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4.みっともないぜ☆

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 街の建物は白が多い。
 清潔感や明るさを出すためだろう。
 行き交う人々の賑わいをより際立たせることが狙いなら成功している。
 そんな中、真っ黒な建物があれば誰もが注目するだろう。

「真っ黒……センスは悪くない」

 割と格好いいと思う。
 黒は個人的に好きな色だ。
 とある大剣豪の黒髪を羨ましいと思ったことがある程度には。

 入り口までたどり着くと、すでに大勢の若者が波を作っていた。
 中には年配の方の姿も見える。
 試験を受けるための最低条件は、満十五歳以上であること。
 上限は設けられておらず、やる気があれば何度でも受け直すことができる。
 にしても二十年、三十年と経っても試験を受けるのは凄いことだ。
 それだけ魅力的な場所なのだろう。

「やはり俺の考えに間違いはなかったな、うん」

 出会いを求めるならここっきゃない。
 そう確信して門を潜る。
 人の波に従って歩いていくと、制服を着た女性が声を張っている。

「受付はこちらになります! 順番に列へ並んでください!」
「あれか。えっと……」

 どこが列の最後尾だ?
 人が多すぎて酔ってしまいそうだ。
 ここまで大勢の人の波を見たのは初めて……でもないか。
 一度だけ、もっと大きな波を見た。
 魔神に恐怖し逃げ惑う人々の後ろ姿……。
 今は誰も慌てていない。
 穏やかで、賑やかに過ごしている。

「平和になったんだな……」

 って、干渉に浸ってどうするんだ。
 お爺ちゃんみたいな感想は忘れて、さっさと列に並ばないと――

 駆け出そうとした時、誰かとすれ違う。
 印象的だった。
 綺麗な金色の髪をなびかせて、透き通る空のような青い瞳が、一瞬だけ俺と目を合わせた気がする。
 すぐに人の影で見えなくなってしまったけど、とても綺麗な人だった。

「……はっ!」

 何をしてるんだ俺は!
 こういう時こそ声をかけるべきだっただろうがっ!

「はぁ……」

 可愛い子だったな。
 あの子もこの試験を受けるなら、一緒に学園に通う……ってことになるのかな?
 だったら嬉しい。
 まだチャンスは残っているということだから。

 よし。
 次に見かけたら声をかけよう。

「……いや待てよ? なんて声をかければいいんだ……?」

 一、二、三……十秒くらいだろうか。
 俺は考え込んで静止していた。

「よく考えたら俺、自分から誰かに話しかけるってあんまり得意じゃない」

 というかしてきてない。
 あいつらとは自然と……一緒に戦っていたら仲良くなっただけだし。
 初対面の人と話すってどうすればいいんだ?
 わからん。
 天気の話とかでいいのか?
 今日の天気って晴れだよな?
 そこからどうやって話題って広がるんだ?

「あのぉ……貴方の番ですよ?」
「え……?」

 いつの間にか俺は受付の女性の前に立っていた。
 キョロキョロと左右を、最後に後ろを見る。
 俺の後ろには列ができていた。

「早くしてもらえませんか? まだ後ろが詰まっているので」
「あ、はい。すみません」

 知らないうちに列に並んで、無意識に動いていたのか?
 感覚的にはずっと止まっていたはずなのに。
 あれか。
 いつ襲われてもいいように反射で動けるように訓練したせいか?
 今さらだけど、無意識に自分の身体が動くって物凄く怖いな。

「こちらの記入をお願いします」
「はい」

 名前、年齢、性別。
 個人の情報を記入していく。

「ん? あの、この専攻っていうのは?」
「それは入学後にどの分野を中心に学びたいかで選んでください」

 専攻は三つ。
 剣術、魔術、異能。
 俺は別に、どれを学びたいとかはないんだよな。
 全部身に着けたし、極めたし。
 今さら学ぶとかないし。
 とりあえず適当に選んで……いや、待てよ。

