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12.襲撃者
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決着がつき二人の下へと戻る。
加減して戦うのは意外と疲れる。
大きく背伸びをして一呼吸置き、ぼーっと俺を見つめる二人に言う。
「さて、終わったし帰ろうか」
「えっ、ちょ……いいのあれ? 倒れてるけど」
リールが指さす先には気絶したラルドスがいた。
取り巻き三人が駆け寄り声をかけているが一向に起きないみたいだ。
「大丈夫。気絶してるだけだから、そのうち目を覚ます」
「い、いやそうじゃなくて、何か言わなくても」
「それも必要ない。勝負は俺の勝ちだ。これであいつはラナに近寄らなくなる」
「ほ、本当に? また付き纏ってくるんじゃ……」
「その時は――もう一度殴るだけだ」
あいつが諦めるまで何度でも。
心を折るまで。
二度と力を振りかざしてデカい顔ができないように。
「そうなったら俺に言え。それで安心できるか?」
俺はラナに問いかける。
彼女は両手を胸の前でぎゅっと握り、溢れ出る思いを集めたような温かな涙を流す。
「はい。ありがとうございます! 格好よかったです」
「それはよかった」
俺にとっても。
この戦いには意味があったみたいだ。
◇◇◇
俺たちは帰り道を行く。
学園の敷地を出てから王都の街中を歩いていく。
夕暮れ時で仕事終わりの人たちで溢れる街は、何度見ても活気に満ちている。
「さっきの動きって『縮地』だよな?」
「なんだ? わかったのか、リール」
「あたしは剣術専攻だから」
そう言いながら彼女は腰に携えた剣に触れる。
『縮地』とは特殊な歩法のことで、地面に接地した足の裏に魔力を走らせ、瞬間的に移動速度を高める。
術式ではなく一つの技術だ。
「あたしも練習してるけど、あんなに速いのは初めてみた」
「コツがあるんだよ。魔力と身体の使い方に。それさえ掴めば誰でもできる技術だ。必要なら教えてやろうか?」
「ほ、ホントか?」
気まぐれに言ったセリフにリールが勢いよく反応した。
目を輝かせて俺を見つめる。
いつも目の敵にしていた彼女はお休みして、純粋な彼女が顔を出したらしい。
「時間がある時にな。っと、その代わり一つお願いしてもいいか?」
「え、なんだよ」
俺は彼女を指さす。
正確には彼女がもっている剣に。
「それ、一晩貸してもらえないか?」
「あたしの剣を? 別にいいけど何に使うんだよ」
「ちょっと必要になりそうなんだ。明日には返す」
彼女は首を傾げながらも腰の剣を外し、俺に差し出す。
「まぁいいや。ちゃんと返してよ」
「ああ、ありがとう」
これで武器は手に入ったな。
心の中で呟き、俺はその場で立ち止まる。
「じゃあ俺はここで」
「え?」
「レインさんの宿はもっと先ですよね?」
「ああ。少し用事があるんだ。遅くなるから二人は帰っていてくれ」
聊か不自然ではあるが、これ以上一緒にいるのは危険だと判断した。
二人は俺の顔を見てから、互いに顔を見合う。
「わかりました」
「また明日な」
「ああ。寄り道せず、気を付けて帰るんだぞ」
去っていく二人に手を振りながらしばらく待つ。
「……ふぅ、やっぱり俺か」
と一言呟き、宿とは真逆の方向へと歩き出す。
できるだけ人が少ない場所を探し、路地を見つけて入る。
周りに人の気配はない。
建物も古く、誰にも使われないまま放置されているのだろう。
多少壊れても文句は言われないか。
「馬鹿だな。そんな雑な気配に、俺が気付かないわけないだろう」
頭上に何者かが舞う。
攻撃の気配を察知した俺は瞬時に跳び避ける。
何者かが落下する。
