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怒りという名の天罰
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「………………オニイ…サマ?」
マリア姉さんの告白から翌日の早朝。
世界に光を与えてくれる燦々と輝く太陽、曇り一つない青空、時折聞こえる鳥の鳴き声。
そんな、快適な朝を迎えようとしているのだが……どうやら今日は絶不調らしい。
「あらソフィア、どうしたのよそんな顔して?せっかくのいい天気なんだからもう少し笑顔でいきましょう?」
そう言いながら、いつもよりもギュッ…と俺のことを抱きしめている姉さん。
それに対してソフィアは……姉さんの部屋を凍てつく勢いでこちらを……俺たちを見ている。
さて、もうお分かりだろう。俺は今……絶賛、彼女達の姉妹喧嘩に巻き込まれています。
「どうしてお姉様の部屋にお兄様がいるのでしょうか?昨夜、お兄様の部屋に行ってもいなかったのに……何故でしょう?」
「あー……姉さんに呼ばれたから…つい」
「……オネエサマ?」
俺がそう答えると、ソフィアの黒く濁った視線が姉さんに向かれる。だが、姉さんはそれに微動だにしないでいつも通りに答える。
「えぇ、昨夜怖い夢を見ちゃったのよ。だから、アクセルに頼んで一緒に寝てもらったの。ねぇ~アクセルぅ?」
な、なんか姉さんの様子がおかしい気がする。いやだって、こんなに甘々な声出していたか?それにいつもよりもしっとりとした目で俺を見ているような……。
まぁでも、あの夜の出来事で吹っ切れたのか、姉さんの表情がとても豊かに思える。
それはいい。それはいいんだが……。
「……浮気ですか?」
……この姉妹喧嘩だけは、本当にどうにかならないもんかと思ってしまう。
「いやソフィア違う。確かに姉さんに呼ばれてここで寝てしまったのは事実だけど、特にやましい事は……」
ていうかなんで俺こんな弁解しているんだ?
結婚してないよな?
「もぉアクセルったら、恥ずかしがり屋さんなんだから!そんなこと言って……お姉ちゃんと一緒に寝れて、嬉しかったんでしょう?」
「何言ってるんすか姉さん?」
姉さんのその突拍子もない言葉に俺はすぐに反応してしまった。
いやおかしい。ソフィアとか、マリア姉さんとか、何かのタガが外れたのか、最近俺へのスキンシップが激しすぎる気がする。
気のせいか……?いや、絶対違う。一体何が起こってる?
「……今日こそ白黒はっきりさせましょうか、お姉様」
指を鳴らして、各属性の魔法を顕現しながらソフィアは姉さんに問いかける。
「えぇ、どちらがアクセルの隣に相応しいのか……決着をつけましょうソフィア」
不適な笑みを作り、ベットに置いていた剣を手にとって、パジャマのまま出て行こうとする姉さん。
「アクセル!」
パジャマのままでいいんですかと言おうとした時、マリア姉さんはこちらを振り向いて……その表情に俺は見惚れてしまった。
「私……幸せになるから!!!」
そう言い切った時の姉さんの……マリアの顔は、とても輝いていたのだから。
(……これじゃあ、メインヒロインも顔負けだな)
ソフィアとともに出て行った姉さんの姿を見て、そんなことを考えてしまう。
「……さて」
そして俺は今日………奴らにケジメをつけさせるべく、動き始める。
「……行くか」
◇
イメドリア王国の首都、王都ラスティア
ペレク家による国家転覆に加担していた多くの貴族はナーシャ率いるカロナイラ家の活躍により、無事阻止することに成功した。
これで、王国も安心……ではない。
その理由としてペレク家に加担していた貴族があまりに多すぎたのだ。
これが民衆に知れ渡れば、王国による不安が膨れ上がり、反乱の種子が生み出されてしまう可能性が高いのだ。
そこで、王国が取った策として挙げられたのが…………。
「さぁ、皆の衆!ここにいる誇り高きイメドリアの貴族を盛大に見送ろうではないか!!」
魔道具により、王国全体に響き渡る宰相の声。それに反芻するように、彼らは盛大な拍手と歓声をあげ、多くの貴族を見送ろうとしていた。
だが、ペレク家率いる貴族は……全員等しく顔面蒼白になっていた。
そう、王国側が取った策は、王国の隣にある帝国のランディール帝国に貴族たちを使者、スパイとして送り出すこと。
その理由として、今の王国と帝国はあることが原因で、仲に亀裂が走っているのだ。
そんな時に彼らを、ペレク家率いる貴族を使者として、スパイとして送り出すことに決めたのだ。
この案は、バレロナとアクセルが話し合ったことによる決まった生ぬるい罰。
また、暗黙の了解により、彼らがこの王国を去った後は何があろうとも国は介入しないとのこと。
それが例え魔物に襲われようとも、賊による襲撃であろうとも、王国側は彼らに対して何もしないことで決定した。
そう……彼らはこの国での人権を失ったのだ。
そのような状態でランディール帝国に送られることは軽い罰なのか、重い罰なのかは……彼らの顔を見れば明白だ。
(何故だ……何故、俺たちがこのようなことに…!!)
