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21.ドラゴンの怒り

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 王城地下に広がる大迷宮。
 その主である建国の立役者、レッドドラゴン。
 少女の姿をした彼女は高らかに宣言した。

「気のせいでしょうか? 今、世界をぶち壊すと聞こえた気が……」
「私も聞こえたわ」

 目覚め直後の大声で発せられた言葉に、私とアレクは驚きを隠せない。
 というか普通に引いていた。
 そもそも途中までドラゴンの姿だった彼女が、光と共に少女の姿になったのはなぜだろう?
 燃えるような赤い髪と瞳に、口元には八重歯が見える。
 年齢は十二歳前後だろうか。
 空中に浮かんでいるから位置的には見下ろされているけど、地に足を付ければ簡単に頭を撫でられそうだ。
 ただ幼い少女の見た目とは裏腹に、全身からあふれ出る魔力は圧倒的で、魔女である私でも叶わないと直感で悟るほど。
 彼女がレッドドラゴンであることは疑う余地もない。
 ないのだが、さっきの発言が気になってしまう。

「あ、あの……」
「む? 主らがワシのダンジョンを攻略した者たちじゃな!」
「あ、はい。私はリザリ―です」
「僕は先生の教え子であり騎士、名はアレクシスと申します」
「うむ! リザリ―にアレクシスじゃな!」

 彼女は元気な笑顔を見せ、ゆっくりと地面に着地する。
 
「ふぁー……よく寝たのじゃ」

 気持ちよさそうな欠伸をしながら、ぐぐぐっと大きく背伸びをしている。
 その様子は寝起きの人間そのものだった。
 姿は愛らしいのに、感じる魔力はけた違いに凶悪。
 だからどう対応して良いのか困る。

「さて、ワシの試練を乗り越えた主らに褒美をやらんとな! 願いを言うが良い」
「え、願いですか?」
「む? そうじゃ。道中にワシの声が言っておらんかったか? 奥で眠るワシの所へたどり着けたら願いを叶えたやると」
「ああ、そういえばそんなこと言っていたような……」
 
 最初の試練を受ける前に言われていたっけ?
 元々お願い以前に彼女を頼ってここまで来たから、あまり意識していなかったな。

「なんじゃ願いはないのか? わざわざワシを目覚めさせたんじゃ。何かワシにしてほしいことがあったのではないか?」
「はい。願いというか、聞きたいことがあったんです」
「ほう質問か。良いぞ聞こう!」

 よし。
 これで概念魔法について知れれば、私たちの目標に大きく前進する。
 期待しながら質問しようと口が動く。

「実は――」
「あ、ちょっと待つのじゃ。その前に、うーん主でいいかの。リザリ―、手を出すのじゃ」
「手ですか? はい」
「うむ。ちと失礼して」

 私が右手を差し出すと、彼女は差し出した手に触れる。
 触れ合った手の間で微弱ながら魔力が吸われていく。

「ほう、ふむふむ。主は五百年前に生まれた魔女か。ワシが眠った後の五百年で随分と変わったのう」
「どうしてそれを?」
「記憶の補完じゃよ。主の魔力をちと貰うことで、そこに含まれる記憶の情報を読み取っておるんじゃ。ワシは随分長い間眠っておったようじゃからな。現代の情報を手っ取り早く知るにはこれが一番楽なんじゃよ」
「そんなことできるんですね」

 魔力から記憶を読み取るなんて初めて聞いた。
 そもそも魔力に記憶が宿っていたのにも驚きだし、魔法も行使せずにあっさりそれを実行する彼女にも驚かされる。
 桁違いなのは魔力だけじゃない。
 私たち魔女より前から世界に存在し、多くを見届け関わってきた英知こそ、ドラゴンが持つ最も大きな力なのかもしれない。

「しかし主が魔女なのには助かったのう。人間の寿命は短すぎて、ここまでの情報は得られんかったはずじゃ。時間に見合うだけの知識も身に着けておるし、感心じゃの」
「ありがとうございます」

 ドラゴンに褒められてしまった。
 見た目が少女の姿だから多少複雑な気持ちだけど。
 私の記憶や知識が彼女の力になっているのは嬉しい。

 ん?
 私の記憶……ってことは待って!
 最後まで見られたら――

「待っ――」
「――なんじゃこの記憶は?」

 穏やかだった彼女の表情が、一瞬にして険しくなる。
 どうやら手遅れだったらしい。
 私の記憶を見たというなら、あの日の出来事から今日までも見てしまったはずだ。
 
「冤罪で国を……しかも魔女狩り令じゃと? 魔女を悪だと断じて処罰しておるのか?」

 表情がどんどん険しさを増していく。
 彼女は二千年前、魔女イザベラと出会い、この国を造り上げた。
 試練の声でもイザベラのことを、唯一の親友だと語っていた。
 そんな彼女が現状を聞けばどう思うだろうか。
 もはや考えるまでもなく、見るに明らかだ。

「ありえん……ありえぬほど大馬鹿じゃな! 人間の王も、それに従う民衆も実に愚かじゃ!」
「落ち着いてください! フィアンマ様!」
「これが落ち着いていられるか! 我が友を侮辱するような奴らがおるなど、このワシが見過ごすなどできん! 主らの願いは聞くまでもない。不届き者どもにはワシ自ら鉄槌を下そうぞ!」
「違います。私たちの願いは――」
「そこで待っておれ!」

 彼女はそのまま忽然と姿を消す。
 目の前から消失した圧倒的な魔力は、遥か遠くから感じ取れる。

「空間転移!? しかもこの方向――アレク!」
「間違いありませんね。彼女が移動した方角は……」

 私とアレクにとって因縁の場所……帝都だ。
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