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第一部
20.ソワソワするなら
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入学試験が終わり、合格発表までの一週間。
一日、二日、三日と過ぎていく。
俺とシトネは師匠に扱かれながら、その期間を過ごしていた。
スパルタな師匠の修行に耐える日々は、俺にとっては日常で、懐かしさと安心感を感じさせる。
対してシトネは、
「つ、ついていくのでやっとだよ!」
と呼吸を乱し、汗を流しながら頑張っていた。
泣き言みたいなセリフを口にしながらも、最後まで食らいつこうとしている姿勢は凄いと思う。
師匠もそんなシトネを気に入ったのか、日に日にスパルタ度は増していった。
五日後。
合格発表まで残すところ二日。
明後日の正午には、クラス分けと共に張り出される。
ある種待ちわびた瞬間が近づき、俺も密かにソワソワしていた。
そしてもう一人。
「はぁ」
落ち着かずソワソワしている彼女が、夜のベランダで一人、星を眺めていた。
「シトネ?」
「あ、リンテンス君」
時計の針は日を跨ぎ、夜空には真ん丸の月が輝いている。
俺はシトネの隣まで歩み寄って、一緒に星を見る。
「眠れないのか?」
「うん」
「合格発表のこと?」
「うん、正解」
「心配しなくても良いって。あの成績で落ちてるわけないから」
「そうだと良いな~」
シトネは星を見つめながら小さく微笑む。
どこか切なげで、表情と言葉が一致していない違和感に気付く。
「そんなに不安か?」
「だってほら、私はこれだから」
シトネは自分の耳に触れる。
彼女は獣人の先祖返りで、たったそれだけのことで周囲からの印象は悪い。
ケモノ臭いとか、劣等種族とか。
あることないこと散々に言われてきたのは、試験の日に伝わった。
「それこそ心配いらないよ。あそこは優秀な魔術師を育てるためだけの学校だ。家柄も、人種も関係ない。注目されるのは才能があるかどうか。シトネは間違いなく、その条件を満たしているよ」
「そう……かな?」
「ああ。師匠も褒めていたしな」
「本当?」
俺は頷いてから補足する。
「独学にしては洗礼されている。磨けばもっと光る石だって。聖域者が言うんだから、もっと自信をもって良いと思うぞ」
「そっか。ありがとう、リンテンス君」
「いや、言ったのは師匠だぞ?」
「うん。でも今、私のことを気にかけてくれるのはリンテンス君ででしょ? だからありがとうって」
シトネはそう言って微笑んだ。
夜空の月明りの所為か。
その笑顔は妖艶で、見惚れてしまいそうだ。
「ど、どうしたしまして。ちょっとは自信もてたか?」
「うん! あーでも、明日になったらまた不安になるかも」
「何だそれ」
「だって気になるんだもん。大丈夫かなーって」
シトネは小さくため息をもらし、ベランダの柵に腕をのせる。
気持ちはわからなくもないけど……
「そんなんじゃ一日もたないぞ」
「う~ん……」
「ならば良い提案があるぞ!」
唐突に後ろ、ではなく頭上から声が聞こえた。
思わず上を振り向くと、プカプカと浮遊して俺たちを見下ろす師匠がいた。
「アルフォース様!?」
「し、師匠!? いつからそこに?」
「ん? 君たちが話し始めてからだよ」
つまりずっといたのか。
まったく気付かなかった。
「よっと! 話は聞かせてもらったよ。こういう時は年長者である僕に任せたまえ」
師匠はベランダに降り立って、わざとらしく大げさに、両手をぶおんと振って語り出す。
活き活きとした表情。
こういう時の師匠は、何か悪いことを考えている場合が多い。
俺は疑り深く師匠をじとーっと見つめる。
「そんな顔をしないでくれ。何、ちょっとした提案だよ」
「……一応聞きましょうか」
「うむ! 明日は君が彼女に王都の街を案内してあげるのはどうかな?」
「えっ、案内ですか?」
思ったより普通の提案で、少し拍子抜けした。
師匠は続けて言う。
「そうだとも! 落ち着かないというのなら、他のことで気を紛らわせればいい。聞けば王都に来たのは初めてだと言うじゃないか。これからのことを考えたら、一度くらいちゃんと案内してげたほうがいいのではないかな?」
「た、確かにそうですね」
おかしい。
師匠にしてはまともな提案すぎる。
いつもならもっとエグイ提案をしてくるのに……何か裏があるんじゃないか?
とか考えつつ、シトネの意見を聞くことに。
「シトネはどう?」
「ぜひ!」
「お、おう……そうか」
こっちは予想より食い気味で、ちょっと引いてしまった。
さっきまで不安だとか言っていた癖に、ワクワク顔で見てくるんだもんなぁ。
「よーし! それじゃ明日はデートで決まりだね!」
「で……」
デート?
え、あ……いや、そうなるのか。
今さら気づいた。
師匠が活き活きしていた理由はこれか。
今はニヤニヤしているし。
「べ、別にデートじゃないでしょ。というか案内なら師匠もくればいいじゃないですか」
「なーにを言っているんだい君は~ まったく鈍感だな。そんなんじゃモテないぞ~ それとも一人で案内する自身もないのかな?」
イラッ!