「すみません、もう一つ質問してもいいですか?」
「はい。なんでしょう?」
「この専攻の中で、一番女の子が多いのってどれですか?」
「……え?」

 受付のお姉さんはポカーンとした表情を見せる。
 俺の声が聞こえていた後ろの列の人たちも、えぇ……みたいな声を漏らしていた。

「そ、それにどのような関係が」
「重要なことです! 極めて!」

 俺は身を乗り出す勢いで強調する。
 受付の女性がドン引きしている気がしないでもないが、大切なことなので気にしない。
 なぜなら俺の目的は、モテることだからだ。

「そ、そうですね。女性に限ったことでありませんが、もっとも多いのは魔術でしょうか」
「なるほど」

 じゃあ魔術にしておくか。
 人気なら決まりだな。
 イクサも魔術師だったしピッタリだろ。
 もしかして魔術師がモテる要素だったのか?
 
 記入が終わった容姿を受付に提出し、受験番号が書かれたカードを渡される。
 試験開始は午後かららしい。
 それまでは自由時間。

「どうするかなぁ」

 友人と他愛のない話で盛り上がるとか。
 そんな高等技術ができたらよかったなとつくづく思う。
 残念ながら友人は一人もいない。
 もとより王都の出身じゃないし、いるわけがない。
 まぁ、村でもいなかったけどさ。

「そうだ! 下見をしよう下見!」

 もちろん建物の、ではなくて。
 可愛い女の子がいないか探すんだ。
 かつての俺は積極性に欠けていた。
 イクサのように積極的に他人とも関わるべきだったんだ。
 どうやって話しかけるかは……その時に考えよう。
 ついでにさっきすれ違った女の子はいないかと探す。
 特徴的な明るい髪色だったし、視界の隅にでも入れば一瞬で――

「あっ!」

 さっそく見つけたぞ。
 さーてどうやって声をかけるか考えて……ん?

「様子がおかしいな」

 明らかに困った顔をしている。
 彼女の前には男性が三人。
 見た感じ服装も綺麗だし、どこかの貴族か。
 
「あの、私は人を探していて」
「いいだろ。どうせ試験まで暇なんだし。ちょっと俺たちと遊ぼうぜ」
「で、でも」
「おいおい俺の誘いを断る気か? 弱小貴族の分際で、立場がわかってないみたいだな」
 
 穏やかな雰囲気じゃないな。
 嫌がる女の子に無理やり詰め寄る三人の男たち。
 特に真ん中の男はしつこそうだ。
 女の子はじりじりと後ずさる。
 それより速く男は詰めって腕を掴む。

「っ……」
「逃げるななよ」
「は、放してください!」
「放せだぁ? おい、誰に向って行ってやがる」

 男は掴んだ腕をより強い力で握りしめる。
 女の子の顔が痛みで歪む。

「いいか? お前らみたいな弱っちい貴族はな、俺に命令されたら従うのが当たり前なんだよ? むしろ感謝してもらいたいなぁ。俺が声をかけてやってるんだ。試験なんか受けずに俺の女にな――は?」
「え……?」

 俺の身体は無意識に動く。
 必要な行動を的確に、迷いなく実行する。
 気づけば俺の手は、彼女を掴んでいる男の腕を握っていた。

「お前……なんの真似だ」

 男がギロっと俺を睨む。
 
 しまった……いつもの癖でつい身体が動いたみたいだ。
 困っている人を放っておけない。
 この性分のせいでどれだけ面倒ごとに巻き込まれたか……。
 でも、これはチャンスだ。
 彼女に格好いいところを見せられる絶好の機会!

 ここはビシっと決めよう。

「おい。いつまで黙っているつもりだ! 何の真似かって聞いてんだよ!!」
「ぅ……」
「――ふっ」

 最高に格好いいセリフを言おう。
 決め顔も忘れずに。

「女の子に手を上げるなんて、みっともにゃいぜ」
「……」
「……」

 噛んだ。
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