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序章

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 囚われている女性を除けば、数は十七。
 うち一人は今の接近で倒した。
 残るじゃ十六。
 全員が男で、数名は武器を所持していると見るべきか。

「さて、憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ」
「何だこのガキ!」

 男の一人が背中から長物を取り出す。
 一目見てわかった。
 鍔も銘もない。
 極道なら持っていても不思議じゃないとは思っていたけど、期待以上だ。

「それをよこせ!」
「へ?」

 無刀取り。
 刀を持たない場合に、相手が刀を抜いたところで手を掴み奪い取る技。
 隙だらけで簡単だったぞ。

「てめぇ返……せ……」

 振りぬいた刃は刀の持ち主の胴を切り捨てる。
 模造刀ではなかったようだ。
 俺は切っ先を見ながら笑みを浮かべる。

「うん、悪くないな。ちょっと長さが足りないし、重さがしっくりこないけど及第点だ」
「こ、こいつ……斬りやがったぞ」
「笑ってやがる。サイコパスか……」
「女の子を攫って襲おうとしている男たちに言われたくないな」

 俺は刀を地面に振り、刃についた血を吹き飛ばす。

「お前たちは悪党なんだろう? 誘拐、強姦は法に触れる。というか法の裏側にいそうな人たちだし、ここで斬っても誰も文句は言わない」
「何を言って……」
「つまり斬りたい放題、試し切り用の束と一緒だ!」
「いかれてやがる! こいつを止めろ!」

 男たちが動き出す前に、さらに二人を切り捨てる。
 何か取り出そうとしていた。
 カランとナイフが落ちる。
 やっぱり丸腰の男は一人もいなさそうだ。
 早々に刀を奪えたのはラッキーだったと言える。
 続けて武器の取り出しに間に合った男たちに視線を向ける。
 ナイフに、メリケンサック、一人は俺と同じ刀か。

「面白いな」
「この!」

 ナイフで斬りかかる若い男を軽くあしらう。
 長物に対して間合いを詰めるのはいい判断だが、隙が大きすぎる。
 それじゃ斬ってくださいと言っているようなものだ。
 メリケンの男も同様。
 拳が当たるより、刀を振るうほうが早い。

「手が! 俺の手があああああああああああああああああ」
「このやろう!」

 男が刀を上段から振り下ろす。
 俺はそれを頭上で受け止め、そのまま刀を斜めに倒して受け流す。

「は?」
「刀の使い方がなってない」

 隙だらけになった胴体に横なぎの一閃。
 瞬く間に七人が倒れ込む。
 ここまでは順調。
 裏稼業の人たちもこの程度かと落胆したところで、バンっと大きな音が響く。
 目に見えない光が、俺の横をかすめて行った。

「ああ、そうか、もってるよな……」

 男の一人が拳銃を握り、銃口をこちらに向けていた。
 
「クソガキが、なめんじゃねーぞ!」
「別に舐めてない。けど、ありがたいな」
「は?」
「飛び道具とも一度戦ってみたかったんだ!」

 幕末には拳銃も流通し始め、戦いの場には剣以外も積極的に用いられれる様になった。
 もはや剣術は時代遅れ。
 そう言われた時代ですら、剣一本で戦った大馬鹿たちがいる。
 彼らが銃とどう戦ったのか。
 研究するだけじゃ物足りなかったところだ。

「いかれやろうが! 死ね!」

 二発目を放つ。
 俺は瞬時に横へ飛び、球を避けた。

「は!?」

 拳銃の弾丸は目に見えない。
 どれだけ身体を鍛えても、球を弾いたり斬ったりはできそうにない。
 けれど、拳銃を扱うのは同じ人間だ。
 引き金を引くまでのタイムラグと、視線、銃口の向き。
 それらの情報から撃つ方向とタイミングを予測すれば、球は見えなくても回避はできる。
 理論を実践で試すの初めてだけど。

「案外簡単だな」

 拳銃を躱された同様で焦る男に接近し、そのまま拳銃を持っている腕を斬る。
 訓練された兵士でもない限り、拳銃を使われても大した脅威にはならない。
 だが、俺は失念していた。

 バン!

「ああ……そうか。一人じゃないよな」

 拳銃は一丁ではなかった。
 他にも数名、持っている男たちがいる。
 一発の弾丸が俺の左腹部にめり込み、激痛が走る。

「っ……」
「は! 調子に乗るからだ! 大人しく――」
「油断しすぎだ」

 拳銃を当てた男の懐に潜り込み、切っ先を胸に立ててから切り上げる。
 
「ぐあ……」
「こんなんじゃ致命傷じゃない。痛みは我慢すればどうとでもなるんだよ」
「こいつ……化け物かよ……」

 とはいっても出血は止まらない。
 長く戦えばこちらがフリ。
 ここからは様子見なしだ。
 残る拳銃は三丁、先にあいつらを殺す。

「こいつ仲間を!」

 まだ生きている男たちを盾に使う。
 動きで翻弄して、仲間で遮ればやつらは撃てない。
 撃ったところで当たらない。
 そのまま残りも切り抜け、確実に数を減らしていく。
 
 四、三、二――

「最後の……一人か」

 残ったのは拳銃を持つ男。
 恐怖で震えながら銃口をこちらに向けている。
 すでに出血でふらふれで、体力も残りわずか。
 撃てば殺せるのに撃たないのは、この死体だらけの惨状に怯えているからだ。
 こちらにとっては好都合。
 もはや大きく振るう力も残っていない。
 
 天然理心流――平晴眼。
 たとえ己が死しても相手を斬る。
 それこそが天然理心流の極意。
 半身で腰をおとし、切っ先を相手の左目辺りに向ける。
 突き技は強力だが、外れれは次はない。
 大きな隙を作り斬られてしまう。
 そんな固定概念を破壊したのが、幕末で最強と呼ばれた天才剣士。

 神速の三段突き。
 天然理心流の奥義!

「無明剣」
「うわああああああああああああああああ」

 バン!

 銃声が鳴り響く。

「……がはっ……」
「くそ、やっぱり三段ほぼ同時なんて無理だろ」

 俺の切っ先は相手の喉を捉えていた。
 そして、相手の銃弾も、俺の心臓を撃ちぬいていた。
 ほぼ同時に倒れ込み、仰向けになる。

「はぁ……っ……」

 苦しいけど痛みは薄い。
 このまま俺は死ぬんだろう。
 助けた女の子が何か叫んでいるのがわかった。
 近くにいるはずなのに声がほとんど聞こえない。
 そういえば手足のロープ、解いてあげてなかったな。
 まぁ、敵はいないし自力でなんとかしてもらおう。
 俺には動く力も残っていない。

 結局……叶わなかったなぁ。
 けど最後に、武士らしいことができたよ。
 命を懸けても誰かを守る。
 名だたる武士たちは皆、己が心と定めた者に従い、主のために剣を振るったのだから。

 ああ、でも……。
 もし次があるなら、俺が本物の武士になれる世の中で……。

 生まれ変わりたい。
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