これが師匠と会ってから、一番イラついた瞬間だった。
表情とか言い方とか、どこにイラついたか考えるともっと腹がたつ。
「わかりましたよ! じゃあ師匠は家から出ないでくださいね!」
「はっはっはっ、仕方ないな~ 明日は二人で楽しんできなさい」
「あと食事も自分で作ってください」
「えっ……そ、それは困るな~」
注意:師匠は料理がドヘタです。
一日、二日、三日と過ぎていく。
俺とシトネは師匠に扱かれながら、その期間を過ごしていた。
スパルタな師匠の修行に耐える日々は、俺にとっては日常で、懐かしさと安心感を感じさせる。
対してシトネは、
「つ、ついていくのでやっとだよ!」
と呼吸を乱し、汗を流しながら頑張っていた。
泣き言みたいなセリフを口にしながらも、最後まで食らいつこうとしている姿勢は凄いと思う。
師匠もそんなシトネを気に入ったのか、日に日にスパルタ度は増していった。
五日後。
合格発表まで残すところ二日。
明後日の正午には、クラス分けと共に張り出される。
ある種待ちわびた瞬間が近づき、俺も密かにソワソワしていた。
そしてもう一人。
「はぁ」
落ち着かずソワソワしている彼女が、夜のベランダで一人、星を眺めていた。
「シトネ?」
「あ、リンテンス君」
時計の針は日を跨ぎ、夜空には真ん丸の月が輝いている。
俺はシトネの隣まで歩み寄って、一緒に星を見る。
「眠れないのか?」
「うん」
「合格発表のこと?」
「うん、正解」
「心配しなくても良いって。あの成績で落ちてるわけないから」
「そうだと良いな~」
シトネは星を見つめながら小さく微笑む。
どこか切なげで、表情と言葉が一致していない違和感に気付く。
「そんなに不安か?」
「だってほら、私はこれだから」
シトネは自分の耳に触れる。
彼女は獣人の先祖返りで、たったそれだけのことで周囲からの印象は悪い。
ケモノ臭いとか、劣等種族とか。
あることないこと散々に言われてきたのは、試験の日に伝わった。
「それこそ心配いらないよ。あそこは優秀な魔術師を育てるためだけの学校だ。家柄も、人種も関係ない。注目されるのは才能があるかどうか。シトネは間違いなく、その条件を満たしているよ」
「そう……かな?」
「ああ。師匠も褒めていたしな」
「本当?」
俺は頷いてから補足する。
「独学にしては洗礼されている。磨けばもっと光る石だって。聖域者が言うんだから、もっと自信をもって良いと思うぞ」
「そっか。ありがとう、リンテンス君」
「いや、言ったのは師匠だぞ?」
「うん。でも今、私のことを気にかけてくれるのはリンテンス君ででしょ? だからありがとうって」
シトネはそう言って微笑んだ。
夜空の月明りの所為か。
その笑顔は妖艶で、見惚れてしまいそうだ。
「ど、どうしたしまして。ちょっとは自信もてたか?」
「うん! あーでも、明日になったらまた不安になるかも」
「何だそれ」
「だって気になるんだもん。大丈夫かなーって」
シトネは小さくため息をもらし、ベランダの柵に腕をのせる。
気持ちはわからなくもないけど……
「そんなんじゃ一日もたないぞ」
「う~ん……」
「ならば良い提案があるぞ!」
唐突に後ろ、ではなく頭上から声が聞こえた。
思わず上を振り向くと、プカプカと浮遊して俺たちを見下ろす師匠がいた。
「アルフォース様!?」
「し、師匠!? いつからそこに?」
「ん? 君たちが話し始めてからだよ」
つまりずっといたのか。
まったく気付かなかった。
「よっと! 話は聞かせてもらったよ。こういう時は年長者である僕に任せたまえ」
師匠はベランダに降り立って、わざとらしく大げさに、両手をぶおんと振って語り出す。
活き活きとした表情。
こういう時の師匠は、何か悪いことを考えている場合が多い。
俺は疑り深く師匠をじとーっと見つめる。
「そんな顔をしないでくれ。何、ちょっとした提案だよ」
「……一応聞きましょうか」
「うむ! 明日は君が彼女に王都の街を案内してあげるのはどうかな?」
「えっ、案内ですか?」
思ったより普通の提案で、少し拍子抜けした。
師匠は続けて言う。
「そうだとも! 落ち着かないというのなら、他のことで気を紛らわせればいい。聞けば王都に来たのは初めてだと言うじゃないか。これからのことを考えたら、一度くらいちゃんと案内してげたほうがいいのではないかな?」
「た、確かにそうですね」
おかしい。
師匠にしてはまともな提案すぎる。
いつもならもっとエグイ提案をしてくるのに……何か裏があるんじゃないか?
とか考えつつ、シトネの意見を聞くことに。
「シトネはどう?」
「ぜひ!」
「お、おう……そうか」
こっちは予想より食い気味で、ちょっと引いてしまった。
さっきまで不安だとか言っていた癖に、ワクワク顔で見てくるんだもんなぁ。
「よーし! それじゃ明日はデートで決まりだね!」
「で……」
デート?
え、あ……いや、そうなるのか。
今さら気づいた。
師匠が活き活きしていた理由はこれか。
今はニヤニヤしているし。
「べ、別にデートじゃないでしょ。というか案内なら師匠もくればいいじゃないですか」
「なーにを言っているんだい君は~ まったく鈍感だな。そんなんじゃモテないぞ~ それとも一人で案内する自身もないのかな?」
イラッ!
これが師匠と会ってから、一番イラついた瞬間だった。
表情とか言い方とか、どこにイラついたか考えるともっと腹がたつ。
「わかりましたよ! じゃあ師匠は家から出ないでくださいね!」
「はっはっはっ、仕方ないな~ 明日は二人で楽しんできなさい」
「あと食事も自分で作ってください」
「えっ……そ、それは困るな~」
注意:師匠は料理がドヘタです。
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