「ぱ、パパ……僕たち、どうなっちゃうの?」
レドは自身の父であるゼノロアに聞くが、彼にもそんな余裕がなかった。
それもそのはず、数日間での牢獄生活も彼らにとっては苦痛そのものであったのだ。
食事は最低限、朝日を浴びることすら許されず、酷い時には拷問されることもあった。
それはこの国を乗っ取ろうとした罰であり、アクセルが言っていた悲劇の始まりなのだろう。
「さぁ、勇敢なるペレク家率いる貴族たちよ!お前達の命運を祈っている!!」
宰相のその言葉を最後に……王国への門は閉じられたのだ。
◇
「はぁ……はぁ……いつになったら……帝国に、着くのよ……?」
その言葉を発したのは、イベルアート家の長女、セミカである。
ボロボロになった服で少なくない傷を負いながら、彼女は今日もその重くなった足取りで歩いて行く。
「せ、セミカ……大丈夫かい?」
「辛かったら言ってね?お母さんの食料分けてあげるから」
「………」
彼女の両親である二人が話かけるが、彼女はそれに対して無視をし続けている。
彼らはこの件に関して、何も関与していないのに……敢えてあると言えば、娘が関与していたことぐらい。
一人でも国家転覆に関与していれば、それがたとえ何も関係がない者であっても等しく、罰が実行される。
それが今回の件でのイメドリア王国が取った彼らへの罰の一つだ。
セミカは後ろを見る。すると、出発前までいた子供を含む多くの貴族は……半分まで減っていた。
(……魔物に襲われたり、少ない食料を巡って、醜く争ったり……国家転覆に加担しようとしたから、当然の結果よね)
彼女は考える。
もし、自分の中にある醜い感情がこのように露頭しなければ……もしも、それを嫉妬の対象であった彼女に打ち明けたら……このような結果にならなかったのではないか。
(……この人達にも……悪いこと、させちゃったわね)
優しいだけが取り柄であった自分の親。
そんな二人は今も親である自分のことは考えず、娘のために奮闘している。
それは、優しいだけではこの世界で生きていけないのだと宣言されているようでもあった。
「……あぁ、なんで……こんなことしちゃったんだろう…?」
後悔しても、もう遅い。それが彼女の選択なのだから。
そんなことを呟いて、セミカは上を見上げた。
そして、今も必死に生きようとしている彼女らの上空には………一人の男が宙に留まっていた。
「……バレロナ様から聞いていたが……ここか」
その男、アクセルは下にいる貴族達を見下ろす。彼の目に映ったのは、なんの罪もないであろう、貴族や子供、まだ歩くことの出来ない赤ん坊の姿。
それを見て、彼は目を瞑る。まるで何かを決心するように……自身の中にある良心を捨てるかのように、深呼吸を繰り返す。
(………そうか……アクセル……お前は、あの日からずっと……)
こんな気持ちで、抗ってたんだな。
そしてついに決心したのだろうか、アクセルは現実を受け止めるように、目を再び開ける。
だが、この時の彼の目は……光という物は皆無と言っていいほど、黒く澄んでいた。
「……ごめんな」
そう呟いて、彼は自身の力である虚無力を操る。ただしそれは、虚無力本来の力である「あらゆるものを無にする力」ではなく、「あらゆるものを創造する力」。
かつて、ゴブリンやペレク家の暗殺部隊の一人に使ったであろうその力が今、彼の……アクセルの怒りと言わんばかりに、地上にいる貴族に襲いかかった。
「創造の力」
その力が彼らの体内へと襲いかかった。
なんの罪もない人達や子供、赤ん坊は、まるで眠るかのように静かに息を引き取り、この件に少しでも関与していた者は長い苦しみを味わい、そのまま絶命していく。
「……どうやら、セミカ・イベルアートも終わったみたいだな」
そう言いながら、彼女の方を見てみると……彼女の親である二人の手を握りながら、命を絶っていた。
「……あいつは確かにやってはいけないことをした……でも、同情はできる」
もし、彼女の心の中を少しでも変えさせることが出来ていれば、きっとこのような結果にはならなかったはずだ。