着地と同時に地面が抉れ、土煙が舞う。
俺はリールから借りた剣を抜き、刃を晴れていく土煙に向けた。
「誰だ? お前は」
煙が晴れて見えたのは、全身を煤まみれローブで隠した人物だった。
体格は平均的で、見た目だけでは男女の区別はつかない。
「返事は……ないか」
じっとこちらを見つめている。
わかるのは明らかな敵意を向けられているということ。
そして――
肉体からあふれ出る魔力。
その総量、質は中々……。
「悪くないな」
ローブの人物は服の裾からジャラジャラと鎖を垂らす。
「それが武器か? 戦う気満々じゃないか、まったく……応える気がないなら、力づくで応させるしかないか」
元よりそのつもりでリールから剣を借りた。
正直さっきの決闘は不完全燃焼だったからちょうどいい。
こいつで発散させたもらうとしよう。
「――来い」
じゃらんと鎖を鞭のようにしならせる。
大きく腕をふり、袖から鎖が伸びて振り回す。
鎖は横の建物の壁を砕きながら俺の側頭部へ届きかける。
俺は瞬時に身を屈め回避した。
「魔力で鎖を強化しているのか。悪くない威力だが、速度はイマイチだな」
加えて攻撃後の隙が大きい。
回避してすぐに俺は立ち直り、敵目掛けて走る。
眼前に鎖が迫ったことで右へ跳び避ける。
「もう一本、いや……」
裾から出ている鎖は十本。
同時に十本の鎖を扱えるようだ。
鎖が一斉に迫る。
驚くべきは十本の鎖全てがバラバラの動きをしていること。
まるで魔物の触手のように。
回避していた俺だったがさすがによけ続けるは難しく、初めて剣で受けた。
「――!?」
瞬間、身体に重みを感じる。
危険を察知した俺は瞬時に後方へ大きく飛び避け、鎖が届かない距離まで下がる。
「なるほど……やはり魔術、重力を操る術式か」
うねるように蠢く十本の鎖。
それを操っているのは奴の術式で間違いない。
先ほどの倍は重くなった剣を握りしめ、眼前の敵に切っ先を向ける。
加減して戦うのは意外と疲れる。
大きく背伸びをして一呼吸置き、ぼーっと俺を見つめる二人に言う。
「さて、終わったし帰ろうか」
「えっ、ちょ……いいのあれ? 倒れてるけど」
リールが指さす先には気絶したラルドスがいた。
取り巻き三人が駆け寄り声をかけているが一向に起きないみたいだ。
「大丈夫。気絶してるだけだから、そのうち目を覚ます」
「い、いやそうじゃなくて、何か言わなくても」
「それも必要ない。勝負は俺の勝ちだ。これであいつはラナに近寄らなくなる」
「ほ、本当に? また付き纏ってくるんじゃ……」
「その時は――もう一度殴るだけだ」
あいつが諦めるまで何度でも。
心を折るまで。
二度と力を振りかざしてデカい顔ができないように。
「そうなったら俺に言え。それで安心できるか?」
俺はラナに問いかける。
彼女は両手を胸の前でぎゅっと握り、溢れ出る思いを集めたような温かな涙を流す。
「はい。ありがとうございます! 格好よかったです」
「それはよかった」
俺にとっても。
この戦いには意味があったみたいだ。
◇◇◇
俺たちは帰り道を行く。
学園の敷地を出てから王都の街中を歩いていく。
夕暮れ時で仕事終わりの人たちで溢れる街は、何度見ても活気に満ちている。
「さっきの動きって『縮地』だよな?」
「なんだ? わかったのか、リール」
「あたしは剣術専攻だから」
そう言いながら彼女は腰に携えた剣に触れる。
『縮地』とは特殊な歩法のことで、地面に接地した足の裏に魔力を走らせ、瞬間的に移動速度を高める。
術式ではなく一つの技術だ。
「あたしも練習してるけど、あんなに速いのは初めてみた」
「コツがあるんだよ。魔力と身体の使い方に。それさえ掴めば誰でもできる技術だ。必要なら教えてやろうか?」
