優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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キツツキと樵

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 翌朝、私は音で目を覚ました。

 トン。

 何かを叩く音だった。

「ぅ……」

 馬車の中にまで響く音。
 まだ聞こえる。
 
 トン、トン――

「何の音?」

 目が覚めて起き上がる。
 馬車の外、森のどこかから音が響いていた。
 私は馬車から降りる。

「おはよう、ミモザ」
「おはようございます。ファルス様」

 私より先にファルス様は目覚めていた。
 出発前に昨日の焚火の片づけをしてくれているみたいだ。

「すみません。私も手伝います!」
「大丈夫。もうすぐ終わるから」
「いえ、手伝います!」

 すべて一人でやらせてしまって申し訳ない。
 終わりかけだけど、私も手伝う。
 何かしないと気が済まない。

「本当に真面目だね」

 これは真面目とかじゃなくて、ただ当たり前のことだと思うけど……。
 片づけはほとんどやらせてしまったし、他にできることはないかと探す。
 その最中も、どこかでトントンと音が聞こえた。

「あの、この音って……」
「十分くらい前から聞こえているね。森の中からだ」
「何なんでしょう? 何かを叩く音みたいですけど」
「たぶん、木を切っているんじゃないかな?」

 ああ、そういう音なのか。
 言われてみれば、叩くというより切っている音に聞こえてくる。

「樵さんでしょうか」
「たぶんね。朝早くから頑張っているみたいだ」
「そうですね」

 樵は大変な仕事だ。
 肉体労働だし、単純作業だから続けるのも疲れる。
 前世のように機械があれば簡単だろうけど、この世界は科学技術の発展が遅い。
 魔法という特別な力がある影響で、それ以外の技術発達が遅れているみたいだ。
 遠い国の中には、科学によって発展した国もあるみたいだけど、この辺りの生活は魔導具によって支えられている。
 街での暮らしは豊かだけど、魔法が仕えない一般人には不便なことも多いだろう。

「邪魔をしてはいけないし、もう出発しよう」
「そうですね」

 森を抜けて、勇者パーティーの仲間がいる街まで急ごう。
 予定では一週間くらい馬車を走らせて到着する距離だった。
 
「この先は山越えもある。気を引き締めて行こう」
「はい」

 片づけを終えて、馬車に乗り込んだ。
 操縦を教わるために、私はファルス様の隣へ座る。
 馬車が走る。
 樵の音が徐々に近くなっていた。

「この辺りで切っているみたいですね」
「そうみたいだね。切り倒された木の跡が……」
「ファルス様?」

 何やら険しい表情を見せる。
 空気が変わる。

 直後、ドシンと大きな音が響いた。
 何かが倒れた音だ。
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