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13.ドラゴンダンジョン
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ドラゴンが眠る地下大迷宮。
その入り口は、意外な場所に隠されていたという。
私たちは姫様に案内され、入り口を見つけた場所にやってきた。
「教会ですか?」
「ええ」
「立派な教会ですね」
「ありがとうアレクシス。でも形だけよ。聖職者もいないし、完全に持て余してるわ」
語りながら姫様は扉を開ける。
私たちは彼女の話を聞きながら、その後に続いた。
「王城の敷地内にある建物のほとんどは、建国と同時に造られたそうよ。以降修繕は何度かされているけど、元は変わっていない。ただし、この教会だけは別で、建国から千年後くらいに建造されている」
「千年……」
世界からドラゴンが忽然と姿を消したのも、ちょうど千年前。
それは偶然の一致ではなく、繋がっている。
そもそも教会を王城の敷地内に造る意味は?
国民が自由に出入りできる場所でもないのに、使いもしない建造物を造った理由は……
「入り口を隠すため、ですね」
「そうだと思うわ。教会を使うのは王族の結婚式くらいで、あとは掃除で出入りする程度。普段からほとんど人は立ち入らない。だから誰も気づかなかったし、気にも留めなかった」
狙ってなのか、偶然なのか。
入り口を隠すにあたって、絶好の場所が出来上がっていたようだ。
先頭を歩く姫様がピタリと立ち止まる。
そこは祭壇の中央。
不自然な石の台座が設置されている。
「アレクシス、この台座を横に押してもらっていいかしら?」
「わかりました」
姫様の指示通り、アレクが台座を押す。
いかにも重そうな台座を、彼は軽々と押しのけていく。
すると、台座の真下には階段が顔を出す。
途端、異様な魔力の流れを感じて、背筋が凍るような寒気が襲う。
「先生、これは……」
「アレクも感じた?」
「はい。凄まじい冷気……じゃないですね。魔力ですか」
「ええ」
私とアレクの身体は震えていた。
魔法使いとして一定の領域に至った者だけが感じる。
現に姫様は気にせずキョトンとしている。
「二人ともどうしたの? 震えてるわよ?」
「この奥から冷たい魔力を感じるんです」
「魔力?」
「はい。迷宮の話……正直なところ半信半疑でした。でもどうやら本当みたいですね」
魔女の私ですら震える程の魔力。
この世でそんな魔力を放てるのは、ドラゴンくらいしか考えられない。
間違いなくこの階段の奥に眠っている。
正確には迷宮の奥深くに。
始まる前から危険な香りが漂う中、私は姫様に改めて確認する。
「フレンダ姫、迷宮の探索はまったく進んでいないんですよね?」
「え、ええ。入り口にある扉がどうしても開けられなかったの。外部の協力も得られない状況だからそれっきりよ」
「なるほど、じゃあ完全に未知数ってことですね」
危険度から全て、わかっていない。
わかっているのは感覚的に、この先は危険だということ。
そして奥地には必ず、強大な存在が眠っているということくらいか。
階段の前で考え込む私に、アレクが提案する。
「先生、ここは一度準備をしてから望むべきじゃないですか? 明日にでも――」