……それを……彼女の心を利用した……奴らだけは……。
「……相応の苦しみを味わってもらうぞ、ペレクども」
そう言って、俺は地上へと降りて行った。
◇
「がぁ…はぁ…はぁ、あがぁ…がぁああ…!」
アクセルの力により、今も周りの貴族が絶命していく中、ペレク家であるレドとゼノロアは未だに悶え、苦しんでいた。
(…な、なにが、あった……?い、息が…でき、ない……く、くるしい……)
「ぱ、ぱ……く、くるしい…よぉ…」
彼らの象徴であった大きな腹もこの旅の中で、随分と痩せ細り、無様に地面に転がり喚き散らかす。
「……随分と、堕ちたものだな」
「「ッ!」」
上空から自分達の計画を台無ししたであろう、プライドを傷つけたであろう張本人の声が聞こえる。
「…き、きさま……!!」
腹から滲み出るその声は、まさに憎悪の塊であった。レドも涙や涎を垂らしながらも、上にいるであろう人物のことを睨んでいた。
だが、その男…アクセルは特に動揺せず、淡々と語る。
「お前らには俺の中で知っている一番苦しい毒を付与させてもらった。せいぜいその苦しみを噛み締めろ」
「き、きさまぁ!よ、よくもあ、のとき…!」
だが、アクセルの声は届かないのか、目の前にいる人物による憎悪によるものなのか、彼らは呪い殺す勢いで彼を睨んでいる。
「……なぁ、お前ら……一体どれだけの人を傷つけた?」
そんな彼らを見て、アクセルは……抑えていた感情を爆発させるように、虚無力を放出する。
それには、先程まで睨んでいた彼らも圧倒されてしまい、顔面が真っ青になる。
「一体、自分たちの娯楽のために何人犠牲にした?自分たちの目的のためにどこまで汚いことをした?自分たちの欲望のために………どれだけの人の人生を……踏み躙った?」
音を立てながら、少しずつ彼らに近付いていくアクセル。彼らの目には一体何が映ったのだろうか、そのような問いをされたら、きっとこう答えるだろう。
……アクセルに似た亡霊のような何か、だと。
「ある奴は、お前らのせいで一度死んで、終わることがない地獄に取り残された」
それは、メインヒロインであり、自身の妹である彼女に対して。
「ある奴は、大切な人たちを守れない後悔、不甲斐なさで自ら命を絶った」
それは、ウィンドブルムの団長であり、生真面目である彼女に対して。
「ある奴は、何度も何度も死を繰り返して……自身の心さえも、殺そうとした」
それは、自身の姉であり、家族を守るために自らの命を、心を犠牲にしようとした彼女に対して。
「……そして、ある奴はそんな悲劇が起こったあの日から……最後まで、一人で死んでいった」
それは、家族を、大切な人たちを全て失い、人類の敵として立ちはだかり、最後まで味方が存在せずに…そのまま死亡していった彼に対して。
「…これは、そんな人達の怒りだ。それを……その身体でじっくりと味わえ…!」
目の前で告げられた彼の言葉がペレク家の耳に、心に響くことはないであろう。
しかし、彼らは伝わった。
目の前にいるアクセルが……自分たちにどれほどまでに憎しみを抱いていたかを。
それを自覚した時……二人の意識は闇に落ち、周りにいた貴族同様に、身体がボロボロに崩壊して……跡形もなく、空に舞って消え去っていった。
ここに、アクセルとペレク家の因縁は、ついに終着へと迎えたのだった。
マリア姉さんの告白から翌日の早朝。
世界に光を与えてくれる燦々と輝く太陽、曇り一つない青空、時折聞こえる鳥の鳴き声。
そんな、快適な朝を迎えようとしているのだが……どうやら今日は絶不調らしい。
「あらソフィア、どうしたのよそんな顔して?せっかくのいい天気なんだからもう少し笑顔でいきましょう?」
そう言いながら、いつもよりもギュッ…と俺のことを抱きしめている姉さん。
それに対してソフィアは……姉さんの部屋を凍てつく勢いでこちらを……俺たちを見ている。
さて、もうお分かりだろう。俺は今……絶賛、彼女達の姉妹喧嘩に巻き込まれています。
「どうしてお姉様の部屋にお兄様がいるのでしょうか?昨夜、お兄様の部屋に行ってもいなかったのに……何故でしょう?」
