ?」
「……極論だろ」
だが、心の中では……何かを鷲掴みされたような気がした。
彼の言いたいことは分かる……要は無駄に俺が責任を感じると、他の誰かを傷つけるかもしれないということだ。
だから貴方が責任を負う必要なんてないと。
………だからってこんなの……。
「……納得、出来るわけないだろ」
「……そうですか、なら俺は、その後ろにいる人達全員を殺しますよ」
「モルク…!」
「何迷ってるんですか?」
すると、核心に迫るように彼は話し出した。
「貴方は、このどうしようもない未来を変えるために動いてるんですよね?なら、そのために生み出される代償なんて……捨ててしまいなさいよ」
「……」
……俺は、深呼吸を繰り返して……モルクを見つめ出す。
……強いな、お前は。
モルク、俺はお前が裏切ったことに対して凄い動揺してしまった。
結局のところ、未来を変えると言いながら、どこか怖かったのかもしれない。俺の身近な誰かが前に立ち塞がるんじゃないのかと思うほどに。
実際、このザマだ。お前を前にして……迷いが出て、躊躇してしまった。
……そうだよな。
俺は……この選択を取ったんだ。
だったら……その責任を、その代償を取らないと……あいつらの幸せなんて、掴めないよな。
「……ははっ、そうですその顔。その顔が見たかった」
モルクの表情が不敵に醜く歪み始める。
まるで自分の遊び道具が再度動き始めてるのを喜んでようだった。
きっと俺の顔の、心の変化を感じとったのだろう。
「……モルク」
さっきまで騒ついていたのが嘘のように落ち着いた状態で、彼に……敵に話し出す。
「……これは、最初で最後の警告だ。大人しくしろ、俺は……お前を殺したくない」
「……俺がこんなおもしろい事に対して、遠慮するとでも?」
その答えはまるで、彼がずっと好きであったナンパのことを話し出してるような気がして……心が傷んだ。
「……そうか」
その答えに俺は……握る力を強め、今持っている刀、政宗を収納ボックスに入れる。
モルクは俺の様子に笑みを隠しきれず、そのまま見守っている。
そして俺は、再び収納ボックスから………
もう一つの刀を取り出す。
「………いやぁ、凄いっすね……それ」
その刀の出す異様な雰囲気にモルクは一瞬怖気付いてしまう。
だが、もう遠慮はいらない。
全力で……今、目の前にいる敵を殺す。
「神刀——神威《カムイ》」
その物語に登場するレステンクール家やその名に関連する者達は悲惨な運命に陥っていた。
ある者は毒により無惨に死を遂げ、ある者は自身の不甲斐なさ、大切な人物を守れなかった後悔によりそのまま自ら死に向かい、ある者達は誰にも認知されず、恐怖の対象として崇められ、後に登場する原作の主人公により、葬られる。
そんなどうしようもなく残酷で、胸糞悪いバッドエンドは……今、変わりつつある。
それは、レステンクール家が崩壊のきっかけになったであろうこの戦場を見れば一目同然だ。
「マエル様の傷が深すぎます!今すぐに治療をしなければ……!」
「分かっておる!此奴は死なせん…!アルマン!今ここにいる負傷者を全員我の所へ連れてこい!今すぐだ!!」
「わ、分かりました!」
その葬られる事実にある者は、その強大な力で複数の魔族を滅ぼし、戦いで負傷した騎士達の治療を専念し……。
「団長、こちらも終わりました!」
「あぁ、よくやった。ならお前達は生きている盗賊を見張ってておいてくれ。レイス!団員の負傷者は?」
「異常ありません。全員、いつでも行けます!」
「よしっ、なら残りも制圧するぞ。全員突撃!」
自ら死に向かっていった者は、死闘を見事勝ち抜き、自身の団員を率いて、今も戦っているであろう所へと赴いており……。
「「"ガァアアアア!!」」
「ふっ…!」
シュッ!
「…ふぅ、ここらへんの魔物は大丈夫そうね……そこの人達!ここは任せたわよ!!」
「あ、ありがとうございます…!」
毒により無惨な死を遂げた者は、強大な魔族と戦い抜いた後も、この戦いを終わらせるべく、彼方此方を駆け回っている。
原作には介入しないであろう魔族が相手でも尚、この戦いは今、彼らが優勢に進められていた。
それは彼が未来を変えるために奮闘した事、彼に影響されて強くなった事、彼を守るために強靭な物へと変化した事……それらの小さな小さな塵が積め合わせた事により成し得ることが出来た、誰も見たことがない未来。
それが今、実現されつつあったのだ。
「……な、なんなんだこれ?」
ある森の中で、その戦場を水晶を通じて見守っていた魔族は信じられないものを見ているかなように吐いてしまう。
「嘘だろ……奴らを倒しやがった…!」
彼が言う奴らとは、この戦場に参加したであろう七体の魔族とワイバーン、そしてレイドールとラゴイスタであろう。
「冗談じゃねえだろ……魔族の中でも名の知れた奴らだったんだぞ!それを、こんな……人間ごときに……」
頭をガシガシと掻き乱しながら、受け入れられない現実を見るように叫ぶ魔族。
「だから俺も着いて行ったのに……くそっ、失敗した!俺の存在を知られたらまずい!