「それは駄目!」
咄嗟の返答に、アレクは面食らう。
その後すぐに呆れた表情を見せる。
「一応聞きますが、理由は?」
「目の前に魔法の知識が眠ってるかもって思ったら我慢できないでしょ? 明日になんてしたらソワソワして絶対眠れない!」
「……そういうと思いましたよ。先生は魔法のことになると僕より子供っぽくなりますね」
「そこは素直に認めるよ」
魔法への興味関心は何年経っても色あせない。
これはたぶん魔女だからじゃなくて、単に私の好みの問題だろう。
私は自分でもどうしようもないくらい、魔法が好きなんだ。
「大丈夫よアレク。私と君ならドラゴンとだって戦えるわ。きっとね」
「先生……それはさすがに言い過ぎじゃないですか?」
「そのくらいの意気込みで行きましょうってことよ。冷たい魔力にも慣れてきたしね」
いつの間にか震えは止まっていた。
私だけじゃなくアレクも。
恐怖を感じた魔力も、次第に慣れればどうってことはない。
ついでに魔法に対する好奇心が上乗せして、ワクワクが勝る。
「はぁ……わかりました。じゃあ行きましょう」
「ええ。姫様」
私とアレクは階段を背に、姫様に出発を告げる。
「今から探索してきます。たぶん半日くらいで戻って来れる? と思いますので」
「え、ええ、任せるわ……なんか軽いけど大丈夫なの?」
「心配いりませんよ。先生のことは僕が守ります」
「その代わりアレクのことは私が守るわ。お互いに守り合えば完璧ね」
そう言って私が笑うと、アレクも微笑み返す。
姫様だけはそんな私たちを見て呆気にとられていた。
「まぁいいわ。とにかく気を付けて」
「はい」
「行ってきます」
「いってらっしゃい。二人とも」
姫様に見送られ、私たちは地下への階段を下る。
階段は暗く、肉眼では先を捉えられない。
私は魔法で光球を生成して足元を照らし、先へと進んだ。
一段一段下る度、感じる魔力の流れは激しくなる。
「凄まじいですね」
「ええ。もう慣れたけどね」
「さすが先生……っと、どうやらここが入り口みたいですね」
正面にそびえる巨大な扉。
金属で出来ているのか、重量感が異常だ。
もっと驚きなのは、扉の隙間から魔力が漏れ出ているということ。
つまり、私たちが感じている魔力の流れは、扉から漏れ出た一部でしかないんだ。
ごくり、と息を飲む。
「覚悟はいいかい?」
「当然です。先生が行くところなら、僕は必ずついていきます」
そう言って彼は拳を握る。
覚悟を決め、ついに私たちの迷宮攻略が始まる。
その入り口は、意外な場所に隠されていたという。
私たちは姫様に案内され、入り口を見つけた場所にやってきた。
「教会ですか?」
「ええ」
「立派な教会ですね」
「ありがとうアレクシス。でも形だけよ。聖職者もいないし、完全に持て余してるわ」
語りながら姫様は扉を開ける。
私たちは彼女の話を聞きながら、その後に続いた。
「王城の敷地内にある建物のほとんどは、建国と同時に造られたそうよ。以降修繕は何度かされているけど、元は変わっていない。ただし、この教会だけは別で、建国から千年後くらいに建造されている」
「千年……」
世界からドラゴンが忽然と姿を消したのも、ちょうど千年前。
それは偶然の一致ではなく、繋がっている。
そもそも教会を王城の敷地内に造る意味は?
