優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

文字の大きさ
19 / 28
キツツキと樵

1

しおりを挟む
 旅をするのは初めてだった。
 前世を含めても、同じ場所に長くいることがほとんどだったから。
 今さら思う。
 常に屋根があって、温かな布団があったことは恵まれていたと。

「もう遅いし、今夜はここで休憩にしよう」
「はい」

 旅をしていれば、野宿をする機会もある。
 王都を出発して二日目の夜。
 老夫婦の村を出発した私たちは、森の中で夜を迎えて野宿をすることになった。

「枝を集めよう。火を起こさないと、それから調理も」
「料理なら私がやります」
「ありがとう。じゃあ僕は火を起こす準備をしておくよ」
「はい!」

 簡単に役割分担をした。
 ファルス様は小枝を集め、火を起こす。
 その間に私は、食材を水で洗って、調理の準備をした。
 食材は老夫婦からの差し入れだ。
 村で取れた野菜や穀物を、少しだけ分けて貰えた。
 いいことをすると、自分にもいいことになって帰ってくる。
 ファルス様が言っていた通りだ。

 火をおこし、鍋を置いて野菜を煮る。
 簡単なスープ作りだ。
 
「助かるよ。僕は料理が苦手でね。いつもは仲間に任せていたんだ」
「そうだったんですね」

 役に立てたのならよかった。
 料理と呼ぶには簡単すぎて、もっと調理器具があればと思ったけど、野宿中に贅沢は言えない。
 それでも次は、もう少し手の込んだ料理をしたい。
 道具が揃っていなくてもできる料理を考えておこう。

 夕食をとって眠る前に、私は一日の出来事を日記に記す。
 ずっと続けている日課だ。
 
「日記をつけているんだね?」
「はい」
「どんなことを書いているんだい?」
「えっと、いろいろです」

 ファルス様が日記に興味を示した。
 内容を知りたそうだったけど、少し恥ずかしくて隠してしまった。

「無理に覗く気はないから安心して」
「い、いえ! 見てもらってもいいんですが……恥ずかしくて」

 特別なことを書いているわけじゃない。
 その日に何があったか、とか。
 何を思ったのか。
 明日は何をしよう?
 これからの目標は決まったか。
 そういう私の気持ちもハッキリと書いてあるから、心を見せるみたいで恥ずかしい。

「さっきも言ったけど、無理に覗く気はないよ。でも、興味はある。君がこれまで何を想い、何を感じていたのか」
「……」

 恥ずかしい……けど。
 そんな風に期待されると、見せてもいいかな?
 なんて、思ってしまう自分がいて。

「ど、どうぞ」
「ありがとう。じゃあ見させてもらうね」

 ファルス様に日記帳を手渡した。
 彼はページをめくり、私が書いた日記を見つめる。
 やっぱり恥ずかしい。
 少しでも恥ずかしさを誤魔化すために、日課の鶴を折り始める。

「……君らしいね」
「え? 私らしい……ですか」
「うん。やっぱり君は、僕の思った通りの人だった」

 そう言って、彼は日記帳を閉じた。
 短い時間だった。
 たぶん数日分の内容しか見ていないけど、彼には何かが伝わったらしい。
 噛みしめるような横顔で頷き、日記帳を私に返す。

「ありがとう」
「どう、いたしまして?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

役立たずと追放された辺境令嬢、前世の民俗学知識で忘れられた神々を祀り上げたら、いつの間にか『神託の巫女』と呼ばれ救国の英雄になっていました

☆ほしい
ファンタジー
貧しい辺境伯の三女として生まれたリゼット。魔力も持たず、華やかさもない彼女は、王都の社交界で「出来損ない」と嘲笑われ、挙句の果てには食い扶持減らしのために辺境のさらに奥地、忘れられた土地へと追いやられてしまう。 しかし、彼女には秘密があった。前世は、地方の伝承や風習を研究する地味な民俗学者だったのだ。 誰も見向きもしない古びた祠、意味不明とされる奇妙な祭り、ガラクタ扱いの古文書。それらが、失われた古代の技術や強力な神々の加護を得るための重要な儀式であることを、リゼットの知識は見抜いてしまう。 「この石ころ、古代の神様への捧げものだったんだ。あっちの変な踊りは、雨乞いの儀式の簡略化された形……!」 ただ、前世の知識欲と少しでもマシな食生活への渇望から、忘れられた神々を祀り、古の儀式を復活させていくだけだったのに。寂れた土地はみるみる豊かになり、枯れた泉からは水が湧き、なぜかリゼットの言葉は神託として扱われるようになってしまった。 本人は美味しい干し肉と温かいスープが手に入れば満足なのに、周囲の勘違いは加速していく。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...