「あー……姉さんに呼ばれたから…つい」
「……オネエサマ?」
俺がそう答えると、ソフィアの黒く濁った視線が姉さんに向かれる。だが、姉さんはそれに微動だにしないでいつも通りに答える。
「えぇ、昨夜怖い夢を見ちゃったのよ。だから、アクセルに頼んで一緒に寝てもらったの。ねぇ~アクセルぅ?」
な、なんか姉さんの様子がおかしい気がする。いやだって、こんなに甘々な声出していたか?それにいつもよりもしっとりとした目で俺を見ているような……。
まぁでも、あの夜の出来事で吹っ切れたのか、姉さんの表情がとても豊かに思える。
それはいい。それはいいんだが……。
「……浮気ですか?」
……この姉妹喧嘩だけは、本当にどうにかならないもんかと思ってしまう。
「いやソフィア違う。確かに姉さんに呼ばれてここで寝てしまったのは事実だけど、特にやましい事は……」
ていうかなんで俺こんな弁解しているんだ?
結婚してないよな?
「もぉアクセルったら、恥ずかしがり屋さんなんだから!そんなこと言って……お姉ちゃんと一緒に寝れて、嬉しかったんでしょう?」
「何言ってるんすか姉さん?」
姉さんのその突拍子もない言葉に俺はすぐに反応してしまった。
いやおかしい。ソフィアとか、マリア姉さんとか、何かのタガが外れたのか、最近俺へのスキンシップが激しすぎる気がする。
気のせいか……?いや、絶対違う。一体何が起こってる?
「……今日こそ白黒はっきりさせましょうか、お姉様」
指を鳴らして、各属性の魔法を顕現しながらソフィアは姉さんに問いかける。
「えぇ、どちらがアクセルの隣に相応しいのか……決着をつけましょうソフィア」
不適な笑みを作り、ベットに置いていた剣を手にとって、パジャマのまま出て行こうとする姉さん。
「アクセル!」
パジャマのままでいいんですかと言おうとした時、マリア姉さんはこちらを振り向いて……その表情に俺は見惚れてしまった。
「私……幸せになるから!!!」
そう言い切った時の姉さんの……マリアの顔は、とても輝いていたのだから。
(……これじゃあ、メインヒロインも顔負けだな)
ソフィアとともに出て行った姉さんの姿を見て、そんなことを考えてしまう。
「……さて」
そして俺は今日………奴らにケジメをつけさせるべく、動き始める。
「……行くか」
◇
イメドリア王国の首都、王都ラスティア
ペレク家による国家転覆に加担していた多くの貴族はナーシャ率いるカロナイラ家の活躍により、無事阻止することに成功した。
これで、王国も安心……ではない。
その理由としてペレク家に加担していた貴族があまりに多すぎたのだ。
これが民衆に知れ渡れば、王国による不安が膨れ上がり、反乱の種子が生み出されてしまう可能性が高いのだ。
そこで、王国が取った策として挙げられたのが…………。
「さぁ、皆の衆!ここにいる誇り高きイメドリアの貴族を盛大に見送ろうではないか!!」
魔道具により、王国全体に響き渡る宰相の声。それに反芻するように、彼らは盛大な拍手と歓声をあげ、多くの貴族を見送ろうとしていた。
だが、ペレク家率いる貴族は……全員等しく顔面蒼白になっていた。
そう、王国側が取った策は、王国の隣にある帝国のランディール帝国に貴族たちを使者、スパイとして送り出すこと。
その理由として、今の王国と帝国はあることが原因で、仲に亀裂が走っているのだ。
そんな時に彼らを、ペレク家率いる貴族を使者として、スパイとして送り出すことに決めたのだ。
この案は、バレロナとアクセルが話し合ったことによる決まった生ぬるい罰。
また、暗黙の了解により、彼らがこの王国を去った後は何があろうとも国は介入しないとのこと。
それが例え魔物に襲われようとも、賊による襲撃であろうとも、王国側は彼らに対して何もしないことで決定した。
そう……彼らはこの国での人権を失ったのだ。
そのような状態でランディール帝国に送られることは軽い罰なのか、重い罰なのかは……彼らの顔を見れば明白だ。
(何故だ……何故、俺たちがこのようなことに…!!)