今すぐに逃げないと…!」
そう言い、何かの魔法ではない物を解いて、その場から離れようとする一体の魔族。
「あら、こんなところにいたのね」
「ッ!?」
大人の妖艶さを持った声が耳に入る。
後ろを振り向くと、見るものの目を奪ってしまうようなスタイルでゆっくりと近づいてきてる女性がいた。
「全く、探したわよ……魔物を操っている魔族。まさかこんな所にいるだなんて思わなかったわ」
「……何者だ?」
適度に距離を取りつつ、誰かと聞く魔族。
それに対して……ユニーレはふふっとただ笑みを浮かべているだけで特に何も答えない。
「ッ!なんとか答えたらどうなんだ!!」
その対応に対して自分が舐められたと感じた魔族は声を荒げる。
「そんなに声を荒げなくてもいいじゃない。
もっとお話しましょう?」
「黙れっ!」
その態度に堪忍袋が切れたのだろう、魔族は手を左右に広げて、何かを唱えるとそこに多くの魔物が集まってきた。
「……へっ、丁度いい。今実験材料が切れかけていたんだ……お前で代用してやる」
「……それは、なんとまぁ趣味が悪い事ね」
「お前ら人間など、俺たち魔族の道具に過ぎないんだよ……それを理解したら、大人しく捕まりやがれ!」
そう言い放ち、操っている魔物に命令し、ユニーレを襲おうとする大量の魔族。
対するユニーレはその様子に特に焦りを見せず……そのまま前へ歩き出す。
「この子達には罪はないけれど……」
そして今にも接触しようとした時……突如、魔物達の身体で何かが内部を貫き……串刺し状態となって息絶えた。
「……私の邪魔をするなら、容赦はしないわ」
そのまま魔族に手を向けると、魔物達と同じように槍のような鋭利な刃物が彼の身体の中を貫く。
「ぐわぁ……こ、これは……」
必死に身体をもがいて、彼女から離れようとするが、何かの阻害を受けてなのか、指一本でさえ動かすことが難しい。
「貴方の身体の中で物体を精製させてもらったわ。あと、その中に毒も仕込んでるからいくら抵抗しても無駄よ」
目の前にいる魔族の疑問を淡々と返して、ユニーレは相手の頭に手を触れると、魔法を使用した。
「………………………なるほどね」
何かを理解したように、彼女はそう呟いて、もう魔族には用がないのか、そのまま来た道を引き返す。
「ま、待ち、やが、れ……」
魔族はそう言って彼女の歩みを止めようとするが、その声はユニーレの耳には入らない。
そして時間が残酷なのか、意識が朦朧としていき……魔族の命はこの世から去っていった。
「……あぁ、そういえば言い忘れてたけど、その毒は……ってもう聞こえてないかしらね」
後ろを振り向き、身体が形を保てないとでも言ってるように、ボロボロと崩壊していってる魔族を見ながらそう呟き、彼女は再び前へ向いて暗い森の中へと消えていった。
◇
カキンッ!
洞窟内で鋭い音が反芻してなり響いた。
お互い相手の剣を押しやり、適度に距離を取りつつ、再度構える。
「あっはは!流石っすねアクセル様~俺、これでも強い方なんすよ?それをいとも簡単に渡り合うって……どんな強さしてるんすか?」
目の前にいる相手…モルクは傷だらけになりながらも、口を歪ませて俺に話し出す。
そんな傷だらけに対して俺は特に外傷を負わずに無傷のまま、モルクを見つめる。
「……そろそろ答えたらどうなんだ?」
「え、なんすか?もう終わりっすか?そんなのあんまりですよ~もっと」
「とぼけるなと言ってるんだ!」
「……あーあ」
……つい、無意識に声を荒げてしまっている。
原作では確かに、モルクという人物は謎に包まれていた。
そもそも仕えていた人がマエルということでマイナーキャラだから仕方ない気がするが、
特にこのキャラはそれ以上に分からないことが多かった。
ただナンパ好きで、もしかしたら強いかも、という曖昧な情報だけ。
……だから、彼が奴らに加担していると知ったあの時、俺は激しい動揺が生じていた。
「……まぁ、別に隠すことでもないっすからね。いいっすよ、答えてあげます」
特になんとも思ってないのか、そのまま面白くなさそうに語り出すモルク。
「……というか何故あっち側なのかは俺のことを知れば理解出来ると思うっすよ」
「……どういうことだ?」
「簡単っすよ。俺、魔族なんですから」
そう言って、さっき傷をつけたであろう傷がみるみる内に回復していっている。
「……」
「特に驚かないんすね……いや、案外隠してるだけっすか?まぁそんなことはいいっす」
心の中で感情を出さないようにしていたが、どうやらバレてるらしい。そのままモルクは語る。
「と言っても協力したのはつい最近なんすよ?それに、俺もあそこは気に入っていましたから、裏切るつもりなんてなかったんすよ」
でも…その言葉を否定するようにモルクは俺の方を見ながら、語り出す。
「……あなたを見ていたら、気が変わりました。前まではただの平凡で、どこにでもいそうな子供……それが、数日後に突然変わりだした。まるで俺が知っていたアクセル様ではないように……ね」
