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第一章
6.お昼休み
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新しい朝がやって来る。
憂鬱だった昨日までとは違う朝。
窓から注ぎ込む日差しも、小鳥のさえずりさえも煩わしかったのに、今日は全てが心地良い。
まるで、新しく自分が生まれ変わったような感覚だ。
「よーし!」
張り切って料理をしよう。
こんな風に気合いを入れるのも久しぶりだ。
ブロア様に作るときは、何だか習慣化しすぎていて、今日も作るのかと思ったこそさえある。
初めの頃は美味しいと言ってくれて嬉しかったのに、最近はまったく感想も言ってくれなかったし。
そう考えると、ブロア様より私のほうが早く冷めていたのかもしれないわ。
お弁当を二人分作り、私は屋敷を出た。
両親は私に何も言ってくれないけど、そこはもうどうでも良い。
私の頭の中は今、愛しい彼のことでいっぱいだ。
彼のことを考えているだけで、不思議と周囲の視線や声も気にならない。
どんなに哀れまれていようと、ジロジロみられていようとも、唯一彼が見ていないのだから意味がないとさえ思える。
これだわ。
彼のこと以外考えられなくなる。
これよ……これこそが本物の恋なのよ。
感情が高鳴っている。
考えているだけでドキドキするなんておかしなことだ。
今の私は、婚約を破棄してくれたブロア様に感謝すらしそうな勢いに達している。
お陰で気付かされた自分の気持ちに、こうして正直になれるのだから。
そして私は気付かない。
私の視界の端で、ブロア様が一人寂しく歩いていることに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
チャイムが鳴る。
待ちに待った昼休みの時間はやってきた。
この時を私は何千年も待っていたと言っても過言ではない。
とかは言い過ぎだけど、私はお弁当を大事に抱え、彼が待つ木の下へ駆ける。
「あっ! クラスを聞いておけば良かったわね」
そうすれば一緒にあの場所まで行けるのに。
後から気付いてガッカリしつつ、会ったら聞きたいことを頭の中で思い浮かべる。
好きな食べ物は必須よね。
明日から何を作ってくるか変わってくるわ。
あとクラスもそうだし、他に趣味とか。
今まで誰かと付き合ったことがあるのかも……怖いけど知りたい。
本当に四六時中、彼のことばかり考えている自分がいる。
昨日の夜も、彼のことを考えていて眠れなかった。
「ユート」
早く会いたいと名前を口にする。
木々をかき分け、道なき道を真っすぐ進む。
昨日の帰りに、彼が教えてくれた通りの道順で歩いていく。
そうしてまた、あの一本木の下で、彼が本を読んでいた。
さらっと吹き抜ける風。
頁をめくる姿は絵になっている。
彼ほど読書が似合う人は、たぶんこの世にはいない。
ユートが私に気付いた。
本を閉じ、呆れたように笑う。
「本当に今日も来たんだな」
「当たり前ですわ!」
「ふっ、その手に持っているのはもしかして」
「はい! お弁当です!」
私はちょっぴりあざとく、お弁当を自分の顔の横に近づけニコリと笑う。
お弁当だけじゃなくて、ちゃんと私を見てほしいというアピール。
彼は不思議そうに見つめている。
「隣、座ってもいいですか?」
「ああ。来て良いと言ったのは俺だしな」
「ありがとうございます!」
私は彼の横に座る。
昨日よりも近く、肩と肩が触れ合う距離で。
「ち、近くないか?」
「気のせいです」
「き、気のせいなのか?」
「はい! それよりお弁当を食べましょう! 張り切って作ってきましたから」
戸惑う彼をいなしながら、私はお弁当の蓋を開ける。
中を見た彼は、目を丸くして驚いていた。
「おぉ……これ全部君が作ったのか?」
「はい!」
張り切ったと言ったでしょう?
