優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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アカキツネと守り神

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 夜になった。
 夕食をご馳走になり、お風呂も貸してもらえた。
 野宿も覚悟していたから、身体を綺麗にできる機会はありがたかった。
 それに加えて一人一部屋、布団もある。
 床に布団を敷いて眠るのは、なんだか前世を思い出す。

「懐かしいなぁ」

 ベッドを買うまでは、布団を敷いて眠っていた。
 身体が弱くて、徐々に起き上がるのもつらくなってからは、両親が心配してベッドを買ってくれた。
 わざわざ高くていいベッドを用意してくれて、嬉しい反面、申し訳なかった。

「二人とも……どうしてるかな」

 前世に未練がない、と言ったら嘘になる。
 私が死んでも、両親は元気だし、今も生きているだろう。
 悲しんでいるだろうか。
 十八年も経ったなら、気にせず自分たちの幸せを追い求めてほしい。
 それが私の願いだ。

「……」

 眠れなかった。
 布団が久しぶりだからじゃなくて、気になったから。
 老夫婦のことだ。
 二人の子供は、全員王都にいるらしい。
 それぞれに家庭があって忙しく、あまり顔も出せなくなっているとか。
 仕方ないことだけど、二人とも寂しいはずだ。
 それにこの村のことも……。

 私は窓を開けて、畑を眺めた。
 月明かりに照らされて、少しだけ明るい。
 涼しい風が吹く。

「眠れないのか?」
「――え? ファルス様?」

 突然声をかけられてビックリした。
 声は横から聞こえるけど、もちろん部屋には私しかいない。
 理由はすぐにわかった。
 窓から身を乗り出して、横を見る。

「こんばんは」
「ファルス様も、外を見ていたんですね」
「うん、なんとなくね。気になったんだよ。この村のことが」
「ファルス様も……」

 奇しくも私たちは、同じことを考えていたらしい。
 ファルス様が提案する。

「少し散歩しないか?」
「はい」

 私は提案を快く受け入れて、二人でこっそり抜け出した。
 老夫婦は寝入っていて、私たちが出かけたことに気が付かない。
 少し悪いと思いつつ、私たちは夜の村を歩く。

「思った以上に広いね」
「そうですね。それに……」

 畑が至る所にある。
 建物よりも大きくて広い。
 二人が言っていたように、この村は農業が盛んなようだ。

「畑だった跡もある。人口が減って、畑の広さも管理できる大きさに縮小したみたいだね」
「みたいです」

 建物はいくつか空き家だった。
 お年寄りが多いから、まだ日付も変わる前なのに明かりが完全に消えている。
 二人の話では、若い世代はまったく残っていないそうだ。
 
「ここまま行けば、十数年後にはこの村はなくなるだろうね」
「……そう、ですね……」
 
 仕方がないことだ。
 始まりがあれば、終わりもある。
 世の中、永遠に続くものなんて存在しない。
 子供たちは外へ出た。
 その選択自体は間違いじゃないし、応援されるべきだろう。
 それでも……。

「寂しいですね」
「そうだね」

 何かできることはないだろうか。
 私たちはそう思いながら、夜の村を歩く。
 そして、小さな祠にたどり着いた。

「ファルス様、ここって」
「二人が言っていた村の守り神の……ミモザ、僕の後ろに」
「ファルス様?」
「何かいる」
「え?」

 祠から不思議な気配が漂っていた。
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