「……つまり、これは……俺が原因、ということか」
「いや特に貴方に責任があるわけじゃないっすよ?ただ、好奇心が抑えきれなかっただけですよ。この人は一体……何をするのかをね」
「まぁそこからはただの作業ですよ。元々作っていた魔法薬を俺が少し改良したり、奴らに貴方達の情報を提供したり、ペレクの奴らを王都から領地まで移動短縮のため、ワープしたりしました……まぁ、この場所を嗅ぎつけられたり、貴方が毒を飲まれた時は少し驚きましたが……」
「……そういう、ことか」
モルクの言葉に俺は……唖然とするしかなかった。
確かに、俺が何かしたことで歴史が変わったと思った。
魔族が何体か関わり出していたのが、いい例だ。
でも、その原因が……俺という存在そのものだったなんて、な。
「…あー、さっきも言いましたが。特に貴方が悪いわけじゃないですよ?」
俺の様子にモルクが気を使ったようにそう言うが、それは俺には届かない。
「………ほいっ」
するとモルクは何か魔法を俺ではないどこかに放つ。
「きゃあっ!」
「ッ!」
後ろを見ると、そこには今にも魔法に当たりそうな盗賊達に捕まっていた複数人の女性。
俺は彼女達を庇うようにその魔法を剣で斬る。
幸い様子を見た限り、怪我をした様子はなかった。それに安堵し、同時にモルクを睨みつける。
「何やってるんだモルク…!彼女達は何も関係ないだろ!」
「えぇ、そうっすね。ただその場にいただけですね」
そう言いながら、また別の人たちを魔法で狙撃しようとしている。
その前に、彼の腕を魔法が放たれる前に切り裂く。
「おっと」
モルクは驚愕に帯びた声をしつつ、そのまま腕を抑えながら距離を取る。
「これは、俺とお前の戦いのはずだ!彼女達を巻き込むのはやめろ!」
「それと同じなんですよ」
「は…?」
突然、突拍子もない事を言うモルク。
俺はその言葉に対して、意味が分からずつい言葉が漏れてしまう。
「彼女達は何も関係ないですよ?ただ捕まっていただけなんですから。何も悪くありません……さっき言ったこともそれと同じことが言えるんすよ」
彼らしくないだらけた様子ではなく、表情を変えずにそのまま語り出す。
「俺は確かに裏切りました。ですが、それは俺の気分です。アクセル様のせいで裏切ったのではありません。貴方は変わった。それだけなんです……貴方が思ってることは、さっきの俺の行動と同じなんですよ?」
「……極論だろ」
だが、心の中では……何かを鷲掴みされたような気がした。
彼の言いたいことは分かる……要は無駄に俺が責任を感じると、他の誰かを傷つけるかもしれないということだ。
だから貴方が責任を負う必要なんてないと。
………だからってこんなの……。
「……納得、出来るわけないだろ」
「……そうですか、なら俺は、その後ろにいる人達全員を殺しますよ」
「モルク…!」
「何迷ってるんですか?」
すると、核心に迫るように彼は話し出した。
「貴方は、このどうしようもない未来を変えるために動いてるんですよね?なら、そのために生み出される代償なんて……捨ててしまいなさいよ」
「……」
……俺は、深呼吸を繰り返して……モルクを見つめ出す。
……強いな、お前は。
モルク、俺はお前が裏切ったことに対して凄い動揺してしまった。
結局のところ、未来を変えると言いながら、どこか怖かったのかもしれない。俺の身近な誰かが前に立ち塞がるんじゃないのかと思うほどに。
実際、このザマだ。お前を前にして……迷いが出て、躊躇してしまった。
……そうだよな。
俺は……この選択を取ったんだ。
だったら……その責任を、その代償を取らないと……あいつらの幸せなんて、掴めないよな。
「……ははっ、そうですその顔。その顔が見たかった」
モルクの表情が不敵に醜く歪み始める。
まるで自分の遊び道具が再度動き始めてるのを喜んでようだった。
きっと俺の顔の、心の変化を感じとったのだろう。
「……モルク」
さっきまで騒ついていたのが嘘のように落ち着いた状態で、彼に……敵に話し出す。
「……これは、最初で最後の警告だ。大人しくしろ、俺は……お前を殺したくない」
「……俺がこんなおもしろい事に対して、遠慮するとでも?」
その答えはまるで、彼がずっと好きであったナンパのことを話し出してるような気がして……心が傷んだ。
「……そうか」
その答えに俺は……握る力を強め、今持っている刀、政宗を収納ボックスに入れる。
モルクは俺の様子に笑みを隠しきれず、そのまま見守っている。
そして俺は、再び収納ボックスから………
もう一つの刀を取り出す。
「………いやぁ、凄いっすね……それ」
その刀の出す異様な雰囲気にモルクは一瞬怖気付いてしまう。
だが、もう遠慮はいらない。
全力で……今、目の前にいる敵を殺す。
「神刀——神威《カムイ》」
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