ユートの胃袋を掴めるように、腕によりをかけて作りました。
昨日は見た目も悪かったし、今日は見た目が派手で美味しそうなものを厳選したんですよ。
「凄いな……正直ちょっと驚いたよ」
「ふふっ、味も保証しますわ」
その作戦が功を奏したのか。
ユートは感心してくれている。
そのままユートは、一口ぱくりと食べた。
緊張の一瞬だ。
自信があるはずなのに、どうしても緊張してしまう。
これも本物の恋の所為だろう。
「どうですか?」
「うん、美味い。昨日よりも美味いな」
美味しいと言ってもらえた瞬間、全身が震えるほど嬉しかった。
頑張って作ったことが報われたと。
何より彼に喜んでもらえたことが嬉しくて、自然と表情が緩んでしまう。
「ありがとうございます!」
「いやだから、お礼を言うのはこっち側だって昨日も」
「美味しいと言ってくれたことへの感謝です」
「……そう。やっぱり変な奴だな」
そう言って、ユートは小さく笑った。
「ん? 何だよ」
「ユートが笑うと私も嬉しいなって」
「うっ、笑ってないぞ」
「笑いましたよ! 私の記憶にはしっかり残ってますから!」
「消してくれ……」
「嫌です!」
ユートは照れくさそうに目を逸らす。
どうやら彼は、人に笑顔を見られるのが恥ずかしいらしい。
そんなところは可愛くて、また好きになる。
憂鬱だった昨日までとは違う朝。
窓から注ぎ込む日差しも、小鳥のさえずりさえも煩わしかったのに、今日は全てが心地良い。
まるで、新しく自分が生まれ変わったような感覚だ。
「よーし!」
張り切って料理をしよう。
こんな風に気合いを入れるのも久しぶりだ。
ブロア様に作るときは、何だか習慣化しすぎていて、今日も作るのかと思ったこそさえある。
初めの頃は美味しいと言ってくれて嬉しかったのに、最近はまったく感想も言ってくれなかったし。
そう考えると、ブロア様より私のほうが早く冷めていたのかもしれないわ。
お弁当を二人分作り、私は屋敷を出た。
両親は私に何も言ってくれないけど、そこはもうどうでも良い。
私の頭の中は今、愛しい彼のことでいっぱいだ。
彼のことを考えているだけで、不思議と周囲の視線や声も気にならない。
どんなに哀れまれていようと、ジロジロみられていようとも、唯一彼が見ていないのだから意味がないとさえ思える。
これだわ。
彼のこと以外考えられなくなる。
これよ……これこそが本物の恋なのよ。
感情が高鳴っている。
考えているだけでドキドキするなんておかしなことだ。
今の私は、婚約を破棄してくれたブロア様に感謝すらしそうな勢いに達している。
お陰で気付かされた自分の気持ちに、こうして正直になれるのだから。
そして私は気付かない。
私の視界の端で、ブロア様が一人寂しく歩いていることに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
チャイムが鳴る。
待ちに待った昼休みの時間はやってきた。
この時を私は何千年も待っていたと言っても過言ではない。
とかは言い過ぎだけど、私はお弁当を大事に抱え、彼が待つ木の下へ駆ける。
「あっ! クラスを聞いておけば良かったわね」
そうすれば一緒にあの場所まで行けるのに。
後から気付いてガッカリしつつ、会ったら聞きたいことを頭の中で思い浮かべる。
好きな食べ物は必須よね。
明日から何を作ってくるか変わってくるわ。
あとクラスもそうだし、他に趣味とか。
今まで誰かと付き合ったことがあるのかも……怖いけど知りたい。
本当に四六時中、彼のことばかり考えている自分がいる。
昨日の夜も、彼のことを考えていて眠れなかった。
「ユート」
早く会いたいと名前を口にする。
木々をかき分け、道なき道を真っすぐ進む。
昨日の帰りに、彼が教えてくれた通りの道順で歩いていく。
そうしてまた、あの一本木の下で、彼が本を読んでいた。
さらっと吹き抜ける風。
頁をめくる姿は絵になっている。
彼ほど読書が似合う人は、たぶんこの世にはいない。
ユートが私に気付いた。
本を閉じ、呆れたように笑う。
「本当に今日も来たんだな」
「当たり前ですわ!」
「ふっ、その手に持っているのはもしかして」
「はい! お弁当です!」
私はちょっぴりあざとく、お弁当を自分の顔の横に近づけニコリと笑う。
お弁当だけじゃなくて、ちゃんと私を見てほしいというアピール。
彼は不思議そうに見つめている。
「隣、座ってもいいですか?」
「ああ。来て良いと言ったのは俺だしな」
「ありがとうございます!」
私は彼の横に座る。
昨日よりも近く、肩と肩が触れ合う距離で。
「ち、近くないか?」
「気のせいです」
「き、気のせいなのか?」
「はい! それよりお弁当を食べましょう! 張り切って作ってきましたから」
戸惑う彼をいなしながら、私はお弁当の蓋を開ける。
中を見た彼は、目を丸くして驚いていた。
「おぉ……これ全部君が作ったのか?」
「はい!」
張り切ったと言ったでしょう?
ユートの胃袋を掴めるように、腕によりをかけて作りました。
昨日は見た目も悪かったし、今日は見た目が派手で美味しそうなものを厳選したんですよ。
「凄いな……正直ちょっと驚いたよ」
「ふふっ、味も保証しますわ」
その作戦が功を奏したのか。
ユートは感心してくれている。
そのままユートは、一口ぱくりと食べた。
緊張の一瞬だ。
自信があるはずなのに、どうしても緊張してしまう。
これも本物の恋の所為だろう。
「どうですか?」
「うん、美味い。昨日よりも美味いな」
美味しいと言ってもらえた瞬間、全身が震えるほど嬉しかった。
頑張って作ったことが報われたと。
何より彼に喜んでもらえたことが嬉しくて、自然と表情が緩んでしまう。
「ありがとうございます!」
「いやだから、お礼を言うのはこっち側だって昨日も」
「美味しいと言ってくれたことへの感謝です」
「……そう。やっぱり変な奴だな」
そう言って、ユートは小さく笑った。
「ん? 何だよ」
「ユートが笑うと私も嬉しいなって」
「うっ、笑ってないぞ」
「笑いましたよ! 私の記憶にはしっかり残ってますから!」
「消してくれ……」
「嫌です!」
ユートは照れくさそうに目を逸らす。
どうやら彼は、人に笑顔を見られるのが恥ずかしいらしい。
そんなところは可愛くて、また好きになる。
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