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勇者と魔王の対面。
これが本の物語なら、ここから戦いに発展する。
だけど、それはない。
ううん、エレイン様は戦えない。
「どうした? 剣を抜かないのか?」
「っ……」
「抜けないだろう? お前は勇者に相応しい男ではなかった。それを、鍛冶師に見抜かれるとは滑稽だな!」
「き、貴様!」
聖剣が抜けないエレイン様は、拳をグレン様に振りかぶる。
もちろん届くはずもなく、簡単に受け止められ往なされた。
「遅くなってすまないな。ソフィア」
「いえ、お待ちしておりました。来てくださり嬉しいです。グレン様」
「まさか……貴様がソフィアに支援を……彼女を誑かしたのか!」
「違います。ここにいるのは私の意志です」
私はハッキリとエレイン様に応える。
グレン様はそんな私を見て微笑み、ゆっくり歩み寄って私の隣に立つ。
「そういうことだ」
「……国を裏切り、魔王と手を組むなんてとんだ悪女だ。見損なったよ、ソフィア」
悪女って……。
捨てたのはそっちでしょう?
私から逃げ出したわけでも、裏切ったわけでもない。
そんな言い方……。
「不快だな」
「――!」
グレン様が怒りをあらわにする。
明らかにビクビクしているエレイン様は滑稽だ。
勇者が魔王に怯えるなんて、国民が知ったらどう思うだろう。
いいや、そもそも彼は……。
「エレイン様、ちょうどいい機会なので、その聖剣を返してもらえますか?」
「――! なんだと……」
「それは私の剣です。他の誰にも手入れはできないし、今のままじゃ誰にも抜けません。エレイン様であっても」
「ふざけるな! この聖剣は勇者の証だ! この僕以外に相応しい相手など!」
「じゃあ、試してみますか?」
「……何?」
グレン様もいてくれる。
だから私は、少し強気な姿勢でエレイン様と相対する。
「その剣、私が抜けたら返してください」
「ふ、ふははははは! 勇者でもない君が抜けるわけがないだろう」
「なら、抜けなければ私は国に戻ります」
「――! 本気かい?」
「はい」
エレイン様は不敵な笑みを浮かべる。
勝利を確信したのかな?
結果は見えているのに……。
「いいのか? ソフィア」
「大丈夫です。すぐに終わります」
「……そうか。なら信じよう」
「ありがとうございます」
グレン様は信じてくれる。
あとは結果を示すだけでいい。
エレイン様から腰の聖剣を預かり、柄に触れる。
「お帰り」
「抜けるわけが――は?」
聖剣はいとも簡単に鞘から引き抜かれた。
エレイン様ではびくともしなかった剣が、なんの抵抗感もなくスルリと。
これにはグレン様も少し驚いている。
ただのズルだ。
抜けるに決まっている。
だって、この剣を作ったのは私なんだから。
勇者の証なんて関係ない。
「じゃあ、返してもらいますね」
「ふ、ふざけるなああああああああああああ!」
エレイン様は激高し、殴り掛かってくる。
その手をグレン様が受け止め、冷たく言い放つ。
「さらばな。聖剣も抜けない勇者」
「――!」
瞬間、エレイン様が消える。
「転移……ですか?」
「ああ。国に帰してやっただけだ。親切だろう?」
「そうですね」
私は聖剣を鞘に戻し、近くの棚に立てかける。
「それを抜いたということは、今日からはソフィアが勇者か?」
「いえ、私は鍛冶師です。私にできることは剣を打つこと……だから、これをどうぞ」
「これは……」
ようやく渡せる。
今までの感謝と、これからの未来を込めた贈り物。
「グレン様の剣です。欲しいとおっしゃっていたので」
「――! 最高のサプライズだな」
そう言って、彼は剣を受け取ってくれた。
直接手渡しされ、私の手から剣の重みが消える。
なんだろう?