「ぱ、パパ……僕たち、どうなっちゃうの?」
レドは自身の父であるゼノロアに聞くが、彼にもそんな余裕がなかった。
それもそのはず、数日間での牢獄生活も彼らにとっては苦痛そのものであったのだ。
食事は最低限、朝日を浴びることすら許されず、酷い時には拷問されることもあった。
それはこの国を乗っ取ろうとした罰であり、アクセルが言っていた悲劇の始まりなのだろう。
「さぁ、勇敢なるペレク家率いる貴族たちよ!お前達の命運を祈っている!!」
宰相のその言葉を最後に……王国への門は閉じられたのだ。
◇
「はぁ……はぁ……いつになったら……帝国に、着くのよ……?」
その言葉を発したのは、イベルアート家の長女、セミカである。
ボロボロになった服で少なくない傷を負いながら、彼女は今日もその重くなった足取りで歩いて行く。
「せ、セミカ……大丈夫かい?」
「辛かったら言ってね?お母さんの食料分けてあげるから」
「………」
彼女の両親である二人が話かけるが、彼女はそれに対して無視をし続けている。
彼らはこの件に関して、何も関与していないのに……敢えてあると言えば、娘が関与していたことぐらい。
一人でも国家転覆に関与していれば、それがたとえ何も関係がない者であっても等しく、罰が実行される。
それが今回の件でのイメドリア王国が取った彼らへの罰の一つだ。
セミカは後ろを見る。すると、出発前までいた子供を含む多くの貴族は……半分まで減っていた。
(……魔物に襲われたり、少ない食料を巡って、醜く争ったり……国家転覆に加担しようとしたから、当然の結果よね)
彼女は考える。
もし、自分の中にある醜い感情がこのように露頭しなければ……もしも、それを嫉妬の対象であった彼女に打ち明けたら……このような結果にならなかったのではないか。
(……この人達にも……悪いこと、させちゃったわね)
優しいだけが取り柄であった自分の親。
そんな二人は今も親である自分のことは考えず、娘のために奮闘している。
それは、優しいだけではこの世界で生きていけないのだと宣言されているようでもあった。
「……あぁ、なんで……こんなことしちゃったんだろう…?」
後悔しても、もう遅い。それが彼女の選択なのだから。
そんなことを呟いて、セミカは上を見上げた。
そして、今も必死に生きようとしている彼女らの上空には………一人の男が宙に留まっていた。
「……バレロナ様から聞いていたが……ここか」
その男、アクセルは下にいる貴族達を見下ろす。彼の目に映ったのは、なんの罪もないであろう、貴族や子供、まだ歩くことの出来ない赤ん坊の姿。
それを見て、彼は目を瞑る。まるで何かを決心するように……自身の中にある良心を捨てるかのように、深呼吸を繰り返す。
(………そうか……アクセル……お前は、あの日からずっと……)
こんな気持ちで、抗ってたんだな。
そしてついに決心したのだろうか、アクセルは現実を受け止めるように、目を再び開ける。
だが、この時の彼の目は……光という物は皆無と言っていいほど、黒く澄んでいた。
「……ごめんな」
そう呟いて、彼は自身の力である虚無力を操る。ただしそれは、虚無力本来の力である「あらゆるものを無にする力」ではなく、「あらゆるものを創造する力」。
かつて、ゴブリンやペレク家の暗殺部隊の一人に使ったであろうその力が今、彼の……アクセルの怒りと言わんばかりに、地上にいる貴族に襲いかかった。
「創造の力」
その力が彼らの体内へと襲いかかった。
なんの罪もない人達や子供、赤ん坊は、まるで眠るかのように静かに息を引き取り、この件に少しでも関与していた者は長い苦しみを味わい、そのまま絶命していく。
「……どうやら、セミカ・イベルアートも終わったみたいだな」
そう言いながら、彼女の方を見てみると……彼女の親である二人の手を握りながら、命を絶っていた。
「……あいつは確かにやってはいけないことをした……でも、同情はできる」
