偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ

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「ただ、皆様の背中を押すことはできます。背負っているものを、ほんの少し軽くすることくらいはできるのです」
「そんな! ほんの少しだなんて。すごく軽くなりました。身体だけじゃありません。気持ちもずっと軽くなりました。ありがとうございます」
「ならよかったです。あなたの今日が、素晴らしい一日になりますように」

 私は目を瞑って祈る。
 ただ祈るだけで、奇跡が起こるわけじゃない。
 それでも、私にできることは、祈りを捧げることだけだから。
 目を開き、集まってきた人々に向けて言う。

「皆様もどうか、遠慮なされないでください。困っていることがあれば、ぜひ私に相談してください。どうか私に、背中を押すチャンスを頂けませんか?」

 集まった人々は、隣にいる人と視線を合わせて考えている。
 信頼を得るのは本当に難しい。
 無条件に信じてもらえるほど、この世界は優しくない。
 アクト陛下がどれほど凄いのか、どれだけ国民に愛されているのか。
 その差がよくわかる。

「頼っていいのか?」
「そうだな。あの方は本物の聖女様だと、陛下もおっしゃっていたんだ。私たちのために、この国にやってきてくださったのなら」
「……ああ、あ、あの! 聖女様! 実は数日前から、祖母の体調が悪くなっていて、食事もあまり喉が通らないようなんです」
「それは大変ですね。すぐに診させていただけませんか?」
「は、はい! お願いします」

 勇気を振り絞って声をあげた青年がいた。
 私がこたえると、彼は安堵したような表情を見せる。
 その声をきっかけに、次々に声が上がる。

「わ、私も、その後で構いませんので、相談に乗って頂けないでしょうか?」
「はい、もちろんです」
「個人的な悩みでもいいんでしょうか? くだらないことかもしれませんが、妻と喧嘩してしまって……」
「くだらなくなんてありません。どんな悩みも、真剣に考えていることなら平等に大切です。一緒に、仲直りの方法を考えましょう」

 大切なのはきっかけだ。
 誰かが振り絞った勇気の一歩が、それを見ていた人たちにも勇気を与える。
 私はまだまだ部外者でしかない。
 少しでも彼らに認めてもらえるように、今は頑張り時だ。
 
 その後、街の人たちに話を聞きながら、相談者の家にお邪魔して、困っている人に祈りをささげた。
 一人、また一人と集まってくる。
 気づけば私の周りには、大勢の人々が列を作っていた。

「聖女様、実は普段から寝つきが非常に悪くて、疲れがまったく取れないのです。何かいい方法はありませんか?」
「それは辛いですね。環境を変えてみるのはいかがでしょうか? 枕だったり布団、あとは可能なら寝る向きや部屋を変える。そして大事なのは、無理に寝ようとしないことです」
「無理に……ああ、寝よう寝ようと思うと、逆に眠れなくなるんですね」
「はい。身体の声を聞いてください。眠くなったら布団に入る。最初は時間を気にせず、眠気に任せてみてください」

 相談内容は時折、祈りでは解決できないようなこともある。
 聖女に寄せられる悩みは、病や怪我、人間関係に留まらない。
 なぜなら不安は、人の数だけ存在するから。

「ありがとうございます。試してみます!」
「はい。無理をせず、お身体を労ってあげてくださいね」
「はい。なんだか聖女様に相談すると、できるような気がしてきました!」
「それはよかったです」

 不眠症に悩む相談者は、気持ちが少し晴れた様子で去っていく。
 今夜はよく眠れますように。
 私は彼の背中を見ながら祈りを捧げる。
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