こんなにも清々しくて、満たされるのは……。
「大切にさせてもらおう。この国の果報にしたいくらいだ」
「そ、それは大袈裟ですよ」
今日が始まり。
私にとっての、鍛冶師の道は、新しいステージにたどり着いた。
この先何があるか、波乱も、不安もあるだろう。
だけどいつだって、自分の手で斬り開こう。
幸福の切っ先で。
これが本の物語なら、ここから戦いに発展する。
だけど、それはない。
ううん、エレイン様は戦えない。
「どうした? 剣を抜かないのか?」
「っ……」
「抜けないだろう? お前は勇者に相応しい男ではなかった。それを、鍛冶師に見抜かれるとは滑稽だな!」
「き、貴様!」
聖剣が抜けないエレイン様は、拳をグレン様に振りかぶる。
もちろん届くはずもなく、簡単に受け止められ往なされた。
「遅くなってすまないな。ソフィア」
「いえ、お待ちしておりました。来てくださり嬉しいです。グレン様」
「まさか……貴様がソフィアに支援を……彼女を誑かしたのか!」
「違います。ここにいるのは私の意志です」
私はハッキリとエレイン様に応える。
グレン様はそんな私を見て微笑み、ゆっくり歩み寄って私の隣に立つ。
「そういうことだ」
「……国を裏切り、魔王と手を組むなんてとんだ悪女だ。見損なったよ、ソフィア」
悪女って……。
捨てたのはそっちでしょう?
私から逃げ出したわけでも、裏切ったわけでもない。
そんな言い方……。
「不快だな」
「――!」
グレン様が怒りをあらわにする。
明らかにビクビクしているエレイン様は滑稽だ。
勇者が魔王に怯えるなんて、国民が知ったらどう思うだろう。
いいや、そもそも彼は……。
「エレイン様、ちょうどいい機会なので、その聖剣を返してもらえますか?」
「――! なんだと……」
「それは私の剣です。他の誰にも手入れはできないし、今のままじゃ誰にも抜けません。エレイン様であっても」
「ふざけるな! この聖剣は勇者の証だ! この僕以外に相応しい相手など!」
「じゃあ、試してみますか?」
「……何?」
グレン様もいてくれる。
だから私は、少し強気な姿勢でエレイン様と相対する。
「その剣、私が抜けたら返してください」
「ふ、ふははははは! 勇者でもない君が抜けるわけがないだろう」
「なら、抜けなければ私は国に戻ります」
「――! 本気かい?」
「はい」
エレイン様は不敵な笑みを浮かべる。
勝利を確信したのかな?
結果は見えているのに……。
「いいのか? ソフィア」
「大丈夫です。すぐに終わります」
「……そうか。なら信じよう」
「ありがとうございます」
グレン様は信じてくれる。
あとは結果を示すだけでいい。
エレイン様から腰の聖剣を預かり、柄に触れる。
「お帰り」
「抜けるわけが――は?」
聖剣はいとも簡単に鞘から引き抜かれた。
エレイン様ではびくともしなかった剣が、なんの抵抗感もなくスルリと。
これにはグレン様も少し驚いている。
ただのズルだ。
抜けるに決まっている。
だって、この剣を作ったのは私なんだから。
勇者の証なんて関係ない。
「じゃあ、返してもらいますね」
「ふ、ふざけるなああああああああああああ!」
エレイン様は激高し、殴り掛かってくる。
その手をグレン様が受け止め、冷たく言い放つ。
「さらばな。聖剣も抜けない勇者」
「――!」
瞬間、エレイン様が消える。
「転移……ですか?」
「ああ。国に帰してやっただけだ。親切だろう?」
「そうですね」
私は聖剣を鞘に戻し、近くの棚に立てかける。
「それを抜いたということは、今日からはソフィアが勇者か?」
「いえ、私は鍛冶師です。私にできることは剣を打つこと……だから、これをどうぞ」
「これは……」
ようやく渡せる。
今までの感謝と、これからの未来を込めた贈り物。
「グレン様の剣です。欲しいとおっしゃっていたので」
「――! 最高のサプライズだな」
そう言って、彼は剣を受け取ってくれた。
直接手渡しされ、私の手から剣の重みが消える。
なんだろう?
こんなにも清々しくて、満たされるのは……。
「大切にさせてもらおう。この国の果報にしたいくらいだ」
「そ、それは大袈裟ですよ」
今日が始まり。
私にとっての、鍛冶師の道は、新しいステージにたどり着いた。
この先何があるか、波乱も、不安もあるだろう。
だけどいつだって、自分の手で斬り開こう。
幸福の切っ先で。
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