もし、彼女の心の中を少しでも変えさせることが出来ていれば、きっとこのような結果にはならなかったはずだ。
……それを……彼女の心を利用した……奴らだけは……。
「……相応の苦しみを味わってもらうぞ、ペレクども」
そう言って、俺は地上へと降りて行った。
◇
「がぁ…はぁ…はぁ、あがぁ…がぁああ…!」
アクセルの力により、今も周りの貴族が絶命していく中、ペレク家であるレドとゼノロアは未だに悶え、苦しんでいた。
(…な、なにが、あった……?い、息が…でき、ない……く、くるしい……)
「ぱ、ぱ……く、くるしい…よぉ…」
彼らの象徴であった大きな腹もこの旅の中で、随分と痩せ細り、無様に地面に転がり喚き散らかす。
「……随分と、堕ちたものだな」
「「ッ!」」
上空から自分達の計画を台無ししたであろう、プライドを傷つけたであろう張本人の声が聞こえる。
「…き、きさま……!!」
腹から滲み出るその声は、まさに憎悪の塊であった。レドも涙や涎を垂らしながらも、上にいるであろう人物のことを睨んでいた。
だが、その男…アクセルは特に動揺せず、淡々と語る。
「お前らには俺の中で知っている一番苦しい毒を付与させてもらった。せいぜいその苦しみを噛み締めろ」
「き、きさまぁ!よ、よくもあ、のとき…!」
だが、アクセルの声は届かないのか、目の前にいる人物による憎悪によるものなのか、彼らは呪い殺す勢いで彼を睨んでいる。
「……なぁ、お前ら……一体どれだけの人を傷つけた?」
そんな彼らを見て、アクセルは……抑えていた感情を爆発させるように、虚無力を放出する。
それには、先程まで睨んでいた彼らも圧倒されてしまい、顔面が真っ青になる。
「一体、自分たちの娯楽のために何人犠牲にした?自分たちの目的のためにどこまで汚いことをした?自分たちの欲望のために………どれだけの人の人生を……踏み躙った?」
音を立てながら、少しずつ彼らに近付いていくアクセル。彼らの目には一体何が映ったのだろうか、そのような問いをされたら、きっとこう答えるだろう。
……アクセルに似た亡霊のような何か、だと。
「ある奴は、お前らのせいで一度死んで、終わることがない地獄に取り残された」
それは、メインヒロインであり、自身の妹である彼女に対して。
「ある奴は、大切な人たちを守れない後悔、不甲斐なさで自ら命を絶った」
それは、ウィンドブルムの団長であり、生真面目である彼女に対して。
「ある奴は、何度も何度も死を繰り返して……自身の心さえも、殺そうとした」
それは、自身の姉であり、家族を守るために自らの命を、心を犠牲にしようとした彼女に対して。
「……そして、ある奴はそんな悲劇が起こったあの日から……最後まで、一人で死んでいった」
それは、家族を、大切な人たちを全て失い、人類の敵として立ちはだかり、最後まで味方が存在せずに…そのまま死亡していった彼に対して。
「…これは、そんな人達の怒りだ。それを……その身体でじっくりと味わえ…!」
目の前で告げられた彼の言葉がペレク家の耳に、心に響くことはないであろう。
しかし、彼らは伝わった。
目の前にいるアクセルが……自分たちにどれほどまでに憎しみを抱いていたかを。
それを自覚した時……二人の意識は闇に落ち、周りにいた貴族同様に、身体がボロボロに崩壊して……跡形もなく、空に舞って消え去っていった。
ここに、アクセルとペレク家の因縁は、ついに終着へと迎えたのだった。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
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ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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