「ほ、ホントか?」
気まぐれに言ったセリフにリールが勢いよく反応した。
目を輝かせて俺を見つめる。
いつも目の敵にしていた彼女はお休みして、純粋な彼女が顔を出したらしい。
「時間がある時にな。っと、その代わり一つお願いしてもいいか?」
「え、なんだよ」
俺は彼女を指さす。
正確には彼女がもっている剣に。
「それ、一晩貸してもらえないか?」
「あたしの剣を? 別にいいけど何に使うんだよ」
「ちょっと必要になりそうなんだ。明日には返す」
彼女は首を傾げながらも腰の剣を外し、俺に差し出す。
「まぁいいや。ちゃんと返してよ」
「ああ、ありがとう」
これで武器は手に入ったな。
心の中で呟き、俺はその場で立ち止まる。
「じゃあ俺はここで」
「え?」
「レインさんの宿はもっと先ですよね?」
「ああ。少し用事があるんだ。遅くなるから二人は帰っていてくれ」
聊か不自然ではあるが、これ以上一緒にいるのは危険だと判断した。
二人は俺の顔を見てから、互いに顔を見合う。
「わかりました」
「また明日な」
「ああ。寄り道せず、気を付けて帰るんだぞ」
去っていく二人に手を振りながらしばらく待つ。
「……ふぅ、やっぱり俺か」
と一言呟き、宿とは真逆の方向へと歩き出す。
できるだけ人が少ない場所を探し、路地を見つけて入る。
周りに人の気配はない。
建物も古く、誰にも使われないまま放置されているのだろう。
多少壊れても文句は言われないか。
「馬鹿だな。そんな雑な気配に、俺が気付かないわけないだろう」
頭上に何者かが舞う。
攻撃の気配を察知した俺は瞬時に跳び避ける。
何者かが落下する。
着地と同時に地面が抉れ、土煙が舞う。
俺はリールから借りた剣を抜き、刃を晴れていく土煙に向けた。
「誰だ? お前は」
煙が晴れて見えたのは、全身を煤まみれローブで隠した人物だった。
体格は平均的で、見た目だけでは男女の区別はつかない。
「返事は……ないか」
じっとこちらを見つめている。
わかるのは明らかな敵意を向けられているということ。
そして――
肉体からあふれ出る魔力。
その総量、質は中々……。
「悪くないな」
ローブの人物は服の裾からジャラジャラと鎖を垂らす。
「それが武器か? 戦う気満々じゃないか、まったく……応える気がないなら、力づくで応させるしかないか」
元よりそのつもりでリールから剣を借りた。
正直さっきの決闘は不完全燃焼だったからちょうどいい。
こいつで発散させたもらうとしよう。
「――来い」
じゃらんと鎖を鞭のようにしならせる。
大きく腕をふり、袖から鎖が伸びて振り回す。
鎖は横の建物の壁を砕きながら俺の側頭部へ届きかける。
俺は瞬時に身を屈め回避した。
「魔力で鎖を強化しているのか。悪くない威力だが、速度はイマイチだな」
加えて攻撃後の隙が大きい。
回避してすぐに俺は立ち直り、敵目掛けて走る。
眼前に鎖が迫ったことで右へ跳び避ける。
「もう一本、いや……」
裾から出ている鎖は十本。
同時に十本の鎖を扱えるようだ。
鎖が一斉に迫る。
驚くべきは十本の鎖全てがバラバラの動きをしていること。
まるで魔物の触手のように。
回避していた俺だったがさすがによけ続けるは難しく、初めて剣で受けた。
「――!?」
瞬間、身体に重みを感じる。
危険を察知した俺は瞬時に後方へ大きく飛び避け、鎖が届かない距離まで下がる。
「なるほど……やはり魔術、重力を操る術式か」
うねるように蠢く十本の鎖。
それを操っているのは奴の術式で間違いない。
先ほどの倍は重くなった剣を握りしめ、眼前の敵に切っ先を向ける。
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