転生した大英雄は今世でモテたいと叫ぶ(切実) -童貞のまま人生を終えてたまるかよぉ!-

日之影ソラ

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19.久しぶり

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 王都には外敵から街を守る結界が展開されている。
 大結界の対象は魔物や猛獣など、人間に害をなすものに限る。
 故に、人間であれば誰でも出入りは可能となっている。

 ただし、王城を守る結界はその限りではない。
 王城は国の象徴であり、その名の通り王が住まう場所。
 何人にも害されることは許されない。
 王城を守る結界の出入りは、特殊な魔具を所持している必要がある。
 建国から数百年、この結界が破られたことは一度もなかった。

 今、この瞬間までは――

「ば、馬鹿な……結界が破られた!?」

 ガラスが割れた時と同じ音が王城の空に響く。
 透明な結界は砕け散り、無防備な王城が露にされる。
 いきなりのことで動揺する騎士たちを、仮面をつけた男が見下ろす。

 彼は右手をかざす。
 その手に黒い穴が生成され、巨大化する。
 穴から漏れ出す異質な魔力に、騎士たちが震える。

「な、なんだ……何がいる?」
「あの穴には何が――!」

 怪物が顔を出す。
 ドロドロに溶け腐ったドラゴンの頭が。
 
「ま、まさかデッドリードラゴン!?」
「そ、そんな! 死したドラゴンなんてオレたちだけじゃどうしようも……」
「くそっ、よりによって団長たちがいないときに!」

 デッドリードラゴン。
 死したドラゴンが屍となり果て、それでも生にしがみついた慣れの果て。
 肉体は死んでも魂だけが残っている。
 その身体は死んでいるがゆえに無敵であり、物理的な手段での討伐は難しい。

 もっとも、普通ならば――

「――やめておけ」
「!?」

 仮面の男の右手ごと、黒い穴を弾き飛ばす。
 黒い穴は空間を繋げる出入り口。
 ならば先に閉じてしまえばドラゴンを呼び出すことはできない。
 単純な道理だ。

「まったく、呆けている暇があるなら行動しろ。それでも騎士か」
「だ、誰だ……あれは?」
「子供?」
「さて……お前が黒幕か?」

 俺は仮面の男と相対する。
 空中で見合う。

「どうしてここにいる……って顔ーは見えないけど、そう思っているんだ?」
「……」
「これだけ大きな魔力の揺らぎを、俺が見つけられないわけないだろ? それとも、あんな雑兵で俺を止められると思っていたか? だとしたら、見込みが甘すぎる」
「……」

 仮面の男は答えない。
 ネアといい、だんまりが好きな連中だ。
 さっきの空間を操る術式は、彼女がはめていた指輪の効果と同じだった。
 おそらく彼女の主人はこいつなのだろう。

「結界を破ってくれて助かったよ。あれを壊す時間が惜しかったからな。まぁでも、お前の術式なら壊さずに侵入できただろうに。目的は王城を潰すことだったのか?」
「……」
「目立ちたがりか? 手段を間違えたな」

 男は無言のまま黒い穴を足元に展開する。
 穴に入り込む男、しかし逃げたわけではない。

「あのな」

 男は俺の背後に移動していた。
 
「甘く見過ぎだ」
「っ――!」

 気づいていた俺は背面を後ろ向きのまま蹴り込み、移動してきた男を吹き飛ばす。

「その術式はもう二度見ている。警戒しないわけないだろ?」
「……」
「他にも術式があるなら見せてみろ。ないならお前は……つみだ」
「――一つ、貴様は勘違いをしている」
 
 男は初めて口を開く。
 少し高めの若い男の声。
 と同時に、魔力の急激な高ぶりを感じる。

「結界を破壊したのは侵入のためではない」
「まさか――」

 やつとは別の魔力を感じる。
 頭上。
 見上げた先に開く漆黒の大穴。
 そこから落下するのは超巨大な岩石だった。

「もろとも潰れるがいい」
「こっちが本名か!」

 手が早い。
 今の一瞬で自分は術式を使って退避したらしい。
 最初から狙いはこの大岩を王都へ落とすこと。
 陽動もここへ来たのも、俺の意識を迎撃から遠ざけるためだったか。

「くそっ」

 悠長に準備している時間はない。
 砕くだけなら容易だが、それだと街へ被害が出る。
 最善は岩を完全に消滅させること。

「こうなったら龍を――」
「アンザス」

 その時、懐かしき声を聞く。
 声の直後に岩石は爆ぜる。
 まばゆい光に包まれて、ひとかけらも残さず消滅する。

「今の術式は……」
「――余計なお世話だったかな?」

 二度目の声を聞く。
 遠い過去の思い出。
 忘れるはずがない大切な時間。
 共に過ごした仲間の顔を、声を、魔力を俺は片時も忘れていない。
 だから間違うはずがない。

 共に戦った友を。

「イクサ? イクサシス・セイレイン?」
「ああ、久しぶりだね。レオン」

  ◇◇◇

 襲撃による混乱は一時的なもので、すぐに治まった。
 実質的な被害はゼロ。
 その後の追撃もなく、現在も厳しく警戒しているが穏やかだった。

「まかさお前も転生していたとはな」
「僕自身が一番驚いているよ。偶然だったからね」
「偶然? 自分で転生の術式を発動させたわけじゃないのか?」
「はははっ、そんなことができるのは君だけだよ。レオン」

 旧友との再会にテンションがあがる。
 僅かな希望だけがあって、それが現実に起こったことへの高揚を隠せない。
 
「やっぱり君は意図的だったんだね。彼女の言っていた通りだよ」
「彼女? お、お前……もう女がいるのか」
「そういう意味じゃないよ。ルイーナだよ」
「ルイもいるのか?」
「当然じゃないか。忘れたのかい? 彼女は不老の吸血鬼、僕たちと違って寿命で死ぬことはないんだ」
 
 そういえばそうだった、と納得する。
 不老の肉体をもつ彼女は、殺されない限り死なない。
 魔人相手ならともかく、人間相手に今さら遅れをとるような彼女じゃないから、殺されることも考えにくい。

「あいつは今どこにいるんだ?」
「すぐ近くだよ。君が通っている学園のトップが彼女だ」
「そういうことか。通りで……」

 建物のセンスもいいし、懐かしさを感じるわけだ。
 あの学園は彼女が作ったのか。

「さてと、そろそろ本題に入ろうか」
「本題?」
「何を驚いているんだい? さっき王都を襲った仮面の男の話さ。君は何か知っている……いいや、何かが起こると知っていたから、この時代に転生したんだろう?」
「……は?」

 俺は意表をつかれた一言にポカーンとした顔になる。
 数秒の静寂が部屋を包む。

「外れかい? 君ほどの男が転生までしたんだ。何か大きな理由があると思っていたんだが」
「理由はある。だけどあいつらとは無関係だ」
「そうだったのか。じゃあ教えてもらえないかな? 君が転生した理由を」
「そんなの決まっているだろ? モテるためだ」

 堂々と宣言した直後、またしても静寂が包む。
 今度はイクサが目を丸くして言う。

「き、聞き間違いかな? モテるためと聞こえたんだけど」
「間違っていないぞ。その通りだ」
「……本気かい?」
「もちろん」

 本気なので、真剣な顔で答えてみた。
 そんな俺を見てイクサは、過去でも見たことのないほど大きなため息をこぼした。
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