優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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キツツキと樵

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 私は日記帳をしまい、折り紙作りを続ける。
 それを隣で彼が見つめる。

「鶴を折っているんだね」
「はい。日課なので」
「あれからも続けているんだ? 今は千と二羽目かな?」
「はい。そうですけど、私にとってはこれで二羽目だと思っています」
「どうして?」
「千羽鶴はもう完成したからです」

 千羽鶴はその名の通り、千羽の鶴が一つに集まったものだ。
 多くの人の願い、想いの集合体。
 かつて私を支えてくれた宝物を、私はこの世界で作り上げた。
 自分一人の手で、数年をかけて。
 そして千羽目を最後に、私は勇者パーティーの一員となった。

「私も勇者パーティーの一員になったので、心機一転といいますか。また一から頑張ろうという意味を込めて、二羽目です」
「なるほど。それも君らしいね」
「私らしい……ですか。どんなところが、私らしいんですか?」

 気になったから自然に、今なら聞けそうだと口にした。
 私らしさとは何だろう。
 ファルス様は感じてくれているみたいだけど、私自身にはわからない。
 耳を傾ける。
 ぱちぱちと、炎が燃える音がする。

「真面目で、誠実で、いつだって誰かの幸せのことばかり考えていることだよ」

 彼は燃える焚火を見つめながらそう言ってくれた。
 内容的に、褒められている?
 それにしては、少しだけ寂しそうな横顔が印象的で……。

「旅にはいろんな出会いがあって、別れもある。多くを経験すれば、人としても成長する。君にもきっと、いい経験になるはずだ」
「――? はい」

 表情の理由はよくわからなかった。
 けれど、彼の言葉は不思議と心に響く。
 この旅路で、私は人として成長していけるだろうか。

  ◇◇◇

 ミモザがいなくなった宮廷では、ユリアが新魔導具の開発に勤しんでいた。
 山積みになった書類は、研究資料だけじゃない。
 普段の仕事で処理する書類も混ざっている。

「あーもう!」

 彼女は苛立っていた。
 普段は雑務のほとんどをミモザに任せていたから、自分でやることがなかった。
 ミモザが働いている間、彼女は遊んでいた。
 当の本人に遊んでいたという自覚はないが、仕事時間にお茶会をしたり、男と楽しく話したり……紛れもなくサボっている。
 これまで誰も注意することがなかったのは、仕事が滞らなかったから。
 しかし今、徐々に変化が現れた。

「こんな雑務をどうして私が……ミモザ! この資料――!」

 声をかけても、返事はない。
 当然だ。
 彼女はもう、この宮廷にはいないのだから。

「……っ」
 
 苛立ちは増す。
 自分が大変な想いをしている中、彼女は今頃勇者と仲良くやっている。
 そう思うとさらに腹が立って、仕事が雑になる。
 ミスをして、その修正に時間をとられる。

「これじゃ……研究なんてしてる暇ないじゃない」

 言葉通り、なかった。
 通常業務だけでも忙しく、仕事時間に研究をすることなど不可能である。
 やりたければ職務外に、自主的にやるしかない。
 他の魔法使いたちもそうしている。
 だが、彼女はそれが許せない。
 自分の時間を削ってまで、働く意味が理解できなかった。

「これで終わり。もう時間もないわね。今日はここまでに……」

 毎日の仕事を終わらせるだけで疲れ果て、研究する体力もない。
 そうやってずるずると日が過ぎて行く。
 このままでは何も変わらない。
 どころか、研究時間がなければ新しい成果も発表できない。
 これまで彼女が研究に没頭できたのは、それ以外の雑務や仕事をミモザに押し付けていたから。
 それが出来なくなった今、彼女の負担は増していた。
 否、戻ったのである。
 本来これが、彼女に与えられた時間なのだから。

「明日こそ……」

 そう思って一日を終える。
 明日が来ても、何も変わらない。
 彼女はまだ気づいていない。
 ミモザが去ったことによる大きな影響に。
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