国民が自由に出入りできる場所でもないのに、使いもしない建造物を造った理由は……
「入り口を隠すため、ですね」
「そうだと思うわ。教会を使うのは王族の結婚式くらいで、あとは掃除で出入りする程度。普段からほとんど人は立ち入らない。だから誰も気づかなかったし、気にも留めなかった」
狙ってなのか、偶然なのか。
入り口を隠すにあたって、絶好の場所が出来上がっていたようだ。
先頭を歩く姫様がピタリと立ち止まる。
そこは祭壇の中央。
不自然な石の台座が設置されている。
「アレクシス、この台座を横に押してもらっていいかしら?」
「わかりました」
姫様の指示通り、アレクが台座を押す。
いかにも重そうな台座を、彼は軽々と押しのけていく。
すると、台座の真下には階段が顔を出す。
途端、異様な魔力の流れを感じて、背筋が凍るような寒気が襲う。
「先生、これは……」
「アレクも感じた?」
「はい。凄まじい冷気……じゃないですね。魔力ですか」
「ええ」
私とアレクの身体は震えていた。
魔法使いとして一定の領域に至った者だけが感じる。
現に姫様は気にせずキョトンとしている。
「二人ともどうしたの? 震えてるわよ?」
「この奥から冷たい魔力を感じるんです」
「魔力?」
「はい。迷宮の話……正直なところ半信半疑でした。でもどうやら本当みたいですね」
魔女の私ですら震える程の魔力。
この世でそんな魔力を放てるのは、ドラゴンくらいしか考えられない。
間違いなくこの階段の奥に眠っている。
正確には迷宮の奥深くに。
始まる前から危険な香りが漂う中、私は姫様に改めて確認する。
「フレンダ姫、迷宮の探索はまったく進んでいないんですよね?」
「え、ええ。入り口にある扉がどうしても開けられなかったの。外部の協力も得られない状況だからそれっきりよ」
「なるほど、じゃあ完全に未知数ってことですね」
危険度から全て、わかっていない。
わかっているのは感覚的に、この先は危険だということ。
そして奥地には必ず、強大な存在が眠っているということくらいか。
階段の前で考え込む私に、アレクが提案する。
「先生、ここは一度準備をしてから望むべきじゃないですか? 明日にでも――」
「それは駄目!」
咄嗟の返答に、アレクは面食らう。
その後すぐに呆れた表情を見せる。
「一応聞きますが、理由は?」
「目の前に魔法の知識が眠ってるかもって思ったら我慢できないでしょ? 明日になんてしたらソワソワして絶対眠れない!」
「……そういうと思いましたよ。先生は魔法のことになると僕より子供っぽくなりますね」
「そこは素直に認めるよ」
魔法への興味関心は何年経っても色あせない。
これはたぶん魔女だからじゃなくて、単に私の好みの問題だろう。
私は自分でもどうしようもないくらい、魔法が好きなんだ。
「大丈夫よアレク。私と君ならドラゴンとだって戦えるわ。きっとね」
「先生……それはさすがに言い過ぎじゃないですか?」
「そのくらいの意気込みで行きましょうってことよ。冷たい魔力にも慣れてきたしね」
いつの間にか震えは止まっていた。
私だけじゃなくアレクも。
恐怖を感じた魔力も、次第に慣れればどうってことはない。
ついでに魔法に対する好奇心が上乗せして、ワクワクが勝る。
「はぁ……わかりました。じゃあ行きましょう」
「ええ。姫様」
私とアレクは階段を背に、姫様に出発を告げる。
「今から探索してきます。たぶん半日くらいで戻って来れる? と思いますので」
「え、ええ、任せるわ……なんか軽いけど大丈夫なの?」
「心配いりませんよ。先生のことは僕が守ります」
「その代わりアレクのことは私が守るわ。お互いに守り合えば完璧ね」
そう言って私が笑うと、アレクも微笑み返す。
姫様だけはそんな私たちを見て呆気にとられていた。
「まぁいいわ。とにかく気を付けて」
「はい」
「行ってきます」
「いってらっしゃい。二人とも」
姫様に見送られ、私たちは地下への階段を下る。
階段は暗く、肉眼では先を捉えられない。
私は魔法で光球を生成して足元を照らし、先へと進んだ。
一段一段下る度、感じる魔力の流れは激しくなる。
「凄まじいですね」
「ええ。もう慣れたけどね」
「さすが先生……っと、どうやらここが入り口みたいですね」
正面にそびえる巨大な扉。
金属で出来ているのか、重量感が異常だ。
もっと驚きなのは、扉の隙間から魔力が漏れ出ているということ。
つまり、私たちが感じている魔力の流れは、扉から漏れ出た一部でしかないんだ。
ごくり、と息を飲む。
「覚悟はいいかい?」
「当然です。先生が行くところなら、僕は必ずついていきます」
そう言って彼は拳を握る。
覚悟を決め、ついに私たちの迷宮攻略が始まる。
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