借金まみれの貧乏令嬢、婚約者に捨てられ王子様に拾われる ~家を再興するため街で働いていたら、実は王子様だった常連に宮廷へスカウトされました~

日之影ソラ

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「はぁ……疲れた」

 正午前。
 ピークが過ぎて、ようやく客足が落ち着いた。
 たくさんのお客さんに利用してもらえるのは嬉しいけど、一人で回しているから毎日大変だ。
 特に午前中は冒険前の準備で一気にお客さんが来る。
 日に日にお客さんも増えて、そろそろ一人じゃきつくなってきた。
 
「でも人は増やせないし……」

 これからもっとお金がいる。
 人を雇うことを視野に入れていたけど、昨日の件で考えなくてはならなくなった。
 アイスバーグ家の支援が今度も続くとは限らない。
 もし婚約破棄で関係がなくなれば、私に残るのは多額の借金だ。
 屋敷もアイスバーグ家保有になっているから、私の手元には何も残らない。
 このお店も、アイスバーグ家のお金を借りて経営している。
 毎月利益の一部を返済に当てながら、なんとかギリギリの生活を続けてきた。
 アイスバーグ公爵がどうお考えか……それ次第でいろいろ変わる。

「はぁ……」
「いつになく憂鬱そうだな」
「――あ、レン君」

 カランと音がなり、一人の青年が店にやってきた。
 フードを片目が隠れるほど深くかぶり、どことなく怪しい格好だけど、彼もここの常連さんだ。
 中でも彼は特別……。

「ほい、今日の分だ」
「わぁ、いつもありがとう!」
「いいって、どうせ使わないからな」

 彼は袋から薬草やモンスターの素材をカウンターに広げる。
 このお店では素材の買取もしているけど、彼とは少し変わった契約を結んでいた。
 彼の素材を貰う代わりに、ここに置いてある商品はタダで使ってもいいという。
 一見、お店に都合の悪い契約に見えるけど、実際は逆だ。
 使っていいとは言ってあるのに、彼がお店のものを使ったのは一度か二度くらい。
 ほとんど一方的に素材を納品してくれる。

「毎回聞くけど、本当にいいの?」
「いいよ。その代わり、俺が本当に困った時は助けてくれ」
「もちろんだよ。なんでもお手伝いする」

 彼が素材を納品してくれるお陰で、私も休日に素材を取りに行く手間が省ける。
 始めた頃はほぼ休みなしだったけど、幾分かマシになった。
 それにしても謎が多い人だ。
 彼が何者で、普段はどこで何をしているのかさっぱりわからない。
 知っているのは名前と、年齢が近いことだけだ。
 悪い人ではないことは、二年以上の付き合いでわかっている。
 ……なんて、もう言えないか。
 十年以上一緒にいた男の本性すら、私は見抜けなかったのに……。

「何かあったのか?」
「え?」
「辛そうな顔してるぞ」
「……いろいろあった、かな」

 気を付けていたつもりでも、顔に出てしまっていたらしい。
 レン君はカウンターにもたれ掛かり、私に視線を向けて囁く。

「ちょうど暇だ。話くらいは聞けるぞ?」
「……うん」

 誰かに聞いてほしかった。
 相談したいと思っていたから、私はレン君にいきさつを話す。
 私の家が没落寸前なことも、どうしてここで働いているかも彼は知っている。
 最初は話すつもりなんてなかったのに、不思議と彼と話していると和んで、口が勝手に動いてしまう。
 彼なら聞いてくれる。
 頷いて、理解してくれるような気がして……。
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